番外編・飛影編I
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『忌み子じゃ…忌み子じゃ…』
『災いを呼ぶ男児じゃ、即刻追放せねば!!』
うるさい…
『女児は同胞、男児はこの氷河の国に災いを及ぼす…』
黙れ…
『情けは無用じゃ!!!』
『やめてぇぇぇ!!!!!』
冷たい風が身を包んだ-…
(嫌な夢だぜ-…)
視界に入るのは薄くらい天井。
額の汗を手で拭えば、ゆっくりとベットから身を起こす。
ザァー…
耳に入る雨の音。
窓に視線を向ければスコールの様な雨が降り注ぎ窓を叩きつける。
時折光る雷雲-…
落ちるそれに地響きがするものの、今の飛影にとってはどこか心地良いものだった。
「全部流して欲しいもんだぜ…」
起き上がれば側にある煙草を手に取り、自室から出る…
が-…
「飛影!!!!!!」
扉を開けたのと同時に体に抱きつく、柔らかくも温かな感触。
そして聞きなれたその声に、おいおい…と肩を落とす飛影。
「……どうした?」
呆れつつもどこかで予想していた飛影は自身の胸に顔を埋め震える少女に声を落とす。
「魔界の雷、怖い!!!じ、地震かと思った!!」
見上げるのは潤んだ少女の怯えた瞳。
ぎゅっと服を掴む手に力が入る。
「…雷など、どこも同じだろう?」
「あんな地響きしない、あんなに揺れない!!」
ぶるぶると青くなり首を振る栄子に、ほかの事にもっと恐怖を覚えろと思うものの、仕方ないな…と彼女の頭に手を伸ばすも次の一言でそれも止まる。
「飛影もそれで起きたんでしょ?」
「……。」
ゆるりと手を戻す。
「…あれ?違うの?なら…また??」
心配そうに顔をかしげる栄子に、顔を逸らす飛影。
「そういうのは言ってくれたら一緒に寝てあげるのに。馬鹿ね。」
飛影の様子から理解したのか、ふふふと微笑む栄子に、飛影の頬が微かに染まれば彼女を引き離し、そのまま横を通り過ぎる。
「あ、待ってよ。あ、煙草!!?一日一本だって!!約束したの忘れたの?」
「俺は約束してない。」
「嘘だ!!この前、飛影言ったもん!!私がお菓子食べるの我慢する変わりに約束したもん!!」
「お前の食欲は異常だからな。」
歩みを止めず進んで行く飛影の後ろを追う栄子。
「煙草あんまり吸っちゃうと早く死んじゃうんだよ?しかも、魔界のってきつそうだし!!」
(うるさいな…)
ただでさえ夢見が悪く気分が悪いというのに、こんな時に限って栄子がしつこいのはどうしてか…。
「かまわん-…俺は-…」
「かまわなくない!!!!」
彼女の強い物言いに心なしか驚きつつ、振り返る飛影。
視線が交差する先にあるのは自身を見据える力強い瞳。
「飛影が早く死んじゃったら嫌だ。」
「煙草ごときで…」
(どこまで真剣なんだ…)
そう思いながらも飛影は分かっていた。
煙草の事だけを彼女が言っているわけではないことを…
夢見の事も分かっている。
何度か夜を共にし(色のあるものではないが)時に一部屋しか開いていなければ、悪夢を見た日には目が覚めた先に心配気に自分を見下ろす彼女の姿が度々あった…
その度に目が覚めた自分と目があえば、よかった…と笑みを浮かべるのだ。
その瞬間胸の中にあった真っ黒な闇から開放されるような気にさえなった…
「お話しよう、飛影。お酒は飲んでいいよ?だからお話しよう?」
そっと自分の手から煙草の箱を取る。
「…おまえも飲みたいからだろう?」
自分の視線は煙草の箱に行くも、それをわざわざ抗議することもなかった。
「私、未成年だけど、ちょっと位なら付き合ってあげてもいいよ?」
「…よく言うぜ。おまえの酒癖にはうんざりなんだが…」
それでも-…
「こんな日だからこそ…いいんじゃない?」
「……。」
どんな日なのか。
雷か?
それとも-…
飛影の赤い瞳に映る人の子。
誰もくれなかったものを、人間という生き物が自分に与えようとする。
出会ったのは-…
運命なのか、偶然なのか-…
「…あなたは?誰?」
草原の真ん中で身を起こし、自分を見つめる少女。
未だ覚醒していないぼんやりした瞳でこちらを見据える。
真っ赤に染まる自分の足元。
手についた赤に、頬に飛び散った血…
「誰かを…殺したの…?」
眉を寄せる目の前の少女を、自分の命を狙う妖怪だと飛影は思っていた。
先程まで山賊に追われ全部始末したものの、こんな場所でタイミングが良すぎる。
(まだ、血が足りない…)
どこまでこいつの茶番に付き合ってやろうか?
そんな事を考えていた飛影だったが-…
「…どうして、泣きそうなの?」
「……。」
「悲しいならやめればいいのに…。」
視点があわなくなって行く少女。
眠いのか、それも作戦の内なのか…
再び横になり花畑に沈んで行く彼女に、怪訝そうに眉を寄せる飛影。
「悲しい…だと?」
しかも泣いてなどいなければ未だ興奮を抑えきれずにいるというのにだ。
笑わせる…
これが演技ならここまでだ。
どこか疼く感情を無視し、剣を振り上げ振り下ろそうとした瞬間、目に入るそれと鼻に香る香りに止まる。
少女の瞳から流れる雫に、微かな花の香り-…
それにこれが敵ではないのだと同時に、もしかしたらと…飛影は思った。
「雪…菜?」
だがそれもすぐ違うのだと理解した。
見れば分かる溶けて行く氷泪石に、髪の色や服装…
だから、違うのだと分かれば再び剣を下ろせばよかったのだが、一度気が削がされたこの状況にそれを振り下ろすほど血に狂っているわけでもない。
「むにゃむにゃ…」
気持ち良さそうに頬を緩ませる少女に毒を抜かれたのも確かだった。
「……。」
(…こんな刺客がいるわけもないか。)
そして彼の頭の中で響くのは先程の少女の言葉。
『悲しいならやめればいいのに…』
どういうつもりか…
寝ぼけて適当に出た言葉だとしても、確かに飛影の中に残ってしまうその言葉。
気にする必要もなかったのだ。
そのまま捨て置けばよかった、きっと。
花の香りに酔わされ、花の栄養と成り、綺麗で残酷な花の一部となればよかったのに…
「魔界の花は綺麗だとだいたい曰くつきだ。」
だから…と、まるで自分にいいわけでもするように小さく呟けば、少女を抱き上げる。
そして香る別の香りに飛影は目を剥いた。
「人間…?」
見下ろす先に、幸せそうに微笑み眠る少女。
栄子と飛影の出会いはこんな所から始まったのだ。