薔薇とお狐様4
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その夜、私達は現世に帰ったー…
空にぽっかりと出来た穴に吸い込まれていく私と躯さん。
舞い散る雪の中ー…
緩やかに空に上がる私が見下ろすのは仲間たちと、愛しい貴方。
手を振る琥珀君に、額に指をかざす黒鵺…。
魔女さんは両手を空に掲げ何か唱えている。
蔵馬さんはただじっとこちらを見上げたままだ。そうただじっとー…
手を振ることも笑みを浮かべることもないー…
揺れる銀の髪が愛しくて
切れ長の金の瞳から目が離せなかったー…
「行っちゃいましたね、頭。」
すでにゲートが閉まった夜空を見続ける隣の蔵馬に琥珀が声をかける。
「そうだな。」
「よくすんなり帰しましたね。」
「……。」
「琥珀、蔵馬も大人になったってことだ!!なっ!蔵馬!」
そして、辛気臭えのはなしだぜ!?と黒鵺は二人の間から顔を出し二人の肩を抱きながら笑う。
まだまだ宴だ!と騒ぎ出す黒鵺と他の仲間達。
そしてー…
「あら、そういえば報酬はまだだわ。」
などとわざとらしく言う魔女。
本来ならば報酬は栄子達に言うことだ。
それをわざわざ今言う所があざとい。
初めから魔女がそのつもりだったのだと分かっていた蔵馬だが、改めて息をついた。
「馬鹿野郎!俺たちにせびるなよ!報酬が欲しいなら現世にお前もいきな。なぁ、蔵馬。」
「…何を望む。」
「え!?まじか!!」
驚き蔵馬を見る黒鵺に、同じく目をまん丸にさせて蔵馬を見上げる琥珀。
「話が早いわね。それもそうよね、私が彼女を現世まで追いかけたら困るの貴方だものね。無傷で帰した意味がないわ。」
「頭…まさか、腕や足の一、二本渡す気じゃぁ…」
徐々に青ざめていく琥珀に、しゃれになんねぇぞ!と騒ぐ黒鵺。
「ふふ、心配ご無用よ。私が求めるのは、そうね…「記憶」かしら。」
「「「!!!」」」
「貴方達の彼女と過ごした全ての記憶、頂くわ。何もかも忘れてしまうけれどね。」
それに眉を寄せる琥珀。
「…記憶が貴方に何の得があるんですか?…それに、短い間だったとはいえ僕たちは仲間なんです、なかったことになるなんて、そんなー…」
「なら、交渉は不成立よ?今すぐ彼女を戻して足の一本でも頂こうかしら。」
と、にっこり笑う魔女の目は決して嘘を言っていない。
「構わない。それでいい。」
そんな中、一番異を唱えると思っていた蔵馬の同意。
「誰の体も傷つかないなら願ったりだ。記憶で済むなら安いだろ。」
「あらあら、意外すぎて面白くないわねぇ…、それともむしろ忘れたいのかしら?」
「っ!!お前なぁ、傷心の蔵馬に向かって何てこと言ってんだ!?こいつだってなぁー…」
魔女の言葉が聞き捨てならないのか突っかかる黒鵺だったが、くつくつと狐の笑声が耳に入る。
「く、蔵馬、お前ついに可笑しくー…っ!」
だから俺は始めから人間と馴れ合うなんて嫌だったんだ!と青冷め伏せれば地面を叩く。
「何を馬鹿な事を。くく…なるほど忘れたいから記憶をな。そんな考え思いつかなかったな。」
なるほどなるほど、とくつくつ笑う蔵馬に琥珀までも青ざめ黒鵺に至ってはそんな蔵馬の様子に顔色が土色化する。
「よかったわ、そこまで女々しいこと言われたら今ここで貴方を殺してしまう所だったわ。」
ふふふと笑う魔女。
くくく、ふふふと笑う二人にその他二人は距離を取る。
「…残念ながら俺は欲しい物は諦められない質でね。」
地面では「まだそんな事言ってんのか、帰ってこいよぉ蔵馬…」と顔を覆う黒鵺。
隣では「いいかげん馬鹿な真似やめてください、黒鵺さん。」と黒鵺を冷ややかな目で見る琥珀。
一瞬蔵馬の言葉に目を見開く魔女だったが、直ぐに妖艶な笑みが浮かぶ。
「そう。なら、貴方の方法で精々頑張ってみなさいな。」
空にゆるりと手を翳す。
サラサラと振る雪がたちまち水蒸気となり霧となっていく。
「…貴方達はこれで彼女との思い出、記憶、全てをなくすの。…この霧がなくなった頃に、全て。」
サラサラとした白が水に変わっていくー…
琥珀の切なげな瞳が蔵馬に向けられる。
「…賭け事は嫌いじゃない。」
蔵馬の口元が弧を描きポツリと呟く。
それに意味が分からず眉を寄せる琥珀だったが、蔵馬が胸元に手を入れ出した物に目を見開いたー…。
「頭…」
不敵に笑みを浮かべる蔵馬。
そうそれは
蛇族の遺品。
以前、琥珀に鑑定を頼んだあの小瓶に入った液体だ。
死が運命なら贖うまで
未来を繋ぐたった一つの賭け
「頭、それは!!!」
たった一つの賭け
運命が勝つか
俺が勝つか
「それは貴方をー…!!!」
喉に流れ込む液体が芯を溶かしていくー…
それは未来を繋ぐ賭け
みすみす死にはしない。
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