薔薇とお狐様4
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狐は森の中を駆けながら忌々しく舌打ちをした
琥珀の妖気と栄子の匂いを辿った先にあったのは死に絶えていた飛竜の姿だった。
掻き消された彼らの匂い。
そしてそれとは別に微かに残る知っている香水の香り。
蔵馬は彼らとそいつがいるであろう場所に急ぐも、微かな香りは風により移動し消されて行く為、すんなりとはいかない。
幾つ目かの洞穴を覗き込みながら内心酷く焦っていた。
「くそ…」
匂いが微か過ぎて嗅ぎとれない。
先程から嫌な予感しかしない
酷く焦る己になぜもっと彼女に対して危機対策が出来なかったのだと己を責める。
予測はついていたのにこのザマだ
自分が傍にいればいいと安心していたのだ
(やった耳飾りに俺の妖気位いれておけばよかったな。)
その思考にハッとする
女が持っていた己と同じ妖気が含まれた腕輪の事を思い出す
研ぎ澄まされたあの妖気を辿る事は容易ではない。
周到に隠された己の鋭い妖気は近づけば初めて気付く。それは殺気にも似た鋭利なものだ、殺意を持ち彼女に近付けば下手な妖怪は瞬時に消し去る。
己の妖気であっても今の自分とは否なるもの。
それでもあるに越した事はない。
そしてー…
立ち止まる狐
口元に手をあて瞳を伏せる
「…なるほど。だから、か。」
どこか自嘲気味に笑みを浮かべる狐は、開いた金の瞳をゆるりと細めるのだった。
ーーー
ーーー…
赤い髪が揺れる
甘くも優しい翡翠が揺らめく
「お前がこの水で生き返したかった、男でしょう?」
女の手にあるこちらに見せつける様にして持たれた小瓶は、蔵馬の白装束から出てきた物。
それを、気絶していた己から取ったのだろう。
だが、今の栄子にとってはただ目の前の男の姿に釘付けになるばかり。
「よく似ているでしょう?外見は貴方の愛しい男、そのものよ。」
「…それが、蜥蜴さん、ですね。」
苦虫を噛んだ様に顔を歪ませ絞り出す様に言う琥珀。
少年の瞳は怒りと憎しみが篭る。
蛇族の巫女にしか出来ない生き写しの術。
琥珀は文献でしか知らないが、それは元ある人格を抹消しただ巫女の操り人形と化すものだ。
見目は変わり、人格もなくし、何も感じないそれは、ただの生きる屍。いやそれ以上に質が悪い。
赤い髪の男はゆらりと栄子の元に向かう。
今だ放心している彼女の元へ。
そして、彼女の首に両手を伸ばす男に琥珀は目を見開いた。
「栄子さん!!!」
彼女を殺す気なのだ、この巫女は。
偽りとは言え彼女にとってもっとも愛しい男に命を奪わせるー…
「っ……しゅ、ちゃー…」
ギリギリと締まる首。
目の前の男が別の誰かだと栄子も分かっている。
どんなに似ていようと、今なら分かる。
瞳の奥に隠された慈愛溢れる色も、光も何の感情もない。
「くそっ!!栄子さん!!」
ガチャガチャと鎖を外そうと暴れる琥珀に、女は高見の見物だ。
「琥珀、貴方はそのままで飼ってあげるから安心したらいいわ。逆らわなければ可愛がってあげる。」
「お前なんかお断りだ!!」
癖になっていたはずの敬語も忘れるほど怒る琥珀は巫女に「早く外せ、ブス!!」と噛み付く。
それに巫女は一瞬目を見開くも、次第に眉間にシワが寄り
「なるほど、気が変わった。おまえの人格だけを抹消するか、二度とそんな口が聞けない様に。おいっ、こっちが先よ。」
パチンッと、指を鳴らせば栄子の首を締めていた男は手をすんなり離し、巫女の傍に行く。
げほげほと咳き込む栄子。苦しさからか涙が溢れる。
「こ、はく…くんっ」
苦しげに顔を歪める栄子。
(なんとか、しないと……)
「さぁ、琥珀。今ならまだ許してあげよう。私の事を美しいと、愛しているとお言い。従順なペットは長生きするものよ?」
「生憎育ちが悪いんで見繕って嘘言えないんですよ、僕。醜い顔を近づけないでもらえます?吐き気がします。」
ニコリと笑い毒を吐く琥珀に、女の平手が少年の頬にとぶ。
(琥珀くん!!)
痛々しい真っ赤な頬。
口の中を切ったのか口元の端から血が伝う。
「お前、もういいわ。殺してしまいなさい。」
真っ赤な顔の女の冷ややかな言葉が飛ぶ。
琥珀に背を向ける女。
女の背後に立つ男が手を上げればその手に巻き付く植物に、琥珀は目を見開いた。
「あぁ、貴方は知らなかったわね。琥珀ー…」
女は気付いた様に振り返る。
(やめてー…)
「その男の本当の姿わね。」
(やめて、お願い!!)
「お前の最も敬愛する男なんだよ。」
瞬間、鋭く尖った植物の手が琥珀の胸を貫いた。
「い、いやぁぁぁぁぁ!!」
目の前で噴き出す鮮血に、栄子はただ泣き叫ぶのだった。
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