薔薇とお狐様4
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「琥珀君、ごめんね…。」
栄子は琥珀を拘束する鎖を外し、床に寝かせる。
少年の口元の血を自身の服の袖で軽く拭き取る。
「栄子…。」
彼女の背後から掛かる狐の声に、少し間があけば、振り返る栄子。
「……蔵馬さんも、心配かけてごめんなさい。来てくれてありがとうございます。」
悲しげに笑みを浮かべる彼女。
それに、ぴくりと眉を寄せる狐。
彼女の手に持つ奇跡の水。
再び彼女は琥珀に視線を戻し、小瓶の蓋を空ける。
目を見開く狐。
「おい、それはー…」
「いいんです。大丈夫です。もう……大丈夫、だから。」
そして、琥珀の口元に流し込もうとするそれを狐は無意識に彼女の手を掴み止めていた。
「……やめろ、栄子。それは一つしか無い。」
なぜ止めたのか狐にも分からない。琥珀の命が助かるのならば、彼女の想い人が目覚めないならば、願ったりではないか…
狐の想いは確かにそうなのに…
「お前はそれを持って帰るのだろう?未来に。」
未来がどうなろうと、今の己には関係ないのに。
なぜ、止めるのか狐にも理解できなかった。
そして、それは彼女も同じだったのだろう。
驚いた様に目を見開いた。
だが、すぐに頬を緩める。
「琥珀君は大事な仲間です。それは変わりません。」
「…だがー…」
「それに、例えこの水であの人を生き返したとしても、私は一生悔やむと思うんです。それこそ真っ直ぐに彼と向き合えない。」
真っ直ぐな意思の篭る瞳が狐の金を射抜く。
「何度も逃げて来た、見ない様にしてきた。…そんな情けない自分じゃきっとだめなんです。」
「……。」
「これは自分勝手な自己満足です。…結局、これは蔵馬さんの為でも琥珀君の為でもないんだと思うんです。私が目の前の琥珀君を助けたいだけ…だから、これは私の勝手です。」
ー…そうじゃないと、私はあの人と向き合えないから。
栄子を見て、切なく揺れる金の瞳。
それを彼女は笑みで返す。
「だからといってここには残れませんけど、許してくださいね。」
「…シュウは諦めるのか?」
それに、悲しげに眉を寄せ笑みを浮かべる栄子に狐は表情を曇らせる。
ゆっくりと小瓶の口から落ちる雫。
琥珀の口にそれが全て注がれて行く。
そしてー…
「う…ん…」
小さく唸る声と共に、少年の瞳がゆっくりと開いていくー…
そして、狐の目に入ったのは、心底嬉しそうに琥珀を見て顔を緩める彼女の横顔だったのだ。
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