薔薇とお狐様4
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飛竜が羽ばたく
ぎゃあぎゃあと鳴く飛竜の背に乗る琥珀と栄子。
飛び上がればぶわっと生暖かい魔界の風が下から吹く
バランスを崩す彼女を琥珀が後ろから支え空を舞い上がった
「…頭が、ごめんなさい。」
上空を跳ぶ中、後ろからかけられた少年の声に彼女は頭だけを向ける。
眉を寄せどこか苦しげな少年の様子に、彼女もまた心が痛まないわけがない。
だが、それよりもー…
「私を逃がして、二人は大丈夫なの?」
逃がしてもらってから人の心配など狡いと思う。
彼らは蔵馬を裏切っている。
こんな数ヶ月過ごしただけの自分を助ける為に。
「大丈夫、とは言えませんが…頭にも貴方にも悲しい思いはしてほしくないんです。あのままだったら、きっと二人とも後悔します。それに頭が僕たちの中で一番の権限を持っていようと僕たちは仲間です、それは変わらない。そして貴方もです、栄子さん。僕は貴方にこの世界に居てもらう時は笑っていてほしい。この場所も頭も、嫌いになってほしくないんです。」
「……琥珀くん…。」
「楽しかった気持ちを塗り替えて欲しくない。僕も黒鵺さんも雲海さんも貴方が好きです。だからー…っ?!」
ぐらりと飛竜が傾く
それに琥珀はなんだ!?と手綱を引き安定させようとするも飛竜は苦しそうに首を揺らし体を振る。
「きゃぁ!!」
「しっかり捕まって!!どうしたんだ!?いきなり!!まっ…まさか!!」
琥珀はハッとし彼女を抱き寄せる。
「こ、琥珀くん!?」
「やられた、まさか飛竜まで操るとは。栄子さん、しっかり僕に捕まってください!!」
苦虫を噛み潰した様に表情を顰める琥珀。激しい揺れに彼女は言われた通り琥珀に抱きついた。
苦しそうにもがく飛竜がふと大人しくなったかと思えば視界に入るのは、両方の翼がびろんと宙に浮き、飛竜の頭も同じ様に天を仰ぐ姿。
…それは意識を手放した証拠。
重力に抵抗できず力の抜けた飛竜の身体はそのまま彼女達を乗せたまま落下。
風が痛い
身体が痛い
彼女は手放しそうな意識を必死で奮い起こし、ただただ隣の琥珀にしがみ付くのだった。
そして、同時刻。
地面に尻を着き目の前の静かな怒りを表した修羅の如き狐をただ引きつる顔で見上げる黒鵺。
彼の周りには見目の恐ろしい動植物が主人のお食べを待つかの様に蠢いていた。
「まさか、お前まであれの肩を持つとは。人間など興味がないんじゃなかったか?黒鵺よ。」
今にも殺されそうな冷ややかな狐の言葉に彼はごくりと唾を飲み込む。
蛇族に似せた偽の炎で朧車の周りを襲撃し、狐を彼女から引き離すには成功した、だが…
俺の命は尽きそうだ…
黒鵺は琥珀の考えに乗った。
彼女をとにかく逃がす案に。
もちろん、黒鵺からすれば頭である狐を冷静にさせる為の事でもあった。
「おまえが、らしくねぇからだよ!!」
狐に押されながらも強く言う。
しかし、瞳を細める狐に、キシャーと声を上げる動植物に、彼はひぃっと身を縮まらせる。
しかし、言わねばならない。
息を着き、話にならんと帰ろうとする狐に黒鵺は再び意を決する。
「お前にとってあいつはなんだ!?適当に遊んで捨てる位の人間なら俺や琥珀は気にしない!」
それも酷い言葉だ。
だが所詮、人と妖。
蔵馬にとって、とって足りぬ存在ならばそれでいいのだ。
特に黒鵺にとってはそうだった。
琥珀は幼いのもあるが育った環境故か仲間意識が強い。少年にとっては盗賊団の面々は家族みたいなものだからだ。もちろん一度冷酷と化せば蔵馬の隣に並ぶ程だが。
だから仲間思いの彼女に少年はつくかもしれない。
だが、黒鵺は違うのだ。
いくら彼女に好意を抱いていても蔵馬と比べるなど出来るはずがなかった。
「お前は頭だ。だからそれ以上深入りするな。」
「…何を言っている。」
「あいつはお前を見てないって言ってるんだ、手に入れた所でお前は後悔する。…あいつは人間だ、簡単に死ぬし寿命も短けぇ、そんな女にマジなんな、蔵馬。」
「…何度言わせる。ひ弱でも命短くとも傍に置きたいだけだ。」
「……あいつはお前を助けてくれた。雲海だって。」
「……。」
「少なくとも借りはある。」
「だから、諦めろと?」
笑えるな、と鼻で笑う狐に黒鵺はムッとする。
「俺だって何が言いたいかわかんねぇよ。だけどな、蔵馬…本気で大事だと思うならお前のやり方は間違ってる。それは俺にも分かる。」
「……。」
「あいつは物じゃねぇ。」
「……。」
「俺はお前が後悔する様を見たくねぇ。」
「……。」
その時だったー…
ギャァァァー…
空から聞こえた飛竜の声が耳に響く
その瞬間「あいつら…」と焦って呟いた黒鵺に、蔵馬は目を見開き次の瞬間駆け出すのだったー…
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