薔薇とお狐様4
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珍しかった
彼の長い銀髪は乱れ
息を切らし、額には薄っすら汗をかいていた
眉間には皺が深く刻まれ金色の瞳には触れれば切れそうな剣呑な色を含んでいた
それでもこちらに瞳を向けた一瞬、わかりやすいほどの安堵の色が混ざる
そして血濡れの琥珀を見た時の蔵馬は…
ただ瞳を細め少年を見つめていた
そしてー…
金の瞳がまっすぐに女に向けられる。
「言い訳を聞く気はない。蛇族の巫女よ、貴様は殺す。」
ぶわっと辺りに広がる狐の妖気。
禍々しいそれは人である栄子には酷くきついものだった。
それでも意識が保てるのはー…
琥珀の存在があったからだった。
否、殺気で気絶するなどそんな呑気な精神状態ではない
(琥珀、くんー…)
「蔵馬様、お早いお着きでしたわね。…お会いしとうございました。」
女は優美に微笑み会釈をする。
それに眉を寄せる蔵馬。
「そして私が巫女だとご存知だったのですね?分かっていて側に置いてくださったとは、驚きましたわ。」
「…あぁ。…これは、俺への復讐か?」
らしくない苛ついた蔵馬の声に女は嬉しそうに笑みを浮かべる。
「復讐?ふふふ…私がそんなくだらない事をするとお思いで?」
そして、次に見せるのは毒を含んだ甘い笑み。
「私は貴方様に見て欲しいだけでございます。今も昔も。」
ピクリと狐の眉が動く。
そして金の瞳は微かに栄子に向けられる。
その瞳に映るのは今だ某然と涙を流す彼女の姿。
琥珀の死が尾を引いている。
意思を持たない虚ろな瞳に狐は内心焦った。
縄を解いた所であれは逃げる事が出来るか。
最悪の状況も視野に入れ考える。
だがー…
「栄子、お前は死ねない理由があるはずだ。」
理解しているわけではない。
彼女を元の世界に帰す気などない。だが狐は言わずにはいられなかった…
「腑抜けて琥珀の死を無駄にするか。」
ー…お前は生きて帰るのだろう?
その言葉に一瞬、彼女の瞳に光が宿る。
しかし一瞬。
すぐに琥珀を見れば闇に染まる。
「蔵馬様は、本当にこの娘が大事なのですね。憎らしい位に。」
「……。」
「私を、愛して下さった事はないのですね。」
自嘲気味に微笑む女は再びしゃがみ込み栄子の顔を覗き込む。
「あぁ、早く貴方と一つになりたいわ。ねぇ…貴方はー…」
甘い甘い女の笑みが彼女の瞳に映る。
ー…貴方は、どうしたいの?
囁くような妖艶な艶やかな女の声が彼女の脳内を木霊する。
ー…貴方が私に染まれば済むことよ?
悪魔のような囁きに脳裏に一瞬過る琥珀の満面の笑み。
頭の奥がぐらぐらする
胃を鷲掴みにされた様に吐き気すら感じる
肌に流れる汗
そして次に脳裏に浮かぶのは赤い髪の彼
決して笑わず、じっとこちらを見据える赤い髪の青年
いつも笑みを浮かべ甘い笑みを浮かべていた幻想はこんな窮地には決して笑ってはくれていない
青年に重なっていく、白髪の少年の姿ー…
あぁ、私はきっとー…
はじめから分かっていたー…
ー…自分の選択するべき答えが脳裏を散らついた
私はー…
「蔵馬さん、ごめん…なさい」
か細い彼女の声が響けば、狐は眉を寄せ女は笑みを深めた。
「私を助けて。」
私は死ねない。
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