薔薇とお狐様4
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夜祖会・六日目
「はぁ…」
朝から憂鬱な栄子。
近くの森で薬草を取るその表情は酷く疲れていた…
それもそのはず。
夜祖会は明日まで。
明日には狐に答えを告げねばいけないからだ。
『一晩身を委ねろ。』
未来の彼の為ならば、生き返るのならば良い。
一時のものだと思えばいいのだ。
だがすべて未知であり、あの蔵馬だ。
正直…
怖い……
だけどー…
答えは決まっている
迷っても仕方ない
だけど、身を委ね、未来に帰った時、彼は自分を責めるかもしれないとも思う。
色々な不安を思えば手をあげて蔵馬の元に行くのは億劫でもある。
だが、仕方ないのだ。
……??
あれ??
口元に手を当てる。
(秀ちゃん、…この時の記憶あったのかな?)
未来にとっては酷く昔の過去。
秀一は覚えていないだけだろうか…
それとも覚えていて知らないふりをしていたのだろうか…
幼い私と出逢ったのはまだ今より先だ。
今の私の記憶はなくて
幼い私と過ごした過去の記憶だけあるのもいささかおかしい
今自分がここに居る事は彼にとって意味のあるものなのだろうか…
「…あれ、意味わかんなくなってきた…」
その場でしゃがみ込み、馬鹿馬鹿と自身の頭を叩く。
その時だった-…
『会いたいよ…』
『栄子…』
風に乗って聞こえる甘い声-…
「え?」
鼻を掠める甘い香り-…
『会いたい、君に早く会いたい…』
「…なに?また、幻覚??」
栄子の瞳が揺れる。
両手で耳を押さえ頭を振る。
-…今になって、またなんで。
『栄子…』
秀ちゃん…
あなたはここにはいないんだよ
『栄子…愛してる。』
やめてよ
貴方はここにはいないって私は分かっているんだから…
勝手に瞳から溢れる涙が雪の上に転がり解ける
『やっと会えた…迎えに着たんだ、栄子。帰ろう。』
「…え??」
次の瞬間、すぐ側から聞こえた甘い声に顔を上げる
息を飲む
赤い髪が目の前で揺れる
翡翠の瞳が真っ直ぐにこちらを見て
両手を広げ立っている
「秀ちゃん…う、嘘…」
今度こそ見間違うわけはない…
はっきりと彼女の瞳に映っているその姿
手を伸ばせば彼の手が触れる
幻覚ではない
肌の感触に彼女の身は言い様もない歓喜に震えた
『栄子…やっとー…』
「秀ちゃん!!!!」
抱きつけばしっかりとした彼の温もりを感じる
甘い甘い蕩ける様な香りが鼻腔を擽る、頭の奥が溶けるように熱くなるそれに違和感を感じるも一瞬。
抱きしめられる力に体温に、この時の彼女にとってはそんな違和感など些細な事だったのだ。
ただ死んで会えないと思っていた彼に出会えたことが何よりも嬉しかったのだ…
『やっと会えた、よかった。栄子。』
甘くも優しい声が耳もとで囁かれる。
「私も!私も会いたかった!!」
さらにぎゅっと抱きしめる腕に力を込めた。
未来で何らかの方法で目覚めたのだろうか。
聞きたい事は山ほどある。
だが、今はこの温もりだけで十分だったのだ。
やっと
やっと会えた、…秀ちゃん。
そう思った瞬間、彼女の力がくたりと抜ける。
男に会えた事で安心したのか、はたまた別の理由でか…
そんな意識を手放した彼女を男は表情を変えず抱き上げようとした…
が、ぴくりと何かに反応する。
男の瞳だけが周りを警戒すれば、小さく舌打ちをし、彼女の耳元で小さく言葉を囁く。
そして、彼女をその場に残しすぐさま飛び発ったのだった。
「栄子、栄子。」
声が聞こえる。
「栄子さん…大丈夫ですか?」
薄っすら瞳を開ければ、心配そうに見下ろす黒鵺と琥珀の顔がそこにあった。
(あれ…私…)
「やっと目を覚ましましたね。…貴方の姿が見当たらなかったんで、探してたら雪の上で倒れてたんですよ?一体どうしたんですか?」
「あ…え、えっと…」
朧車の中の寝床の上に寝かされていた栄子。
頭を押さえながら起き上がる。
あれは…
確か-…
『今夜、同じ場所で。待ってる。一緒に帰ろう。』
…秀ちゃんだった。
-…待ってる。
そう言っていた。
「……ちょっと貧血で、倒れちゃったのかな、私。」
へらっと笑ってみせる。
あぁ、そうか。
-…今夜、帰るんだ。
あれは決して夢ではない。
今でも覚えている、彼が生きている温もり。
「そうですか、それならいいんですけど…。」
どこか腑に落ちない様子で琥珀は眉を寄せ、隣の黒鵺は「人間は体弱ぇんだから無理すんじゃねぇ。」と怒る。
今夜、帰る。
優しい琥珀と黒鵺、本当に…。
「ありがとう、二人とも。」
ずっとだなんて思ってなかった。
いつかこの世界とお別れするものだと思っていた。
それが今日。
いきなりだけど、今日なんだ。
「改まっていうな、気持ち悪い。」
ガシガシと彼女の頭を乱暴に撫でる黒鵺にやめてと叫ぶ。
言えない。
…彼が迎えにきたなんて言ったら、きっと琥珀も黒鵺も蔵馬に言うだろう。
そうなれば、きっと…
ううん、確実にすぐには返してもらえない。
だから言えない。
心の中で、ごめんなさいと呟く。
心配を掛けて勝手に消えるのだ、今夜。
だってー…
私がここに来たのは彼を生き返す為
それが目的なのだから-…
だから-…
私は彼と帰るためなら…
何だってしてやるんだ!!!!!
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