薔薇とお狐様4
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身を委ねるという事は、あれだ。
あれ、しかないな。やっぱり…。
私が一晩彼に付き合えば
秀ちゃんが生き返る
だから、答えは簡単だー…
分かっている。
分かっている、けれど…
ある意味、同じ彼には違いないわけで。
全く知らない人とどうってわけではないし
むしろ愛情すら向けている人には違いない
だから、迷う必要なんてないんだ。
だけどー…
「迷ってるんですか?」
「ぎゃあ!!!」
突然頭上から降ってきた声に驚き手に持っていた薬草の籠を思わず放り上げる栄子。
そのまま地面に尻餅を着く。
「どこにいるのかと思ったら、やる事はどこにいても変わらないんですね。」
パラパラと薬草が栄子の頭に降る。
そんな彼女を呆れた様に息をつきながら見下ろすのは白髪のまだ幼さの残る顔立ちの少年、琥珀。
「それは赤薬草で、こっちは黄薬草ですね。どっちも同じ種から出きるくせに効能は全く別。何を迷ってるんですか?二つとも積めばいいでしょ?使い道は違うんですから…じぃ~と見てるからどうしたのかと思いましたよ。」
「う、うん。そうだね、そうなんだけど…。」
「雪だってまだ降ります。こんな場所にいないで朧車に戻りましょう??」
「……。」
「頭にまた何か言われたんですか?」
「な、なんで!?」
(魔法使い!?)
「顔が真っ赤なんで。」
「……。」
「昨夜ですか。あぁ、だからこんな早朝からいるんですね。頭も起きたんですね。」
「ううん、蔵馬さんはまだ寝てるわ。」
(なにが昨夜なのだろうか。やはり何があったかこの子にはわかるのかもしれない。)
「まさか。」
それは狸寝入りです。と笑う琥珀。
「鼻つまんだわよ?」
「……。」
「耳だって引っ張ったわ。」
「寝たフリ、じゃないんですかね……」
はははと空笑する琥珀。
蔵馬は基本熟睡しないのは団員内皆が知っている。
それは危機管理故の本能的なものか、体質なのか定かではないが、いち早く異変に気づくのは狐だ。
「あれは爆睡してたわ、絶対。」
ぴんっと指を立て言う彼女に、琥珀は目を丸くするも、その後切なげに笑みを浮かべた。
「貴方が妖怪ならよかったのに。残念です。」
「……。」
昔、幼い自分が現世で過去にタイムスリップした時が脳裏に過る。
黒鵺に同じ様に言われた言葉。
「……例え妖怪でも、この世界には居られないよ。」
それに苦笑して「そうですね。」と呟く琥珀。
その時だったー…
「……?」
甘い蕩ける様な香りが彼女の鼻腔を擽る。
それに、くんっと鼻を引きつかせる栄子に琥珀は首を傾げる。
「どうしました?」
「なんか、今甘い香りしなかった?」
本当に一瞬だった。甘い香り。
「??…いいえ。……あぁ、まだ昼食には早いですけど、済ませますか?」
苦笑する琥珀。
それに一瞬きょとんとする栄子だったが…
「…そういう意味じゃなかったんだけど…でも、そうね、お腹減ってきたかも。」
風が花の香りでも運んできたのだろうか…
一瞬よぎった不思議な違和感は、彼女の思い出した食欲によって掻き消されたのだった。
そしてその晩。
がやがや、ざわざわ
夜祖会初日同様、狐の横に座り食事をする栄子。
相変わらずのだだっ広い座敷。
宴会場。
「……私が同席してよかったんですか?…女の人達、睨んでるんですけど。」
「気にするな。」
隣では気にする事無く、こくりと酒を飲む狐。
ちくちくと視線を感じるのは、優美な着物に身を包んだ美しい女達の視線。
他の賊達に酒を注いで回る者も居れば、賊の恋人なのかぴとりと体を寄せ共に飲むものもいる。
が、全員と言ってよいほど、錯覚を起こすような痛みある視線を感じるのだ。
「そういえば、初日って女の人達どこにいたんですか?居ましたっけ?」
「一日目は女人禁制だからな。この場には入れん。」
「え…私居ましたよ?」
「そうだ、だからここに居させた。」
「??」
蔵馬の考えは理解できない。
なぜ女人禁制の場に自分を居させたのか…
それに、蔵馬自身の立場を悪くさせないのだろうか。
「なのにお前は-…まぁいい。」
何か言いかけようとした狐だったが、すぐさま狐の興味は注がれた酒に移る。
「琥珀が今出払っている。しばらく俺から離れるな。」
「……また幻覚を見てふらふら外に行くとか思ってるんですか?」
「あぁ、そうだ。」
「トイレはどうしたらいいんですか?」
「俺がついて行ってやる。」
「!!?」
盗賊団の頭ともあろう男が、小娘のトイレについてくる…
それは…少しまずくないのだろうか?
「そ、それは…蔵馬さんの沽券に関わりませんか?というか、そこまでされたら余計嫉妬の的になりそうな…」
「琥珀がいないんだ、我慢しろ。特に夜は駄目だ。」
「……こっちでも過保護なんですね。」
はぁ…と息をつく栄子を、蔵馬は金の瞳を細め怪訝そうに見る。
「未来の俺はおまえに過保護なのか?」
「……あっ…」
思わず口元に手をやる。
「話せないか…まぁ、いいが。」
ふんっと鼻で笑いながらも、それ以上は興味がないのか、再び酒を仰ぐ。
「……。」
栄子の目に入るー…
さらりと流れる銀髪に、切れ長の金の瞳。
最後に滴る酒を舌で掬う赤い舌。
それが彼女の視界に艶かしく映る。
『一晩、身を委ねろ。』
彼女の脳裏に蘇る低くも甘い声。
「……どうした?飲むか?」
「!!!!!い、いいえ!!!?いいえいいえ!!!!」
不意に顔を近づけられ、思いっきり後ずさる栄子。
「……なんだ、いきなり意識するとは。忙しい女だな。」
そしてそれを分かってか、面白そうにくすくす笑う狐に、さらに赤い顔から湯気が出そうな栄子。
「い、意識なんてしてない!!」
「なら近くに寄れ。離れるなといった。」
金の瞳を妖艶に細め形の良い口元が弧を描く。
ゆったりと手招きをされ、栄子はまだ熱が抜けきらない顔のまま彼の隣に戻る。
「……蔵馬さんって、意地悪ですね。未来も過去も。それは変わりません。」
「意地が悪いのは生まれ持った性質だ。変わらん。」
「うぅ…。」
「で、少しは抱かれる覚悟は出来たのか?」
さらりと髪を掬われる。
髪から伝わるはずのない体温を感じる錯覚を受ければ即座にばっと離れる。
「……。意識しすぎだ、馬鹿め。」
ぱくぱくと口を開閉させ、さらに真っ赤になっている栄子を見て、狐は腹を抱えくつくつと笑う。
「蔵馬さん、もう、や、やめてください!!朧車に帰ります!!先に寝ます!!」
「今夜は琥珀がいないからだめだ。」
「他の団員さんがいるじゃないですか!!」
「信用に欠ける。」
「~~~!!」
一体なんだというのだろうか。
本当にいきなりではないだろうか。
そして再びまた感じる。
甘い香り-…
「……?」
誰かの香水の香りだろうか。
これだけ人がいて女性がいれば誰かの香りかもしれない。
だけど-…
「どうした?早く座れ。」
「は、はい。」
(…またなくなった。…蔵馬さんは気付いていないのだろうか。…狐は鼻が良いはずなのに。やっぱり香水??)
「もう少しで戻るか、…さっさと最終日になればいいのにな。」
にやりと笑みを浮かべこちらを見る狐に栄子は、はっと約束を思い出し、再び距離を取るのだった。
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