薔薇とお狐様4
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
カツン
カツン
「さぁ、次はお前よ?…お前の体は深く傷つけられないから面倒なの、致命傷になられると私が困るのよ。…なぜか分かる?」
虚ろな栄子の瞳。
コロコロ落ちる涙の石はただ無常に流れる。
「琥珀にはあぁ言ったけれど、お前を攫った本当の理由は別のあるの。」
ゆるりと女が頬を撫でる。
「お前を殺してお前として私は永遠に生きるの。首を絞めれば形代が傷つくのは知れているでしょう?……あの方に必要とされないこんな巫女の身体などもう必要ないしね。」
「……琥珀、君…」
掠れた彼女の声はひどく弱々しく、視点が定まる事はない。
「あれはもう要らないの。…でもそうね、貴方が自ら死を望むなら、考えてあげなくもないわ。」
「!!」
「自ら死を受け入れるなら、私がお前の体と同化しやすくなるの。」
「どう、か?」
意思のなかった栄子の瞳が光を取り戻す。
ー…琥珀が生き返る。
だが、それは…。
激しく揺れる瞳に女はくつりと笑みを浮かべた。
「そうよ。自らその身体を私に明け渡しなさい。その瞬間、お前の存在は消滅し私となる。」
死にたくなんかない
来た意味を忘れてなどいない
だけどー…
でもー…
『貴方は死にません。いや、死ねないの間違いかな。』
詳しく事情を話したわけではなかった。
それでも知っていた琥珀。
このまま二人死ぬ事になるのならー…
私はー…
「何も言うな栄子。」
次の瞬間、息を切らせた掠れた低い声が洞窟に響いた。
ーーー
ーーー…
(父さん、ここにいたんだ。)
それは現代、7日目の朝。
共に食事をしようと父親である黄泉の姿を修羅は探していた。
そしてある一室で見つける。
無菌室のケースに入れられた蔵馬。それを無言で見下ろす黄泉に少年はどうしたのかと思いながらゆっくりと近づく。
「蔵馬の奴、今にも起きそうな顔してんのになぁ~てか、今日が最終日だね。……やっぱり無理なのかな?」
ちらりと少年が隣の父親を見るも、彼は黙ったままただ蔵馬を見つめていた。
目が見える事はない
それでも目に見えない何かを感じるのだろう
仲間だった二人
険悪な時期もあったと聞く修羅。
黄泉の失明の原因は蔵馬
そして、本来なら憎むべき相手を傍に置きたいと願った黄泉
蔵馬の頭脳と腕を買っているのは知っている
だけど、恐らくそれだけではない
蔵馬もそうだ
一度冷酷に化せば仲間とて殺す質を持っている狐は魔界統一を目論む黄泉の協力者になった時もあった
父親の性格上、蔵馬の弱みでも握り脅迫したのだろう。
だけど、何か腑に落ちない。
黄泉がなぜ失明だけで済んだのか
なぜ蔵馬は黄泉の協力者になったのかー…
「私は蔵馬はそう簡単に死なないと思っていたんだ。」
いきなりの父親の言葉に顔をあげる修羅。
「……ただでは決して死なない。先日まで蔵馬の死を受け入れ様としていたんだがな。だが、最近どうもしっくりこない。」
「……。」
「日が経てば経つごとに違和感さえ感じる。受け入れているはずが、何かを期待している。」
「…?…栄子に期待しているんじゃなくて?生き返るにはそれしか方法ないんでしょ?」
それにどこか神妙に眉を寄せる黄泉。
そして、「そうだったな…」と小さく呟く黄泉に首を傾げる修羅。
「認める事は大事だが、認めたくないだけかもしれん。俺は昔蔵馬と並びたかったんだ…ずっとな。」
「……。」
「修羅、食事にしよう。…誘いに来たんだろう?」
そしてニコリと笑う黄泉に修羅はどこか腑に落ちない表情を浮かべるのだった。
.