薔薇とお狐様3
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「…琥珀、ご苦労だったな。」
「い、いえ。」
夜祖会の屋敷の裏口で、狐は琥珀に手を握られた女をゆるりと見る。
険しい狐の表情と鋭い瞳。
琥珀は自分に向けられているわけではないと知りつつも背筋が凍る。
先ほどまでは確かに機嫌が良かったのだ。
そう、彼女がそばにいるまでは。
先程、なかなかトイレから戻ってこないことを心配した狐が見に行けばもぬけの殻。
焦り探し出す狐に、たまたま琥珀が出会い、手分けして探した結果今に至る。
「まさか森に入ろうとするなんて、無謀過ぎますよ、栄子さん。」
「…ごめん、なさい。」
どこか心ここに在らずな感じで二人に謝罪をする彼女。
そんな彼女を怪訝そうに見る蔵馬だった。
その後、部屋に戻るも彼女は何を言うでもなく「今日はすみませんでした。疲れたから寝ます」と先に床に入る。
宿は他の賊で溢れ返っているため寝る場所は朧車の中だ。
なによりそこが一番安全な場所なのだ。
寝床の上で狐に背を向け布団に入っている栄子。
「何を見つけた。」
彼女の背に向けられる狐の低い声。
「…何もないです。綺麗な花があったから見に行っただけで…心配掛けてすみません。」
それでもこちらを向く気のない彼女に狐は眉を寄せる。
明らかに先程とは違う様子。
一体空白の時間に何があったのか…
「…眠いので、寝させてください。」
「……。」
何が、あったのか…
ぎしりと寝床が軋む
彼女の肩を掴む狐
ビクリと揺れるその華奢な肩
そして狐は目を見開いた
「…なぜ…泣いている。」
彼女の瞳から伝う涙
コロコロと布団に転がっていく
口元を抑え必死に声を殺し顔を歪ませ泣いている彼女に狐の眉間に皺が寄る。
真っ白い花が咲き乱れる
月光に照らされ光る一帯
息を切らした彼女の視線の先に確かにいた「彼」の姿。
手を伸ばした瞬間それは消え
同時に横から彼女を探していた琥珀に腕を掴まれた
それは
幻覚、だったのだ…
「見ないで、ください…ただのホームシックですから…。」
ヒックヒックとしゃくりあげ苦しげに泣く栄子。
溢れる涙は止まることを知らない。
「……。」
会いたい-…
あの人に、早く、会いたいよ…
微かな狐のため息が彼女の耳に入れば、背から包み込む柔らかな温もり
力を籠めず優しく腕を回す狐
「く、らま…さん…」
「……。」
何も言わない蔵馬。
彼女の髪に顔を埋めそれでも彼女を囲うように回した手を外すことは無い。
同じ香りなのに…
同じ人なのに…
あなたはあなたに変わりないのに…
私はそれでも「あの人」といたいのだ。
蔵馬であり南野秀一である、彼と。
「ごめんなさい…くら、さん…ひっく…」
「……。」
その日。
彼はそれ以上何も聞かず何も話さずただ静かに優しく抱きしめていてくれた。
甘えていると分かっていても、一時的にこの温もりに縋っているのだとわかっていても、私はそこから抜け出せなかった。
それこそ、南野秀一である彼が自分を慰めるそれとよく似ていたからだろうか…
何も言わず優しく頭を撫で静かに泣かせてくれる、あの仕草と。
ーendー
2013.8.6
薔薇とお狐様Ⅳに続きます。
長くなってすみません。