- Everlasting scar - 永遠の傷跡
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- Everlasting scar Ⅰ -
私の幼なじみはとっても可愛い。
まん丸の翡翠の瞳にちょっと癖のある赤い髪。
笑った顔なんか天使の様で…
それでいて甘えん坊。
そう、そんな子供だった-…
手を出せばそれを掴んで「栄子ちゃん、大すき!!」と満面の笑みを浮かべてくれた彼。
あぁ、本当に可愛かった-…
何度誘拐されそうになったか。
何度その危機を救ったか-…
目を離すなんてもっての他。
ちょっと目を離せば知らない大人に声をかけられる幼なじみ。
仕方が無い…
なんたって彼は天使のようだから。
私は幼なじみで彼より5才年上。
彼が生まれた時から側にいる。
本当の弟のようで愛しくて…
あぁ、食べちゃいたい…位可愛かった。
なのに-…
「栄子、ここも違ってる。」
あれから十数年-…
「え、嘘…ここはこういう公式だって-…」
「現役じゃなくなるとこうも頭が弱くなるんだね。」
天使の様な幼なじみだった彼はいつからか悪魔になった-…
幼なじみである彼の部屋。
テーブルを挟んで座る私達。
彼の受験対策の為に買ってきた問題集。
それは私が彼に勉強を教える為に買ってきたものだ…なのに-…
問題集を開いた瞬間そこに広がるのは宇宙だった。
「よくこれで家庭教師引き受けたね。」
頭を抱えながら解く私。
それに、やれやれと綺麗な翡翠の瞳を細めながら呆れる彼。
公式を問題集の端にすらすら書けば、これ覚えてね…と赤ペンで○をする。
まるで、こちらが生徒だ-…
「引き受けるも何も、秀ちゃんが私に無理やり-…」
「無理やり?人聞きの悪い。俺がいつ強要した?」
瞳を細め意地悪な笑みを浮かべる幼なじみに口元が引きつる。
時は遡り、先日の事。
たまたま仕事が早く終わりお気に入りの洋菓子店でケーキを一杯買い、帰って至福の時を過ごそうとしていた矢先、すでに妄想の域に入っていた私は前を見ていなかった。
もう少しで家に着く手前、隣の家から出てきた男の子。
気づけば激しい衝撃と、甘くも食欲をそそる香り。
そして-…
ねちゃりとした感触。
尻餅を付いた私が目にしたものは、目の前に佇む幼なじみの制服と手に抱えていた本にべっとりと付くケーキの残骸とクリーム。
至福は一瞬で消え去った-…
にっこりと真っ黒な笑みを浮かべる彼は、手に付いたクリームをぺろりと妖艶に舐めれば、未だショックで固まる私に近づき、悪魔の様な艶やかな低い声で囁いた。
『おかえり栄子。君って本当に前見ないんですね。どうしてくれるの、これ。借り物なんだけど。』
目に入るのは分厚い本。
どこに返しにいこうとしていたのか-…
年期の入ってそうなその本はどうもそこらには売ってなさそうな代物だ。
『これって限定でもう売ってないんだ。どうしてくれるの?自分が謝りに行くとかいらないよ、よけいややこしくなるだけだから。』
久々の彼との再会は最悪だった。
今にも泣きそうに彼を見上げる私に彼はとても楽しそうに弧を描く-…
『ねぇ、どうしてくれるの??栄子。』
まるで玩具でも見つけたように。
「まさか、家庭教師なんていうと思わなかったんだもん…」
許す条件として彼は私に家庭教師をして欲しいと提案してきたのだ。
「嘘、ラッキーって顔してたけど?」
相変わらず安易だね。とくすくすと笑う彼。
「……。」
確かにそれで許してもらえるのだとテンションは上がった。
うん、ラッキーだと思ってた-…
だが-…
「…噂には聞いてたけど、まさかこんなに秀ちゃんの学校がレベル高いなんて…。これじゃぁ、私が家庭教師しても無駄なんじゃぁ-…」
「最近退屈してたから、ちょうどいいよ。それとも家庭教師じゃなくて…」
ずいっと身を乗り出す彼に顔を上げれば、さらりと髪を掬われ、視線が交わる。
真っ直ぐに射抜く翡翠の瞳が妖しく光れば掬われた髪が彼の口元に寄せられる。
「…奴隷とか、ペットとかの方がよかった?」
「奴隷には人権ないのかしら?」
「………。…ないよ、奴隷は所有物に値するんだ。人権は認められない。」
「へぇ…そうなんだ。それって嫌だね。」
というか秀ちゃん物知りだねぇ…と続ければ、面白くなさそうに瞳を細める彼。
「君って本当に昔から通用しない。」
はぁっ…と息を付く。
「??…なにが??」
「何でも。」
たまに彼は意味なく私をからかう事が多い。
家庭教師をするまでは昔の様に遊ぶ機会も会う機会も減った為そうそう顔を合わせる事もなかった。
たまに朝出勤時に顔を合わせるか、仕事帰りにまたに出逢う…その程度。
日に日に綺麗に…美しく、そして逞しくなっていく彼にどこか距離も感じていた。
「昔はあんなにかわいかったのになぁ…。」
「なに?」
「なんでもないですよぅ。ん~と、じゃぁ、次は英語行こう!これなら私少し位なら自信ある。」
「へぇ、お手並み拝見だね。先生。」
にっこり笑みを向ける一言多い生徒に彼女は顔をゆがませるのだった。
(性格まで可愛くなくなっちゃって…)
栄子ははぁ…と息を付くのだった。
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