薔薇とお狐様4
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「琥珀君て結構裏切るよね。朧さんに乗る時もそうだったけど、なんだかんだでやっぱり蔵馬さん寄りだよね?」
「あ、あれは不可抗力です、栄子さん!それに頭は昨夜は本当に心配してたんですよ?あれは貴方が悪いです!!」
「う…。」
「惚れられた弱みにつけこんだらダメですよ?いつか痛い目みます!!」
あ、結構痛い目あってますね。と笑う琥珀にぷくりと頬を膨らませる栄子。
それは次の日。
夜祖会二日目の朝。
互いの部屋から出てきた栄子と琥珀が顔を合わせた時から始まった珍しいバトルであった。
互いに夜祖会の大広間にて朝食を取りながらも続くそれは、明らかな彼女の八つ当たり?だった。
「琥珀君は優しい振りして結構白状だよね。見た目に騙されたわ、私。」
「…イラついてるからって僕に当たらないでくださいよ。」
「イラついてなんか…」
「…頭と朝食取らないのも何かあるんでしょう?朝から貴方が起きないってぼやきながら先に済ませてましたよ?」
と、はぁとため息をつきながら言う琥珀に、彼女は眉を寄せ複雑な表情を浮かべれば、箸を突き刺したままのお膳を見つめる。
「…とにかく頭はすごく心配していましたよ?」
そして、さっきとは打って変わった優しい声色に彼女は顔をゆっくり上げる。
どこか優しげに苦笑している琥珀は、内心呆れているのだろうか。
「…そうだよね。心配してくれてたのはすごくわかる。」
優しく抱きしめてくれた蔵馬。
色々聞かれてもおかしくはなかった。
なのにー…
再び、はぁと彼女の前でため息をつく少年はゆっくりと朝食を再開する。
「頭は貴方には甘いんだから困ります。ここで頭の悩みの種を増やす事はあんまり歓迎しませんが…仕方ないんですよね、きっと。」
「……琥珀くん。ごめんなさい。」
「……。いきなり素直になられると対処に困りますが…まぁ、貴方ばかり責められませんね。元はと言えばこうも幻覚を見るほど追い詰めたのは頭、でもあるんでしょうし。」
と困った様に笑みを浮かべる琥珀。
「……。」
「頭には、もういいんですか?」
「ううん、これ食べたら改めて謝りにいくわ。」
きっと沢心配してくれたのだ…
自分の事で頭が一杯になっていた己を恥じる
「…そうですね。落ち着いている今が良いでしょうね。」
「うん…」
そして…
否、そう言ったものの-…
香水が鼻の奥をツンとさせる
一つならまだしも様々な香りが混ざったそれは慣れてない彼女からすれば、すごく不快なものだった。
否、不快なのはもちろん香りだけではないがー…
「蔵馬さまぁ…はい、あーん…」
「あら、こんな所にごみが…やん、失礼。」
「昨夜はどこにいらっしゃったのですか?私さみしゅうございました。」
(………。デジャブ…。)
ピシリと額に青筋の入る栄子。
蔵馬を探し屋敷内をうろついていた彼女。
屋敷から外に伸びた廊下橋。
その先にある屋根の備えられた一角。
いくつかの薄暗い赤の提灯が灯るその場所は、上質な畳が広がる八畳ほどの広さを備えた風を通す涼しげな場所だ。
風景を肴にしっとりと酒を楽しむ場所なのか、それとも…
女達に囲まれ酒を飲んでいる狐
昨日とは明らかに違うその風景
(ここはキャバクラ?クラブ?遊廓ですか??)
今日の魔界の天候は曇り
よってただでさえ薄暗い
まだ朝だというのに、薄暗さとその場所のなんともいえぬ妖艶さ。
女達は他の盗賊団の恋人たちなのか…
それとも夜祖会のために連れてこられた女達なのか…
鮮やかな着物を身に纏った艶やかな美しい大人の女性達。
そもそも、なぜこんな場所にいるのか。
蔵馬からこの場に来たのか…
それとも女達が狐を見つけて群がったのか…
否、この場合そんな事はもうどうでもいい。
目の前の光景が栄子を確実に不快にさせていた。
そして、屋敷内から廊下橋のその一角をじっと見つめる栄子の視線に狐が気付かないわけもない。もちろん、女達もだ。
「あの娘は蔵馬様の所の…。それにしても今までと毛並みが随分と違う猫ですこと。好みが変わられたのかしら?」
「あら、蔵馬様の情婦ではないでしょう?まだ発育途中の子どもじゃない。」
(こ、子供!?これが完成体よ!!思いっきり聞こえてるのよ!)
女達は本当に驚く程艶やかで妖艶だ。醸しでる色香は大人の女そのもの。体つきも雲泥の差である。
(…同じ女なのに。)
悲しくなる。
自分が卑屈になる。
蔵馬もこちらに来るわけでも、彼の表情に変化があるわけでもなかった。
目が合うも、少し細まる金の瞳に栄子の方が逆に居づらくなる位だ。
嫌な気分
自分はどうしてほしいのだろうか…
呼んでほしいのか。
側に来てほしいのか。
何もせず、ただ静かに酒を飲む余裕のある狐に些か腹も立つ。
昨日はあんなにも優しく抱きしめてくれた。
今までも…大切だと、愛しいと言ってくれた彼。
(……だめだ、むかつくし、なんか惨めだ…)
どうせ夜に会えるのだ
その時に改めて謝ろう
そう思えば、これ以上目の前の光景を直視するのが苦痛な彼女は静かに踵を返すのだった。
「あら、良いのですか?蔵馬様。彼女を放っておいて。」
蔵馬の側に一人の女が寄れば、狐の空いた器に酒を注ぐ。
「……あぁ。」
「あんなに執着されていたのに?本当に冷たい方。」
くすくす笑う女の横で無言で酒を飲む狐。
女は栄子の去って行く姿を静かに見つめ瞳を細めるのだった。
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