薔薇とお狐様4
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「どうした?」
宴会場で狐に酒を注ぐ私を見て蔵馬が不思議そうに首を傾げる。
琥珀はまたもや外出中だ。
でも、それが助かる。
「え?いや、何もないですよ?いつも通りです!」
「いやにご機嫌だな。」
それをくいっと一口で飲む。
「そ、そうですか?」
ばれてはいけない。
浮かれているなんて、決してばれてはいけない。
栄子の頭の中は、先程からずっと秀一の事だけを占めていた。
なぜ生き返ったのか
なぜあそこに居たのか
もしかして、先日見た彼の姿も幻などではなく本当に彼だったのではなかったのか…
とにかく不思議に思う点は多々あるものの生きているのなら、もうここに用はないのだ。
そう、もう…
用などない。
隣の蔵馬に視線を移す。
(蔵馬さん…ごめんなさい。)
「ささっ、飲んでください。蔵馬さん。もっと酔って。」
「…酔いたくとも酔えんな、こんな場所じゃ。」
ふんっと金の瞳を細め周りを静かに見回す蔵馬。
そしてその視線は彼女の所で止まる。
そしてさらに瞳を細めそれが妖しく光れば、さらりと髪が攫われる。
「それとも、お前が酔わせてくれるか?」
艶やかな低い声が耳を支配する。
驚き身を引こうとする彼女の腕を掴みさらに顔を近づけた。
「なぜ逃げる。」
「な、なぜって、なんでか分かりませんか!?蔵馬さん!!」
真っ赤な顔でパクパク口を開閉させる栄子。
やめて~と身をそれでも必死に引いている。
(私は最後まで蔵馬に遊ばれるのか!!)
「まぁ良い。答えはもう決まったのだろう?」
どきりと心臓が脈打つ。
蔵馬は知らない。
知っているわけがない。
この様子から彼が気付いている気配はない。
だが、それでも不安になるのは彼があの盗賊妖怪・妖狐・蔵馬だからだ。
知らないはずだ
だけど、知っていたら…
もんもんと考えに考えていれば
ー…がらりと扉が開いた。
『今夜…同じ場所で。』
行かなければ、いけない。
開いた扉から女達が雪崩れ込む。
驚く宴会場の男達。
唯一驚かないのはただ一人、栄子だ。
わらわらと蔵馬の周りに集まる女に、何事だと狐は眉を顰める。
そして、隣で立ち上がる栄子に視線を上げた。
「おまえ…」
「ごめんなさい、蔵馬さん!!そして今まで本当にありがとうございました!!!!!」
頭をこれでもかと下げる。 そんな栄子に、意味が分からず金色の目を見開く狐。
そして駆け出して行く彼女を追いかけ様と腰を上げようとする狐だったがー…
くらり…
足に力が入らず、思わず片膝を付き額に手を当てる狐。
「っ…」
(臭い消し草に薬を混ぜたか…どこでこんなもの…)
ぎりっと口元を噛締める狐。
「蔵馬さまぁ…ささ、飲みましょう。」
「あら、貴方はあちらの頭の情夫ではなくて?」
「なにを言っているの?あんなかぼちゃお断りよ?」
わらわらと女が集まってくる。
そしてそのうちの一人が狐の耳元で囁く。
「あの子、自分から私達にあなた様を売ったのよ?せっかく私達からお守りになろうとなさったのに…可哀想なお方。」
狐の額に汗が浮かび、彼の表情は険しくなる。
「あなた様のご好意を全て無駄にしたのです、あの人間は。」
屋敷に置いて行くのは心配、目の届くところにと狐は彼女を夜祖会に連れてきた。
しかし目敏い女達は夜祖会に来る前から栄子の存在を使い魔から聞いていたのだ。
女達が彼女にどのような幻覚を見せたかを狐が知ったのはその次の日だ。幻香という香を炊き、彼女に最愛の男の姿を見せたのだ。
情報収集に長けている蔵馬からすれば陽動尋問など容易い。今となってはこの様に開き直っている女もいる位だ。
本当ならば女達を殺してもおかしくない。
殺さなかったのは彼女がいたから、ただそれだけだった。
女さえ非道に殺す妖怪だと、狐は思われたくなかったのだ。
彼女に何があったかなど、だいたいの予想はつく…
あれが勝手な行動に、まして己を騙してまで出る行動はあの男が絡んでいなければあり得ない。
奇跡の水も魔女への活路も捨てたその理由など…
たった一つしかないのだ。
今回は女達の幻香は関係ない。
あたかも幻香に見せかけ、女達のせいにした犯行。
「さぁ、蔵馬さま…そんな体ではここの女達の良い餌ですわ、私と共に参りましょう?」
隣に座る女の手が蔵馬の頬に触れようとした時だった-…
ぞっとする悪寒が彼女達を包み込めば、伸ばした指も引き下がる
それは-…
「触るな…。」
ゆらりと立ち上がる狐。
ひいっと悲鳴を上げる女達。
栄子…
お前は-…
そこまでして求めるか。
狐の金が薄く開く…
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