薔薇とお狐様3
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『しゅうちゃーん…しゅうちゃーん…』
あれはいつだったんだろうか…
知らない公園の噴水の前で一人しゃがみ込み、さっきまで一緒に居た両親と幼なじみを思い出し泣いていた幼い私。
隣の町に散歩をしにきた私達。
しかし私は通りすがりにあった公園のブランコに目を奪われ、何も言わず一人勝手にはぐれてしまったのだ。
しばらくブランコで遊んでいた私だったが、飽きれば気付く。
周りに知る人が誰もいないのだと。
皆を探そうと踏み出した足を止め、しゃがみ込む。
泣けばいいなんて思っていない。
だけど、勝手に出る涙は止まらなくて…
じっとすればするほど溢れ出る。
-…だけど動いてはいけない。
-…きっと見つけてくれる。
『栄子!!!』
どれほど時間が経ったのだろうか。
何度彼の名を呟いただろうか-…
夕日が差し込む公園。
ゆらゆらと風で微かに揺れるブランコ。
ゆっくりと振り返れば、こちらに駆けてくる見知った姿。
自分より大きくそれでもまだ幼い少年は私の顔を見れば安堵の表情を見せ、しゃがみこむ私を抱きしめた。
溢れる涙に夕日が霞む。
二つの重なる影が伸びていく。
『勝手にどっかいっちゃだめだって行っただろう?』
怒っているのだと分かるも、微かに震える彼の声。
優しく頭を撫でる彼に私は再び涙腺を酷く緩ませながら精一杯抱きついた。
『ごめんなさい!!もうしゅうちゃんからはなれません!!!』
そう言って私はわぁんわぁん泣きながら、彼の背中に手を回したのだ。
-…あなたから離れないと、あの時本気でそう思っていた-…
彼女の瞳から流れるそれを狐は指で拭う
静かに彼女を見下ろす狐
見つめる金の瞳がランプの明かりでゆらゆらと揺れる
「そんなにシュウがいいのか…。」
たった今この唇から紡がれた男の名。
「…馬鹿な男だ。」
死んで女をこの過去にやるなど…
俺がそれを見逃すわけもないだろうに…
「ん…くら…ま…」
「……。」
寝言とは参る。
しかも普段とは違い呼び捨てだ。
心なしか頬が揺るむ己に、らしくない気持ち。
この感覚は酷く心地良い。
今までに無いほど。
だからこそこの口が別の男の名呼ぶことに酷く腹が立つのだろう。
「おまえは結構なたらしだな、栄子よ。」
だからこそ期待もしてしまう。
その時だった-…
ふっと彼女の体が薄くなる
「!!?」
目を見開く狐。
すぐに彼女の頬に手を当てればそれは一瞬で元に戻った。
「…これは…」
時間は遡る-…
『……存在がなくなるだと?』
低い蔵馬の声が客室に響く。
そんな彼の前でこくりと静かに頷く女…魔女だ。
『…正確には消えるといった方が正しいわね。元々彼女はこの世界には居てはいけない存在なの。あなたが現代に返す道を奪ってしまった事で、自然と彼女の存在は薄れていくわ。』
『……。』
『歪みは歪みしか生まない。どこかで調整が必ず入る。世とはそういうものよ。』
『…それを信じる要素は?』
『あら、数日もしないうちに目に見えて分かると思うけれど?』
わざわざ魔女が、呼んでもいないのにまして未契約にも関わらず、自ら足を運ぶその行動。
誰かに依頼されたとしても、魔女がそこまで利益に成り得るか分からない契約の為来るだろうか。
確実に娘とこの魔女には何かしらの繋がりがある事は必須だ。
-…魔女は娘を元の世界に戻すためにきたのだ。
『…さぁ、あなたは何を望むの?彼女の死?』
にっこりと笑う女。
胡散臭い笑み。
それでも女の言葉は嘘はついてはいない。
だが、釈然としない感覚。
嘘はついてはいない、だが-…
『…元の世界に返す場合は、時間はどれ位掛かる。』
『あら、返す気になったの?意外だわ。』
『聞いているだけだ。』
『そうね…一ヶ月程、かしら。彼女自身も耐えれて同じ位ね。』
『……。』
『さすがにあなたでも悔いてるのね。自分本位のせいで彼女を危険に晒している事。』
狐は顔を歪める。
確かに魔女の言うように己の欲の為、ここに引き止める為帰る術を奪ったのは事実だ。
だが、それを悔いているかと言われればどうか。
『しばらくここに居させてもらうわ。あなたも悩んでいるようだし。』
そう、女は嘘は言っていない-…
だが、真実を話してるわけではないのだ。
-…歪みはどこかで修正がはいるものよ。
魔女の言葉が狐の脳裏に過ぎる。
本来なら過去に存在しない栄子。
「蔵馬、おまえの思っていた通りだった。猫と鼠が手を組んだ。」
過去に傾いていた思考が窓の外から掛かる黒鵺の言葉で現に戻る。
今だ移動中の朧車。
「そうか。」
「雲海だけで平気か?」
「勝手に居座ってる客がいる。あれがいれば問題はないだろう。」
狐の柔らかな視線が眠る女に向けられその頭を優しく撫でる。
しかしそれもしばらくの間。
狐は瞳を伏せ、撫でていた手を止める。
「黒鵺。」
低い狐の声が窓の外にいる黒鵺に呟く。
それにやれやれと頭を掻く黒鵺。
「あぁ、鬼頭山も行ってきたぜ。情報提供だけなら金だけで済んだが、かなり高額だったぜ?やっぱ噂通りのけち臭い魔女だな。」
二度とあんな所に行かせるなよ。とげっそりする黒鵺に苦笑する蔵馬。
「悪かったな…じゃぁ、話してくれ…」
みすみすこれを返すなど
あってたまるか…
「これをこの世界に存在させる術を。」
狐は女の髪を手に取りそれに唇を寄せた。
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