薔薇とお狐様4
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ー…その晩。
彼女が前日の様に宴会に参加することはなかった。
今夜の夕食は朧車で取ること、外に出る時は琥珀が付き添うこと。
狐が琥珀に伝え、琥珀は彼女に伝えた。
『それだけ心配させたんですよ。しばらくは従ってくださいね。って言ってる間に夜祖会終わっちゃうかも知れませんが。』
元より夜祖会に来たかったわけでも、宴会に参加したいわけでもない彼女はなんら構わなかった。
昨日の今日で彼が心配してくれているのも十分わかる。
だけどー…
朧車で狐の帰りを待つ
暗い室内に唯一の光が灯るランプ。
一人ならば勝手に思い出す、今朝の光景。
感情が日々表立って行くのがわかる。
帰らなければー…
奇跡の水をもらって、早く帰らなくちゃ。
来た意味を忘れてない。
いくら絆されそうになっても、私は帰らなくちゃいけない。
ー…開いた窓から入ってくる香水の香りが鼻腔を擽る。
脳裏に映る狐が秀一と重なる。
ー…そう、帰るんだ。
私は…
開く扉に顔を上げる。
同時に香る、女達の香水の香り。
夜の宴会に呼ばなかったのは女達と戯れる為だったのだろうか。
それでも、いい。
矛盾する痛む胸を抑えながらも部屋に入ってきた狐を真っ直ぐに見る。
「…まだ起きていたのか。」
ふっと緩む口元に細くなる金。
側まで来れば「もう寝ろ。」と頭を撫で、そのまま浴室に向かう狐。
蔵馬…
「蔵馬さん、昨夜は本当に心配かけてすみませんでした。」
狐の背に向け頭を下げる。
「…構わん。次からは気を付けろ。」
「はい、…あの、それでー…お詫びと言っちゃなんなんですが。」
彼女は口ごもりながらも、振り返った狐に掌サイズの小さな紙箱を渡す。
「…ケーキです。ここのキッチンも材料もあっちと違うので苦戦して味も完全ではないですが…食べれるとは、思います。」
「……。」
受け取った箱を開ける狐。
中にあるのは甘い香りを放つ物体。
「頭をよく使う人は糖分が必要なんです。だから、甘いものって思って。」
「…これはあの時と同じものだな?」
栄子が現れた次の日の朝に狐の寝室の前に置かれていた甘い物体を狐は思い出す。
「あ、はい。今度は形は崩れてないかと…はははっ。」
「…甘いな。」
指でクリームを掬い舐める。
「そりゃ、ケーキですから。」
「……これはお前の世界では主流の菓子なのか?」
「主流?まぁ、どこでもありますね。本来はもっともっとおいしいですよ?それは私の手作りなんで…あれですけど…。」
「…シュウにも作っていたのか?」
「……。まぁ、たまには。誕生日の時とか、位ですけど。
」
さらっと聞く狐に、それでも動揺せず苦笑しつつも答える栄子。
元々ケーキを作れるようになったのも、秀一の誕生日のケーキを作ろうとした事がきっかけだった。
「そうか…。」
「……。」
じっと蔵馬を見る栄子。
言わねばいけない…
もう、待てない…
また拒否されるかもしれない、それでも-…
「あ、あの!!!!」
改めて意を決して言葉を発した栄子だったがー…
「水が欲しいのだったな…」
ぽそりと低く呟く狐に目を見開く。
「は、はい!!欲しいです!!」
心を読まれたのかと一瞬驚くものの、それでも続ける。今日こそは引き下がれない。
「そ、そして!!やっぱり帰りたいです、どうしても!!」
ちらつく今朝の光景
女達に囲まれた狐
引き込まれる前に、振り切る。
目的を忘れてはいけない。
「……。」
「私はー…」
「わかった。」
「蔵馬さんになんと言われ様と…って、へ??」
狐の一言に一瞬で我に帰る。
そしてー…
「ほ、本当ですか!?」
ガバリと効果音がつきそうな程顔をあげる栄子。
「あぁ。」
すんなり納得した狐に一瞬違和感も過るが、それでもただ嬉しさに高揚する。
「魔女の所も運んでやろう。」
そしと続く狐の驚愕の言葉。
「!!!ほ、本当ですか!??あ、ありがとうございます!!蔵馬さー…」
驚きと嬉しさで一瞬飛び上がりかけた彼女だったがー…
「契約だ、栄子。」
「へ??」
「水もやる、魔女にもあわせてやる、だから、俺の要件も飲め。」
「え、なんですか、それ。まさか残れとかいうんじゃぁー…」
(…やはりただでは無理ですよね。)
「…違う。一つだけ要件を飲め。」
近づく狐は身を屈み彼女の顔を覗き込む。
低くも真剣味を帯びた声が室内に響く。
彼女は一度瞳を伏せるもすぐに意を決した瞳で狐を見据えた。
「……ここには残りません。」
「あぁ。」
「私は未来に帰ります。」
「好きにしろ。」
「……。」
一体この変わり様はどうしたというのだろうか。
ここまでハッキリと言う彼が嘘をつくとは思えない、要件とは一体ー…
「一晩俺に身を委ねろ。」
「!!!」
「それで後は好きにすればいい。」
フッと鼻で笑い金の瞳を細める狐。
(…け、結局、それですか!?)
真っ赤になりながら口をパクパクと開閉する彼女。
それを見て狐は楽しそうに笑みを浮かべる。
「次は冗談ではない。考える時間もやる。夜祖会が終わるまでに返事をしろ。」
「そ、そんなの酷いです!私は物じゃー…」
「おまえは誰と取引をしている?」
「!??」
「俺は盗賊だ。」
と、妖艶に瞳を細める狐に身が震える。
「………。」
「好きな男に操を立てそいつを見す見す殺すかどうかはお前の好きにすればいい。」
「……。」
「なんなら予行練習のつもりで今から一緒に風呂に入るか?」
「は、入りません!!」
夜祖会が終わるまでー…
それまでに。
納得したわけでも了承したわけでもないものの狐の威圧感に唇を噛みしめる。
奇跡の水を手にいれるためには、彼を生き返らせる為には-…
真っ赤になりながら頭を抱える栄子に、狡い狐はほくそ笑む。
彼女がどちらの選択をしようと構わないのだと-…
内に秘めて。
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