薔薇とお狐様4
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琥珀は意味が分からなかった
確かに自分は死んだはずだと。
涙を流しながら、ごめんねと懇願しながら自分を強く抱きしめる栄子に、近くでこちらを見守る蔵馬の姿。
離れた場所に死に絶えている蛇族の巫女が目に入れば蔵馬が栄子を救ってくれたのだと理解できるも、なぜ自分が生きているのかが分からなかったのだ。
「僕はー…なん、で…」
そしてふとすぐ側に転がる小瓶に気が付く。
記憶にまだ新しいそれは、彼女が命を賭けてでも手に入れたかったそれだ。
まさか、僕に!??
抱きついている彼女をベリッと音がしそうな程引き離す。
「ま、まさか貴方!!どうして僕になんか、いや、嬉しいんですけど、なんでですか!?使う相手がちがーっ…」
きょとんとする彼女に、事の重大さを分かっていないのではないかと…
今更だと分かっていても口を開かざるを得なかった琥珀だったがー…
「琥珀、こいつが選んだことだ。」
蔵馬の声に遮られる。
はっと琥珀が顔を上げれば、すぐそばまで来た蔵馬は鼻でふっと笑い彼の頭を撫でたのだ。
「か、かしら!?」
なんだ?気持ち悪いぞ!?と思いながらも稀に見ない優しいその瞳に、琥珀自身もじわじわと目の奥が熱くなるのを感じた。
「俺はお前を見捨てる気だった。」
コクコクと頷く琥珀。
歯に衣を着せぬ言い方に相変わらず頭らしいと思いながらも口を紡ぐ。
「許さなくていい。」
揺れる金の瞳に、頭の中で葛藤があったことなどすぐ側で見てきた琥珀には分かっていた。
そしてー…
「礼を言う、栄子。」
蔵馬が頭を下げたのだ。
彼女に。それに琥珀はただただ泣いてたまるかと口を精一杯閉じぷるぷると揺れながらも顔を歪ませるのだった。
琥珀に奇跡の水を使った娘。
己が本当に大事なモノが他にあるならば使う事に葛藤があったに違いない。
迷い使ったに違いないのに…
狐はそう思っていた。
しかし、琥珀の目覚めと共に、満面の笑みが彼女に宿る。
今、あの娘の中にシュウはいないのだろうか?
そんな事すら感じ取れる程、彼女は歓喜に満ちていた。
否、いないのではない。
狐はわかっていた。
あれは受け入れた、のだとー…
琥珀が生き返った事は本当に嬉しいことだ。
死んでいく仲間を見ながら何度闇に呑まれ押しつぶされそうになったことか…
それが側近ならば尚更ショックも大きかった蔵馬。
栄子の事がなくとも蔵馬は琥珀を助けに行っていただろう。
それ程蔵馬にとって仲間は大切に違いないのだ。
痛む胸を抑えながら蔵馬はただただ今だ琥珀に抱きついて泣き喚く彼女を見つめるのだった。
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