どさりと寝床に投げられる



「っ…、く、蔵馬さっ」


体制を立て直そうと起き上がろうとすれば開いた唇に強引に狐の唇が被さる。



拒絶しようと振り上げた腕は虚しく寝床に縫い合わされる。



怖い

怖い

苦しい

いきなりこれは何なのだろうか…


しゅるりと着物の腰紐が慣れた手つきで引き抜かれる。
それにやめてと口を開けようとするも、拒絶の言葉すら許す気がないのか、さらに深く口付けられ逃げ惑う口内のそれを狐はここぞとばかりに深く絡める。

「んんっ…やぁ、くらっ」

「黙れ。」

酸素を奪われる。
口内が狐の熱に犯される。

空気が肌を撫でれば気付く。
己の着物は狐に寄って開かれ既に着物の機能を無くしていれば、羞恥でさらに顔が熱くなる。

ひやりとした狐の手の感触に思わず身体が浮く。それが脇腹から上に向かいゆっくりと撫で上げられる。

「っ…あっ」

身が竦む
彼の片方の手で拘束された頭上にある己の両手を動かそうとするもびくともしない。

強い力
到底敵わないそれにさらに恐怖を覚える


怖い
逃げたい
逃げられない

唇が解放されれば彼の唇は耳に首筋に鎖骨に落ちていく。
時折感触を楽しむかの様に舌を這わす。

「ご、ごめんなさ…い。くら、さん、やめて…」

ぞわりと背筋から何かが駆け上がる

「何を謝る。」

既に緩んだ胸の下着の下から入る冷たい狐の手に、初めて触れられたその場所に彼女の身体は仰け反る。

「ひゃぁっ、やだっ」

狐は止まらない。
感触を楽しむかの様にそこを撫で上げれば彼女は身を震わせた。
狐の唇が、もう片方のそれに触れ舌を這わせば、彼女は思わず悲鳴に似た声を上げる。
未知の感触と体の痺れに、やめてと懇願する。

「ごめん、なさい、嘘、ついて…ごめん、くらっ…」

そして謝る。やめてくれると信じながら…

だが、不意に見下ろした狐と彼女が目が合えばただ絶望に打ちひしがれた。


「甘い期待は抱くな。今夜はやめない。」

熱を孕んだ金の瞳。
ゆらゆら揺れるその奥に潜むのは…剣呑な色を宿した怒りと、悲しみの色だった。

「蔵馬さん、ごめんなさい、私ー…」

わかっていた
傷付けることなど。
それでも彼女からすればそれは仕方なかったのだ。


「謝罪などいらん。」

蔵馬の瞳が熱を帯びたまま揺れ、低く呟いた狐の言葉に目を見開いた。

するりと太ももを撫で上げる手にビクリと身体が反応する。


「お前が…」

欲を孕んだ熱い瞳が見下ろす。


「悪い。」

噛み付く様な口付けが降る。


狐の慣れた手が、指が彼女の体を余す事なく這い回る。
それを辿る様に唇と舌がさらに追い打ちをかければ、彼女は痺れる様な言いようもない感覚に再び声を上げつつも、それに耐えるのだった。




ー…最後の下着が剥ぎ取られる頃には彼女はただただ体で呼吸をしている様だった。

涙は枯れ果て声も自身のものではない様な錯覚を受ける中、それでもやめてほしい、と狐を見つめるのだ。
震える身体は確かに与えられた快感と初めての感覚のものだ。
彼に触れられる事は決して嫌悪を抱くものではない、しかし心はついていかないのだ。

いつの間にか両手は解放されていた。

そんな彼女の片足を抱え、内腿に口付けを落とし舌を這わせる狐に彼女は震える手を伸ばす。


「くら、ま…お願い…やめ、て…」


震える手で彼の肌けた白装束を掴むー…


コトリー…
彼の白装束の内側から小瓶が寝床に落ちる


それに彼の動きが止まりその小瓶に視線を移せば金の瞳が微かに揺れた。




「栄子…」

熱の籠る掠れた低い声ー…
どこか余裕のない苦しげな金の瞳が彼女を見下ろす


「俺は、嘘をついた…」


なに？

ゆるりと彼の指が太腿の付け根を這う。


「っっ…」


「お前がこの世界の誰かと交われば…」


何の話？



「二度と元の世界には帰れない。この世界でしか存在出来なくなる。」



ー…え？？


頭の奥がひやりと冷えた。
否、熱が帯びていた身体さえ、一気に冷や水を掛けられた様な衝撃を受ける。


「今、なんて…」

「おまえはここで生きろ。俺と共に。」

蔵馬が秘部に指を這わした


「や、やめて…蔵馬、本当に、待って…」


聞いていない、そんなの。










『栄子、また泣いて…。はぁ…何があったの？振られた？？…それって、誰？』


秀ちゃんー…



『知らない人に着いていっちゃだめってあれほど行っただろ？』


秀ちゃん…


『おまえは本当に泣き虫だな。俺を困らせるのがそんなに楽しいか？』

蔵馬…


『愛してるよ、ずっと。君だけ（おまえだけ）だ。』

秀ちゃんに蔵馬…
未来の貴方たち…











どっかーんっっ



朧車が激しく揺れる

ぱらぱらと天井から破片が落ちてくる。


狐は「こんな時に…」と忌々しそうに舌打ちをし、シーツを彼女の身体に巻きつければ、すぐさま身を整える。


「ここにいろ。もう逃げるな、次は閉じ込める。」


「！！？」

真っ青になる彼女。

出て行く蔵馬の背を見つめたまま、自分の体をぎゅっと抱きしめる。


身体についた無数の赤い跡が目に入る。


まるで…
呪縛…


過去の蔵馬。
独占欲が人一倍強くて不器用な狐。


「逃げて捕まったらもう、きっと…」

許してはもらえない。



だけどー…
私はー…


先程落ちた小瓶が視界に入ればただ何と無く手に取った。
そして小瓶に反射された赤にハッとする。

窓に目を向ければ、外で炎が上がっている。

（燃えてる？朧車が！？？）

なぜ？
何が起こったの？




「栄子さん！！居ますか！？」

外から呼ぶ琥珀の声に急いで窓を開ける。

開けたそこにはにっこりとこちらを見上げて笑う琥珀の姿。


「栄子さん！行きましょう！！！」

「…え？」

「頭は間違ってます、さぁ、早く。黒鵺さんが頭を引きつけてくれている間に。頭の事です、すぐ異変に気付きます！！僕が飛竜で魔女の元へ案内します！だから、さぁ、早く！！」


「琥珀、くん…」

泣きそうになる。
手を伸ばし、さぁ！！と笑みを浮かべる琥珀に、助けてくれている黒鵺に…

涙が、流れたー…。





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