薔薇とお狐様1
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大好きだった-…
あなたは私の自慢で
兄弟のいない私にとっては本当の兄妹の様で
だけど、いつからか
私は分かっていたんだ
きっと、ずっと分かっていた
ただ優しいあなたに甘えていた
ただ失くしたくなかった
ただ側にいて欲しかったから-…
私は踏み出せなかったのだと。
本当に失くす意味を知れば
世界はこんなにも色褪せる-…
「生き返す方法はあるぞ。」
いつもの様に連れ戻された自室の矢先で、初めてまともに耳に入る言葉。
それに虚ろだがはっきりと瞳を見開き、ソファに腰掛ける妖駄という妖怪を見る。
他のソファに腰掛けている他の者達も彼の言葉に驚き、躯は「本当か!!?」と目を輝かせ隣で茶を啜る黄泉に、ほらみろ!!と背をばんと叩く。それに彼がむせ返っていたとは言うまでもない。
「生奇水と言ってな。900年ほど前、魔界の蛇王がそれを持っていたと聞く。禁術は呪いじゃが…それは奇跡の泉の水じゃ。死んだ七日以内ならば生き返る秘水。しかも何も制約は課せられん、優れものじゃ。」
「七日以内…あと四日か。しかし蛇王っていったらもう生きてない、殺されたと聞いた事がある。」
忌々しそうに顔を歪め言う躯に、妖駄はうむ…と髭を触る。
「そもそも、今のこの時代には存在はしないのじゃ。蛇族に伝えられた秘宝であり、もう蛇族自体存在しないのじゃが-…。」
それに何かに気づいたように黄泉が顔を上げる。
「その蛇王を殺した妖怪は確か-…妖狐ではなかったか?」
その言葉にその場にいる全員が妖駄を見る。
それに妖駄は「さすが黄泉様」と笑う。
「そうじゃ、妖狐・蔵馬が当時蛇王を討ち取り、蛇族を壊滅させ宝を全部奪ったのじゃ。…だから、その頃に…過去に戻りうまく蔵馬と交渉さえすれば、それが手にはいるかもしれん。蛇族よりは蔵馬のほうがまだ話はわかるじゃろうからな。」
(か…こ?過去??)
それに一瞬意味が分からず栄子はそのまま妖駄を凝視し呆ける。
「過去だと?そんな所どうやっていくんだ?」
それに、信じられんと言うように眉を寄せ顔を顰める飛影。
他の数名もその答えを伺うように妖駄に視線を向ける。
「ふぉふぉふぉ。わしは先日、過去に行ける妖術をこしらえてなぁ…まぁ、下等妖怪で実験済じゃ。心配せんでいい。」
それに胡散臭そうに顔を顰める飛影に、額に手を置き何やら考える躯。
そして「まじか…」と目に期待の色を乗せ嬉しそうに呟く修羅。
そしてそんな中…
「私行く!!!!」
ただ一人、鬼の様な形相で妖駄に掴みかかる栄子。
「私が行くわ!!過去に。蔵馬に会いに…っ…!!!!」
視界が歪めばくらりと体がふら付く彼女を側にいた飛影がとっさに支える。
「馬鹿が。何も食べてない奴がいきなり興奮するな。死にたいのか。」
隣では眉を寄せ焦る飛影。
しかし栄子は止まらない。
彼に支えられながらも妖駄に必死に言う。
「お願い、いますぐ過去に連れて行って!!」
それに歪む隣の男の顔。
「待て、俺がいく。」
本当に過去に行けるというのなら、これを昔の蔵馬のもとになどやるなど恐ろしい。
下手をすれば殺される。
しかしだ。
「いいや、俺が行く」とソファから立ち上がる躯に、「俺もいきたい!!」と目をキラキラさせながら乗り気で意気込む修羅。
それに、皆の発言に涙腺の緩む彼女だったがー…
「蔵馬に交渉だと?交渉する獲物も持たず何と交渉するのだ??」
冷めた黄泉の声が響く。
「蔵馬を甘く見るな。今の奴とは別人だ。交渉など生ぬるい。頭がなければそれこそ死ぬぞ。」
「そうなったら、蔵馬をころ-…」
「黙れ修羅。」
修羅の発言に飛影の言葉が即飛ぶ。
「そうなれば、盗むしか手がないな。」
顎に手をあて考える躯。
狐を傷つけず秘水を手に入れるならそれしかない。
「盗賊から物を盗むのか…面白そうだ。俺が行こう。」
黄泉の背後から妖気が微かに滲み出せば、昔のあいつも久々に見たいしな…と呟く。
それに、なら皆で…と、言いかける彼女だったが
「だめだよ。蔵馬の宝庫は妖気を寄せ付けない。妖怪が入ったら一発でばれちゃうよ。」
背後から愛らしい声色が響けば、全員が扉の方へ目を向ける。
「なっ、おまえ、どうしてここにっ!!」
修羅は目を見開き叫ぶ。
そこにいるのはにっこりと笑い手を振るテツコの姿。
「やっほう、修羅くん。遊びに来たら何か楽しそうな話してるし…。ふふふ。」
そんな彼女を見て怪訝そうに瞳を細める黄泉と躯。
気配すら気づかなかったそれに、只者ではないのだと思うのと同時に、なぜそれを知っているのかとそれぞれが警戒を見せる。
「蔵馬は人一倍用心深い。だからこそ頭も務まったんだよ。」
「おまえは…誰だ?」
心拍数や息遣いが乱れる事はない。
嘘でもハッタリでもないその様子に怪訝そうに眉を寄せ視線を向ける黄泉。
「こんにちわ、私修羅君の彼女-…」
「違うよ、父さん。」
「……。」
これは嘘か。
「とりあえず、その頃の蔵馬は一番殺気立ってる。何よりも用心深い。」
躯が黄泉に視線を寄越せば、黄泉はふるふると首を降る。
少女の発言は、嘘ではない…と。
「私、妖怪じゃないからいく。」
そして案の定それに答えるのは一番ひ弱で無力な人間の娘。
「馬鹿、行かせしない。おまえが死亡率が一番高いんだ。」
しかし、躯の言葉にふるふると首を降る彼女。
「私だから大丈夫だよ。たとえ見つかっても蔵馬は妖気も通ってない人間の女になんか興味はない。失敗しても彼に殺されるようなことにはならないわ。」
「…他にも仲間はいるぜ?血の気が多い奴らだ、たとえ殺されなく生きていても良い玩具にされておまえの人生真っ暗だぜ。」
というか失敗を前提に話すな…と呆れる躯。
それに不安気に妖駄の顔を見る栄子に彼は楽しそうに笑う。
「引き戻しの輪を使いましょう。いざ危険な目にあってもこちらに帰ろうと強く願えば帰れる、便利な輪です。」
「妖駄さん!!」
一気に輝く栄子の顔-…。
「…それこそまだ開発中ではなかったか、妖駄よ。」
ぽそりと呟く黄泉に、妖駄はふぉふぉふぉと笑う。
「この妖駄がこしらえた妖具。心配なさるな。黄泉さま。」
「……。」
「なら、私、行きます!!ね、躯さんも飛影もこれならいいよね!?ねっ!?」
「「…却下。」」
「な、なんで!?」
「…危ない。理由はそれだけだ。却下。」
はぁっと息をつく躯に、冷たくこちらを睨む飛影。
「か、過保護…。」
「蔵馬もきっとそう言うぜ。安心しろ、いつでも帰れるなら俺が行ってもいいだろう。宝庫が妖気に反応しようが問題ない。殺さない程度に痛めつけて盗んで帰って来る。」
ふふんっと鼻で笑う躯に、青ざめる栄子。
「…躯。事は穏便に済ませなされ、例え蔵馬が死ななくともひ弱な妖怪があなたの手で死ねば今の魔界にも影響が出るかもしれませんぞ。」
「…俺の存在には関係あるまい。」
「それに、あなたが動くとなれば霊界に見つかったときに厄介です。黄泉様も同じく。魔界の勢力であったあなた方は魔界の為にも過去に行くのはお勧めしません。絶対に何も殺さないと約束できるのでしたら構いませんが。修羅様はご子息…飛影も幹部となれば自粛願いたい。」
「「「……。」」」
飛影は俺は関係ない…と舌打ちするも、側にいる彼女によって開こうとする口を押さえられる。
「私がいく!!!!」
そうそれが一番いい。
そして…
確実に彼が傷つく事もないのだから。
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