- Everlasting scar - 永遠の傷跡
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- Everlasting scar Ⅲ -
『しゅうちゃんはわたしが守ってあげる!!!』
幼い俺の手をいつも君が手を引いてくれていた。
妖狐の俺にそんなものは必要ない。
いざとなれば子供の身でも一人で生きてだっていけるんだ。
『わかった??いじめられたらずぐ私に言うんだよ??私はしゅうちゃんのおねぇちゃんなんだから。』
…こんなに馬鹿な姉など願い下げた。
守るといいながら少女には幼い秀一ながら手を焼いていた。
目を離せばすぐに転び、知らない大人に声を掛けられれば付いて行こうとする。
それも決まって好きな食べたいもの買ってあげるよ…
といった類だ。
食いしん坊は昔から変わらない。
こんな奴を姉だとも思えるわけがない。
だけど-…
こんな俺でも一時は本当に身の危険を感じた事もあった。
まだベビーカーに頼る赤ん坊の俺は母親が一瞬目を離した隙に知らない女に連れて行かれた事が一度だけ会った。
女の目は虚ろで確実に正常ではないと思っていたものの、未発達の手足では地面を歩く所か立つことも出来ずただ女に抱きあげられ連れて行かれた。
『しゅうちゃんを放せ!!!』
そんな女の足に縋りつく栄子。
気が違った女はそんな少女を足蹴にするも、少女は決して諦めなかったのだ。
『私の義弟返せ!!このおばん!!!』
(義弟って意味を知って言っているのか??それに、おばんって-…)
色々と突っ込みたいところ満載だったが自分の声帯もまだ完璧ではない。
あ-あー言うだけの赤ん坊。
いつの間にか女は自分をその場に置けば走って去っていった。
少女のおかげで、人の目が気になったのだろう。
顔に傷を作りながらもにっこりと笑い、自分を抱きかかえる彼女に若干見直す。
『しゅうちゃん怖かったね、よく泣かなかったね、強い強い。』
よしよしと頭を撫でられればどこか変なくすぐったいような気持ちになった。
そして次の瞬間口が動いたと思ったら目の前の少女は目を大きく見開き、破顔した。
自分を抱きかかえ母親の元へ行けばこれでもかと瞳を輝かせ心底嬉しそうにこう言ったのだ。
『しゅうちゃんが、私に『礼を言う栄子』っていったの!!!』
と-…
そんなに流暢にしゃべれたかどうかは定かではないが、彼女にはそう聞こえたらしい。
それに「まぁ…秀一ってば、もう栄子ちゃんの事呼び捨てなのね??」と微笑む自分の母親にがっくりと肩を落としたとは言うまでもない。
結局母親は自分が誘拐されたことなど露知らず、口下手な栄子が説明できるわけもなく…いや、その後出されたお菓子に気を取られ忘れていたのだろう。
馬鹿な人間は好きではない
情などと言うものも理解しがたい
『もっかい栄子ってゆって。しゅうちゃん!!!』
キラキラ光る太陽の様な眩しい笑みが向けられ頬ずりをされる。
うっとおしいー…
構いすぎだ-…
そう思うも自分を見て笑う彼女の顔は嫌いではなかった-…
(…いつからだっけ-…)
教室の窓から夕日が差し込む。
机の上で頬杖を付きただ静かに沈んで行く赤いそれを見つめる彼。
(いつから…俺は彼女を-…)
「南野君…何してるの??」
ふいに掛かる声に、顔を向ければ扉越しから覗くクラスメイトの女子の姿。
「いや、ちょっと…ね。」
「誰も居ない教室で考え事??」
絵になるわね…と笑いながら側までくる。
「そういう君は??あぁ、部活か。」
濡れた髪と肩に掛かるタオルに、彼女が水泳部だったという事を思い出す。
(そういえば、栄子も水泳部だったな。しょっちゅう泳いでたっけ…。)
すぐに思考が彼女の事に擦り替わる自分にどこか末期だな…と呆れる。
「うん。そうなんだけど…。」
と口ごもる彼女に首を傾げる。
「そういえば、早いね。もう終わりなの??」
盟王の水泳部は強くて有名だった。
その分、遅くまで練習をしていたのを知っている。
「えっと、なんか最近プールがおかしくって…。」
「おかしい??」
「うん、毎回、誰かが使った跡があるの。時には備品が壊れてたり…で、誰かが夜に使用してるのかなって話もあがったんだけど…。軽い悪戯だろうって、先生がね。でも気持ち悪いじゃない??…だから、皆暗くなる前に上がるんだ。室内プールは今工事中だから…さ。」
「………。」
「それにね、見張りで行った副顧問の先生は今ずっと入院中なんだよ。どうも点検中にプールに落ちて怪我したらしくって…。」
「……へぇ。それは災難だね。」
「あ、なんか話したら怖くなってきた!!」
ぶるっと震える彼女に、秀一は苦笑する。
「送りましょうか??俺ももう帰るし。」
「本当に??」
その瞬間、ぱぁっと花が咲くように笑顔になる女子生徒に、彼は笑みを浮かべ頷いた。
そして、時としてタイミングとは惨酷。
「あ!!!秀ちゃん!!!」
クラスメイトの彼女と歩いていればばったりと出逢う仕事帰りの栄子。
まじまじとこちらを見れば、へぇ~と嬉しそうに瞳を細め笑みを浮かべる彼女に内心イラつく。
「ふーん…ふふふ。」
口元に手をあて頬を染める栄子。
ちらりと隣の女子生徒を見て会釈をすれば秀一の腰あたりを肘でつつく。
「可愛い子じゃない、秀ちゃんやるう!!!」
にししっと声が出そうな彼女の笑み。
「…彼女じゃないんだけど。」
「え、そうなの??」
えぇ~っと声を出し項垂れる彼女だったが、その発言に女子生徒が肩を落としている姿を目に入れれば「あっちはまんざらでもない様子だよ?」と耳元で囁く。
「……今日はいつもの時間ね。」
秀一の不機嫌そうな低い声が響く。
それに「了解!!」と笑う栄子は、再び歩き出せば彼らの横を通り過ぎる…
「あ、でも-…」
思い出したように止まり振り替える栄子に秀一も自然と顔を向ける。
「彼女さんちゃんと最後まで送ってあげるんだよ、遅くなったら勉強は明日でもいいんだから、さ。」
そう笑う彼女に秀一の眉が寄る-…
「だから、違うって-…」
「じゃね!!気をつけてね。ばいばい。」
手を振り背を向ける栄子。
「………。チッ。」
「!!!(南野君が舌打ち!!!??)」
彼の隣では彼の様子に驚くクラスメイト。
結局クラスメイトを無事家まで送り届ければ、秀一は足早に自身の家に戻るのだった。
(…今日はどうしてやろうか。)
そんな黒い笑みを浮かべながら-…。
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