- Everlasting scar - 永遠の傷跡
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- Everlasting scar Ⅹ -
とても澄んだ自然の香りがする
水と緑の草木の生命の香り
さらりと顔に落ちる柔かくもくすぐったいそれに彼女は薄っすらと瞳を開けた。
月明かりに反射する銀の髪と真っ白の絹の様な肌が一番に目に入る
横顔しか見えなくとも、知らない男性。
それを見上げながら彼女はただ呆然と見つめる。
自分の体を支えているであろうその男性は未だ一点を見つめていた。
-…蔵馬…よく、も…この、狐風情が-…
「感謝するぞ、よく俺の前に現れてくれた。」
異形の生物に笑みを浮かべる銀髪の男。
(……これは、だれ??)
-よく、も…よくも、よくもよくもよくも-…蔵馬!!!!
おまえは-…ころす!!!!
目の前のソレに水面から伸びた魔界の蓮が何本もその体を突き抜けている。
それを引きちぎろうにも水面に増えて行く蓮は体を突き破って行く。
「魔界の蓮は凶暴だ。人間界の蓮は朝に咲くが、魔界の蓮は夜だ。近づいたもの危害を加えるものを養分とし夜に咲き誇り、朝に枯れる。」
何本もの蓮が終わる事無く体を突きぬけそれぞれの蓮が花を咲かせていく。
(…魔界??)
「……おまえは二度も俺に厄介な感情を与えてくれた。死ね。」
さらに速度を増し突き刺さる蓮。
-…ぐ、ぐわ、ぐわぁぁぁぁ!!!!
異形の断末魔が響く。
緑の茎に覆われ花がその体を囲うように咲き乱れて行く…
そして、静寂が戻る-…
「しゅう、ちゃん??…。」
だがそれを破ったのは狐の腕に抱かれたままの彼女だった。
「……。」
「怪我、してる。」
彼の額に指を伸ばす。
流れる血…
所々にある痛々しい傷-…
それは彼が秀一である事を現していた。
彼女の伸びた手を掴めばそれを祈るように額に当てる。
「すまない、二度も危険な目に合わせた。」
苦しげに顔を歪める狐。
「……二度目?」
「あぁ…心臓に悪い。」
「……秀ちゃんって、呼んでいいのかしら??それとも、蔵馬??」
確か先程の異形のものはそう呼んでいた…
「どちらでもかまわない。どちらも俺だ。」
握ったままの手を彼は口元へ寄せる。
「ありがとう…蔵馬。助かったわ…。」
身を起こす彼女。
若干体が痛いものの、目の前の彼に比べればどうって事ない。
彼の白装束が先程よりも赤く染まって行く。額に滲む血と汗。
それがなにより重症の証。
こうやって普通に話しているのも辛いに違いない。
じっとこちらを見据える蔵馬。
何か言いたそうにしているそれを彼女はわかっていた。
「…大丈夫だよ。秀ちゃんには変わりない。びっくりはしたけど。この自体がそもそも凄過ぎて変身もありえるかも。」
テレビの中だけじゃないんだね。と笑う。
「……。」
「現実は小説よりも奇なりっていうし。」
「…怖くない、か?」
それに、きょとんとする彼女。
すぐに頬を緩めるその表情と伸ばされる手が狐の耳に触れる。
「…怖いって言うよりー…かわいい。これって、犬??…違うか、さっきのアレ、狐って言ってたっけ?」
ふわふわだね。と笑う彼女に金の瞳が揺れる。
「それよりもー…」
彼女は眉を寄せ白装束に触れる。
「病院、この姿で行ったらまずいよね?救急車呼びたいんだけど。」
「大丈夫だ。じっとしてれば回復する。妖怪の体は人間より自己治癒力が高い。」
(妖怪…魔界…)
「……。ならタオルかなんか取ってくー…」
るー…、そう言いかけ立ち上がろうとするも抱きしめられる。
「行かないで、こうしてて。」
声色が変わっていく。
目に入る銀色の髪は緩やかに赤に変わっていくー…
彼の胸に顔を押し付けられれば、聞こえる鼓動。
生きている証。
彼はちゃんとここでこうして生きている。
それに酷く安心する。
何も変わらない。
妖怪でも魔界という場所が出身地でも…
彼が何者であろうと、生きてくれているのなら何も問題などない。
そんな中、彼女の肩に置かれた彼の手がゆっくりと体を引き剥がす。
それにどうしたのかと見上げた彼女の顔に、ゆっくりと落ちて来る翡翠の瞳。
(え?)
それに驚いて思わず俯く。
「…いや?」
頭上から艶のある甘い声が囁かれる。
(いや?…いやいや、そうじゃなくて、そもそも何かおかしいでしょ!?)
バクバクとなる心臓。
五つも年下の男性に動揺させられるとは。
「あの、雰囲気に酔って流されるのはどうかと思うの。第一私たち幼なじみだし、一時の間違いでそういうのはこれからの関係を危うくするというか、なんたらかんたらでー…」
「…俺はずっと触れたかったよ。君がずっと好きだったから。」
「……へ!!?」
思わず耳を疑う言葉に顔をあげる。
ばっちりと翡翠の瞳と目が合う。
それに一瞬目を見開く彼だったが、すぐに緩ませた。
「俺、結構アピールしてたんだけどなぁ。」
(アピール!?まさか、あの意味もなく苛めたりからかわれていたあれが!?)
「でも、いい加減我慢できなくって。触りたくて抱きたくて仕方なかった。」
「なっ…」
(なんて事を言うんだ。なんて事言うんだ、この子!!)
真っ赤になり口をパクパクさせる彼女に、彼はその頬に手を添える。
「…やっぱり、気持ち悪い?」
「な、何が??」
(何がなんだかもうわからん!!)
「俺、普通の人間じゃないし。」
「へ??…いやいや、そのおかげで私命拾いしてるし、秀ちゃんは秀ちゃんだよ。そりゃ驚いたけど、嫌じゃないよ??」
しゅんとする彼に必死で言う。
本来ならば気持ち悪いのだろうか…得体が知れないと??
不思議なものでそういった感覚は一切生まれないのだ。
説明なんかできない。
ただ彼は彼…
今だって好意を持たれていた事がこんなに嬉しい。
(ん?嬉しい??いや、待て待て私。)
無言で見つめ合う事、数秒。
「…本当に?」
伺う様に言う彼に強く何度も頷く。
「よかった。」
それに次の瞬間、花が咲く様に笑う彼に心臓が止まりそうになる。
さらにぎゅっと抱きしめられればもう死にそうだ。
(何かがおかしい、おかしすぎる。しっかりしろ私!!)
「すごい心臓の音だね。」
「!!」
「返事はすぐじゃなくていいから。でもあんまり待たせないで。色々我慢してるんだから」
甘い声が耳を擽る。
(だ、だめだ…もうマジで頭がくらくらする)
「でも、キス位いいよね。一回してるし。」
明るい声が響けば、再び顔を覗き込まれる。
「……。」
(この子は返事を待つと言ってなかっただろうか…?)
「はは、そんな顔しないでよ。栄子。」
緩やかに落ちてくる細まる翡翠に眩暈がした。
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