薔薇とお狐様1
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宝庫に入った瞬間
ちりっと手首が痛かったのは覚えている
「今死ぬか、後で死ぬかどっちがいい?」
そして-…
背後から囁かれる低い声に、首元に当てられた冷たい鎌に…
「あ、後でお願いします。」
まだ、私は諦めていません。
でも、今にも漏らしそうです…みんな…。
男に後ろから腕を拘束されたまま、その男に言われるがままに連れて行かれるのだった。
そして-…
背中を押され部屋の中に倒れこむ。
どん!!!
「ぎゃっ!!!」
腕を縄で後ろで拘束されている為、投げられれば畳に顔面直撃。
(い、痛い…!!!!)
擦ることもできず、うぅ…っと呻く。
(女の顔になんて事…帰ったら秀ちゃんに文句言ってやる!!)
心の中で一人で痛みに突っ込んでいれば異様な雰囲気に気が付く。
ざわざわ…
がやがや-…
騒がしい周り。
顔を上げれば見たことのある場所。
屋敷内の宴会広場だ。
そう、あの時は宴会会場だった…
華やかな思い出しかない、食事の出来る場所だった…
だけど…
「女だ…女だぜ。」
「人間じゃねぇのか?」
「でも、女だ。若い女…旨そうだな…。」
妖怪達の自分を見る血走る目つき。
ぞくり-…
皆、あの時の皆じゃない!!!!
どこか知っている顔もあるものの、その顔ですら今では見るに耐えない。
「宝庫に入ったのって人間か?」
「宝庫ってどこだ??」
「しらねぇ…でも、あの女、頭どうするんだ?」
「さぁ。食うんじゃねぇか?」
「えぇ、俺にも少しくれねぇかな。」
なんて会話だ、このやろう。
そして、蔵馬は食人鬼の類じゃないやい!!と顔を歪ませる。
「手ぇだすなよ。蔵馬が来るまでにこれが骨になってたらてめぇら皆殺しだぜ?」
そして、そんな中自分の背後から先程自分を連れてきここに放り投げた男の声が振る。
それに、先程の仕打ちといい顔を睨んでやろうと振り返れば、彼女の目は大きく見開いた。
「あぁ?なに見てんだ、人間。」
酷く不機嫌そうに眉を寄せるのは、黒い帽子を被った黒髪の妖怪。
(く、黒鵺!!!!)
仰天とはこのこと。
あの黒鵺が目の前にいるのだから。
現代では死んでしまい会うことさえ出来なくなってしまった彼。
思わず栄子の涙腺は緩むものの、それとは対象に黒鵺の顔は酷く歪み栄子を心底忌々しそうに睨みつけた。
「俺は今すぐにでもてめぇを殺したくてしかたねぇんだよ。こっち見んな、殺すぞ。」
憎しみの籠る嫌悪を感じさせる鋭い瞳。
それに栄子の肩はびくりと揺れ怯える。
その時だった-…
「待たせたな。」
空気が変わる-…
背後から感じる冷たくも鋭い妖気-…
(…あぁ、そうだ。当時の…彼だ。)
それでも「彼」に変わりない。
とてもとても会いたかった人である-…
視線をそのままゆるりと向ける。
緩やかに絹糸の様に揺れる長い銀髪に、陶器の様なすべらかな白い肌…
全てを射抜き見透かす様な妖艶な金色の瞳を持つ…
妖狐・蔵馬
彼の登場であたりはしんっと静まり返る。
団員達の背筋が伸びれば中には、正座をしている者もいる。
(さっきの下品な感じとは大違い…)
それだけ蔵馬に覇気があり恐れられているのだと一目瞭然だ。
蔵馬は用意された上座へと移り腰を下ろす。
そして肘掛に腕を掛ければ金色の瞳を妖艶に細め畳の上に投げ出された栄子を見据えた。
「単刀直入に聞く。おまえは蛇族の関係者か?」
蔵馬の冷ややかな感情の無い声が耳を掠める。
「ち、違います。」
(う…怖いのに涙腺が緩みそう…蔵馬だ、蔵馬だ。)
「…ならば、どこの差し金だ?」
「……。」
「答えられんか?」
さらに細くなる金色の瞳。
妖しく光るそれは決して温かみのあるものではない、凍るような冷めた眼差し。
一切の情も何も入っていない。
(…彼にとって、私は敵なんだ。当たり前か。)
それでも生身の生きている彼に会えた事で彼女の心はどこか高揚していた。
なによりも泣きそうだ。
そして泣くまいと無言になる栄子の心情を知らない狐は瞳を伏せ息を吐く。
「…お前達。」
薄く開けた金の瞳。
彼は団員達にゆるりと視線を向ければ妖艶な笑みを向ける。
それにどこかぞくりと背筋が寒くなる栄子。思わず涙も引っ込む。
「人間だからって食うんじゃないぞ。後は許す…。」
(!!!!!)
心底冷めた冷たい声。
それに、その場にいた男たちは「うお~~!!!」と叫び立ち上がれば、わらわらと集まりだす。
(こ、これは…!!!!)
「さぁ、人間。口を割らんと知らんぞ?」
悪戯に金色の瞳を細め笑みを浮かべる蔵馬。
そんな彼を信じらないとでもいう様に見つめる栄子。
「犯してもいいってことだろ?」
「当たり前だろ?おい、俺が一番乗りだ!!」
「馬鹿いえ、俺がおまえらより先にだな…」
「分かった!!皆で-…」
側に集まれば、馬乗りになる妖怪。
げひげひと笑う妖怪達と、臭い息が鼻につく。
引きちぎられる衣服-…
蔵馬が…
こんな事をいうなんて…
「おい…おまえ、何か反応しろよ。」
「恐怖で声出ねぇんじぇねぇのか?」
「嫌でも声出させてやるぜ!!!」
私が…知らなかっただけ?
私が知らないだけで、彼は平気でこんな事を言う人だったのだろうか-…
見つめる視線は未だに彼だけを見つめる。
蔵馬に見えるように部下たちは気を使っているようだ。
だからこそ分かる。蔵馬がとても冷たい瞳でこちらを見ているのだと。
「娘、早くしないと本当に犯されるぞ?いいのか??」
心底楽しそうに笑みを浮かべる彼にどこか腹の奥がひやりと冷えるような気がした…
「…じゃない…」
これは私の知っている「蔵馬」じゃない。
「なんだ?やっと言う気に-…」
「なるわけないじゃない!!!!」
その一括で、周りの妖怪達の動きも止まる。
「…こんな強姦まがいな事…恥ずかしくないんですか?…口を割らせる為に部下にこんな事させるなんて、最低の男のする事です。」
本当はこんな事が言いたいわけじゃない。
本当はちゃんと話したい。
全て話せるわけではないけれど、それでも彼と話がしたい。
栄子自身、そう思う反面この蔵馬の所業が許せないのも事実だった。
「だからなんだ?盗人が賊に説教か?」
笑わせる…と瞳を細め口角を上げる狐に内心イラつく。
現世であんなにも自分を大事にしてくれていた人と同一人物だとは到底思えない。
「黒鵺さん…」
最後の手段だった。
このままでは犯されるか、諦めて帰るしかない。
ぽそりと彼の名を呟けば「あぁ?何で俺の名前知ってんだ?」と面倒くさそうに返事をする。
「あなたの秘密、私知ってます。」
「はぁ?俺の秘密??」
何を馬鹿な…
頭でもおかしくなったか?と笑う彼を栄子は見上げた。
「蛇王襲撃の帰り一人城に戻りましたよね…」
「!!!」
「あ、一人じゃなかった…確か、もう一人居ました…」
「お、おまえ…」
どこか焦りだし、ちらちら蔵馬に視線を向ける黒鵺に、栄子はくすりと黒い笑みを浮かべる。
「確か、蛇王の宝庫は一つでは…」
「わぁぁぁぁぁ!!!やめろ!!!蔵馬!!!俺がこれの口を割らせる!!それでいいだろう?」
「……。」
「本当?黒鵺さん。わぁい。」
棒読み栄子。
顔を真っ青にさせた黒鵺。
そしてどこか怪訝そうに瞳を細め肘掛に頬杖をついたままの蔵馬。
「てめぇら、どけ。こいつは俺がつれていく!!!」
部下達をしっしと手で払えば、「えぇ~」と項垂れながらも残念そうに退散する部下達。
そして栄子の拘束された腕を掴み立たせれば肌蹴た胸元に顔を赤くし自分をじろりと睨む彼女にしぶしぶと上着を着せる。
「黒鵺さん…縄も解いてください。」
それに「くそっ…」と舌打ちをしながらも縄を解く黒鵺。
どうせ人間の力ではここから逃げ出すなど不可能。
そして、その場を去ろうとした黒鵺と栄子だったが…
「黒鵺…俺は良いとは言っていない。」
後ろで冷ややかな低い声が振る。
それに振り返る栄子と黒鵺。
「いや、蔵馬…安心しろって、こいつは俺が責任持って口を割らせる。どうせこんな人間があんな全員にやられたらショックで何も言えなくなるぜ?」
それに力強くうんうん!!!と首を縦に振る彼女。
考えただけでも恐ろしい。
「置いていけ、黒鵺。」
しかし蔵馬も下がる気配はない。
「いや、だから蔵馬…俺が-…」
「おまえは蛇王と繋がっていたのか?」
「はぁ?」
栄子も驚き目を見開く。
「その娘、仕向けたのはおまえではないのかと聞いている。おまえがそれをかばうのはおかしいだろう?雲海の事もあるのに。」
(雲海!!?な、懐かしい!!!!)
「…!!!…それは、そうだか…。」
ちらりとこちらを見下ろす黒鵺の瞳は憎しみが垣間見える。
雲海と自分がどう関わっているのだろうか…。
「黒鵺。…ここで死ぬか、白状するか決めろ。」
「「!!!!」」
(…な、なに言ってるの??だって相手は黒鵺で-…)
内心焦る栄子。
蔵馬の表情は冷え冷えとし黒鵺を静かに見据えている。
「…蔵馬…。」
力なく呟く黒鵺の声と、揺れる彼の瞳。
「…おまえには、がっかりだ。」
狐の低い冷めた声が響いた。
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