薔薇とお狐様4
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ザワザワ
ガヤガヤ
朧車の中
中央にある十五畳ある座敷では蔵馬が率いる盗賊団幹部達と魔女、躯を交えた宴会が催されていた
栄子の送別会だと、琥珀と黒鵺が急遽開いたもので、しかし夜祖会の最中でもある為頭の蔵馬は宴会場へと行っていた。
「嬢ちゃんがいなくなるなんて寂しくなるなぁ~、唯一の花だったのになぁ。」
「一体故郷はどこなんだ?人間界でも広いからなぁ~下手に襲撃でもすりゃ嬢ちゃん殺りかねねぇぞ。」
「やめろよ、冗談になんねぇぞ。」
わはははと笑う盗賊団の面々達。
男ばかりの大所帯ではあったが本当に皆よくしてくれたと思う栄子。
出会った頃は本気で身の危険を感じたこともあったが今となっては良い?思い出だ。
「皆さん、本気にありがとうございます。」
勧められた酒を飲みながらペコペコと頭を下げる栄子。
そして、そんな彼女の側では…
「へぇ~あの躯がこんな女だったなんてなぁ。ずっと薄気味悪い奴だと思ってたが、なかなか別嬪じゃねぇか。」
「そうか。あまり側に寄るな、男は好きじゃない。」
黒鵺と躯のツーショット。
ヘラヘラと笑いながら「こぇ~なぁ」と言う黒鵺に、「散れ散れ」としっしと手で払いながら酒を仰ぐ躯。
過去でそんな暴露をして良いのか心配になるものの、当人は未来が変わってるならとっくに変わってる、と開き直っている。
どうやらこの過去に来て初っ端からたくさんの妖怪を葬ったらしい。
(…本当に、なんとかなる主義だわ、躯さんって。)
そんな友人を視界に入れながらチビチビ酒を飲む栄子だったが、不意に頭上に影が落ちる。
「貴方が栄子さんね。」
見上げれば真っ黒のフードを顔半分まで被った、魔女だという女性がそこにいた。
「…はじめまして。魔女の浅野よ。」
「……は、はじめまして。」
(あれ?この人どこかで。)
琥珀曰く、少し前から蔵馬の屋敷に滞在していたらしい魔女。
知ったのはつい先程。
なんでも蔵馬の屋敷で留守番をしていた彼女は躯について来たらしい。
魔女がすぐ近くいたのならあんなに悩まなくてよかったのでは…と思うものの、知っていようがきっと蔵馬が会わせてはくれなかっただろう。彼女の存在を隠していた位なのだから。
しかしだ。
…なぜか、知っている気がする。
栄子は下から顔を覗こうとするも彼女は隣にすっと腰を下ろした。
「顔を見たいの?だめよ。私の目を見ると貴方はショックで死んでしまうわ。」
「!!?」
「だからあまり見てはダメ。」
わかったかしら?と魔女は形の良い口角を上げ笑みを浮かべた。
「あ、は、はい。わかりました。」
すぐに魔女から視線を外し再び酒を飲む栄子。
(…魔界だし、魔女だものね。過去だし、知り合いなんていないし、気のせいか。)
それにしてもだ。
「………。」
「…………。」
「…あの、何か?」
視線が痛い。
見てはいけないと言われたから見ないように顔を背けたわけだが、どうも視線が…。
「ふふ、ごめんなさい。ちょっと…嬉しくなっちゃって。」
「??」
「ふふ、ごめんなさい。気にしないで、私の事だから。…あ、そうそう、先程、躯様にも蔵馬にも話したのだけれど、貴方が帰るには躯様の腕輪の力だけじゃ不十分なの。だから私が手伝うわ。貴方が現世に帰ること。」
「え!あ、そうなんですか!!よ、よろしくお願いします!!ご迷惑おかけしまして。」
そんな事になっていたとは知らなかった。
栄子はペコリと頭を下げる。
それにクスクス笑う魔女。
「迷惑だなんて、大丈夫よ。報酬ならちゃぁんと貰うから。心配しないで頂戴。」
「…あ、報酬、そ、そうですよね。」
魔女には対価報酬が付きもの。
(腕一本とか、かな…。い、痛いよね、きっと…。)
「あ、あの…」
不安になり魔女に報酬内容を聞こうと口を開けた栄子だったがー…
「あら、坊やだわ。」
栄子の後ろ奥に顔を向けた魔女に彼女も振り返る。
朧車の扉を開いた先に立つのは琥珀。
雪が少し頭や肩に掛かっており、息も白い。
どこに行っていたのだろうか。
何かを探す琥珀の視線が栄子の所で止まる。
こいこいと手招きをする少年に彼女は首を傾げるも、魔女に一言挨拶をしその場を離れた。
「どうかしたの?琥珀君。」
朧車から外に出る。
ハラハラと振る粉雪。
真っ暗な空から白い雪が無造作に落ちてくる。
「……栄子さん。」
じっと栄子を見上げる琥珀。
それにん?と目をパチクリする彼女。
「貴方の大事な人は、未来の頭ですよね?」
「!!」
「……貴方が大事な人を生返す為に、奇跡の水を欲しがっていたのは…知っていました。だけど…。」
そういえば、琥珀に説明をした記憶はない。だけど、蔵馬の側近で知っていてもおかしくはないと彼女は思っていた。
だが、誰を、までは誰にも打ち明けてはいない。
(…あぁ、やはりあの時か。)
そう、秀一の皮を被っていた蜥蜴が琥珀の体を貫いた植物の蔦。
あれは蔵馬が使う武器の一つだ。
「……僕は貴方に幸せになってほしいと、本当に思います。だから、元の世界に戻って大事な人といられるならそれが一番だと思いました。」
「……。」
「だけど、…もう生き返る事はない。…僕が代わりに生き返ってしまったから。」
琥珀の瞳が揺れる。
自分を責めるように。
それに栄子は違う!と口を開けようとした。
だがー…
「だけど、ここにいれば貴方は大事な人といれます。栄子さん。」
直ぐに続く琥珀の言葉に彼女は自身の言葉を飲み込んだ。
「ここにいれば貴方は幸せになれます、栄子さん!」
「琥珀、くん…」
「僕は感謝してます。生きたかった、生きていたかった!だから生き返った時は貴方の心配をしながらもまだ生きれる事が嬉しかったんです。だから、僕は今偽善を言っていると分かっています!!貴方がこの世界にどんな思いで来て何を目的として日々頑張っていたか。それを奪った僕が言うべきことじゃありません、分かっています!だけど!!」
「……。」
「この世界には貴方の大事な人が貴方を最も必要としています。…頭が貴方を強引にこの世界に引き止めようとした事は許せないことでした。そんな頭から逃そうとした僕が今更って感じですが、…状況は大きく変わりました。貴方が自ら頭の側にいたいと、望んでくれたらと、望んで欲しいと勝手ながら思います。」
しんしんと静かな雪が降る。
真っ直ぐな真剣な眼差しが彼女を見つめる。
「やめろ、琥珀。」
しかし彼女が何か言わねばと口を開こうとした瞬間すぐ側から聞き慣れた低い声が発せられた。
雪夜の真下。
さわさわ揺れる林の中から姿を現す白装束の男。
銀の髪が靡く。
「頭…」
驚いたように目を見開くのは琥珀だけではない。
栄子もだ。
「余計な事はするな。…戻れ。」
「っ…頭!!ですが!!」
「戻れと言った。」
「…。わかりました。」
唇を噛みしめる琥珀。
彼は蔵馬にそう言われれば彼女をチラリと見れば来た道を戻っていく。
そして
「…お前も戻れ。栄子。」
低くも冷たい声色。
真っ直ぐにこちらを見据える冷めた金の瞳。
それに胸がぐっと詰まる彼女。
綺麗に別れたいなど身勝手だとは思っている。
笑って見送ってくれるなど甘い考えだとは思う。
だが、最後になるであろう今くらいはと…
思わずにはいられない。
これが「生きている彼」と会うのも最後となるのだから。
「蔵馬さん、今まで…今まで、色々とありがとうございました。私、本当に感謝してます!」
頭を下げる。
泣きそうになるのを必死に堪えるも、それでも「彼」に対する溢れる想いは膨らむばかり。それが涙となり落ちるのは止められない。
「蔵馬さんに、会えて…よかったです。本当に。」
生きている貴方に会えて私はなんて幸せだったのか。
亡くして気付いた大切な貴方に会えたのは沢山の奇跡と仲間のおかげだった。
無言の時間が流れる。
コロコロと落ちる涙の石。
泣き止め、泣き止めと俯いたまま自分に言い聞かすもなかなか止まらない。
「…お前は…俺にどうしてほしい。」
呆れを含んだため息と、ぽそりと呟く低くい声。
それに微かに顔を上げる栄子。
眉を寄せた蔵馬。
若干イラつきを含んだ瞳が彼女を見る。
「…最後だからちゃんと別れを噛み締めろと?相変わらず都合の良い頭だな。」
顔に手を当て、くつくつ笑う。
「蔵馬さん。…私はー…」
「俺は忠告したはずだ、栄子。」
こちらに向かってくる狐。
「次逃げれば閉じ込める、と。」
金の瞳が細くなる。
伸ばされる白い手に一歩下がる。
「蔵馬、さん…」
「分かっているのか?今、ここには俺と二人。ここで今お前を俺のものにしてしまえばお前は帰れない。」
『次逃げれば閉じ込める』
確かにあの時そう言われたー…
だけど。
「蔵馬さん、私は貴方のことが大好きです。今も、これからも。…だけど、分かって欲しい。私がここにいることは色んな事から逃げて楽になるだけなんです。だからー…」
「逃げればいい。」
「!!」
金の瞳が真っ直ぐに突き刺さる。
『生きている』貴方の側に居たくないわけがない。
帰れば現実が目の前に突きつけられるんだ。
二度と見ることができない翡翠の瞳も、柔らかな笑みも。
私はそれを受け止めなくてはいけない、でも本当なら受け止めなんかたくない。
見ないで
理解しないで
楽な世界にいたいよ
現世の彼が生き返るなら現世に戻り
現世の彼がいないなら過去の彼と暮らす、なんてー…
都合が良すぎるでしょう?
「俺に甘えても構わない。」
なぜ思考を見た様な事を言うの?
「俺を利用しろ。喜んで受け入れてやる。」
金の瞳に射抜かれる
白い指が頬を滑る
「俺が愛してやる、だから帰るな。」
瞬間、抱きしめられる
強く強く
「うぅ…蔵馬さんて言ってることめちゃめちゃじゃないですか…」
ぼろぼろと再び溢れる涙。
「……。」
「相手の死を受け入れろって、強くなれっていうくせに…」
「…ふん、俺は好きな様に生きているだけだ。」
さらに抱きしめられ首筋に顔を埋められる。
「蔵馬さんなんか…嫌いだ。」
「……。」
「冷たいのに甘やかして、意地悪なのにすごく優しくてー…」
秀ちゃんー…
「栄子…」
抱きしめる腕に力が篭る
雪が酷くなるー…
真っ白に
全て白く埋めつくしてしまいそうなほどー…
「愛している」
そう何度も耳元で囁くそれが胸を何度も締め付けた。
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