薔薇とお狐様3
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「雪が止まないね、琥珀君。」
「そう…ですね…。」
その次の日。
二人は琥珀の部屋にいた。
窓から外を見る彼ら。
はぁ…と息をつく栄子を横目で見る琥珀。
魔女がこの屋敷にいる事を言うべきか言わないべきか…
蔵馬にばれた時点で罪悪感を感じている琥珀だったが、こうも凹んだ彼女を見れば言ってやりたくなるのも仕方ない事だった。
「…いつ魔女に会いにいけるんだろうね…」
再びはぁ~と息をつく彼女に、琥珀はよしっと意を決する。
何度も葛藤した結果、やはり琥珀に彼女は見捨てられないのだ。
「栄子さん…あの…」
「ん?」
「えっと…実はですね、この屋敷に-…」
そう琥珀が言いかけた時だった。
バァン!!!
扉が激しく開のと同時に
「琥珀と栄子出かけるぞ。今夜は夜祖会だとよ!!」
と、叫ぶ黒鵺の姿。
えぇ~…と、デジャブを感じる琥珀に、目をまん丸に見開き驚く栄子。
「早くしろよ。今呼びが掛かったんだ。今回は雲海が留守番だ。」
そう言えば、黒鵺はさっさと出て行き隣の部屋を琥珀の部屋と同じ様に乱暴に開け放し先程と同じ言葉を言っている。
どうやら彼は今回連絡係りな様だ。
「黒鵺さん、あんなにノックしろって自分で言うくせに…自分は本当にしないよね。ところで、夜祖会って何?琥珀君。」
「あぁ、夜祖会はですね…各盗賊団の面々が集まる集会みたいなものですよ。」
(…栄子さんもノックの意味ないですけどね。)
「各盗賊団?」
「えぇ、主に頭だけが出席しますが、年に数回幹部が皆集まるんです。言ってみれば早い話、襲撃する場所を互いに被る事が無いようにするんです。」
「…そんなのあるんだ、へぇ。」
「まぁ、腹の探り合いも多々あれば裏切りもありますけどね。ですが、どこの盗賊団もうちと襲撃場所は被りたくは無いと、そう思ってはいますから今の夜祖会はある意味頭の襲撃場所の把握ですね。」
「…そういうの言うんだ、蔵馬さん。」
「言いますよ。言うから強いんです、面と向かって僕たちに喧嘩売ってくる盗賊団はいません。頭が培ってきた成果でもありますけどね。」
ー…卑怯な輩もたまにいますけど。と笑う琥珀。
「慎重だから言わなさそうなのに。」
「ふふ、頭は誰よりも慎重ですが、結構好戦的でしょ?だから言うんです…相手を翻弄させるのも、策を立てるのも頭の一番得意とするものですし。」
「ふーん…」
いまいちよく分からないが、ここの盗賊団はやはり蔵馬あってのものなのだという事は分かる。
「あ、こんな話してる場合じゃない。……って、僕だけじゃなくて栄子さんも呼ばれましたよね?」
「?…うん。」
「……。」
(…男ばかりの集会に連れて行くなんてなんでだろう?)
琥珀は意味が分からず首を傾げる。
「まぁ、いいです。栄子さん支度してください。着物も化粧も手伝いますから。」
「は、はい!!」
そして-…
ごおおおお-…
外は吹雪。
しかし、屋敷の前…
目の前に止められたのは大きな牛車?ではなく…
「な、なにこれ…」
青ざめる栄子の目の前にある異形の車。
昔の平安時代にでも使っていた様な牛車みたいなつくりだが、簾が掛かっているであろう場所に大きな女性の顔があるのは気のせいだろうか。
「朧車(おぼろぐるま)っていうんです。…こら、彼女が怖がっているでしょ、顔しまってください。朧さん。」
琥珀が朧車の朧さんに向かってそう言えば大きな顔は消え簾に変わる。
「え、本当にコレ乗るの?本気?まじで??」
「そうですよ、さぁ、早く。乗ってください。」
「で、でも-…」
(怖い、久々に怖いよこれ。顔はどこいったの??牛もなんだが、歯がむき出しだし!!!)
妖怪だらけの中で生活し慣れている栄子だったが、明らかなその異形の物体に乗り込むにはさすがに躊躇された。
だが…
「怖がれば食われる。怖がるな。」
背後から低い声がしたと思えば浮く彼女の体。
「わぁっ」と小さな悲鳴を上げる栄子だったが、香る香りと体を抱える腕の感触に自然と体が固まる。
「く、蔵馬さん…!!」
後ろに顔を逸らし狐を見れば彼は気がついたように笑みを浮かべた。
「ほう、化粧をしたのか、着物も似合っているな。…これはなかなかそそられる。」
と、彼女の姿に悪戯に瞳を細めれば色香を含む声が落ちる。
「ま、またそういう事言って…」
どこかその妖艶な瞳にごくりと唾を飲み込む栄子。
(この狐様は私が言ったことを忘れたのだろうか…)
水に流してなしにするといったばかりだというのに、この狐の発言。
栄子は内心呆れる。
そして狐は栄子を抱きかかえたままその簾の中に入った。
「わぁ…!!!」
簾の中は外見とは全く違い、大きな部屋。
屋敷の広間よりは狭いもののそれでも十分広い。
「次元が違う場所だ。この部屋はこの世のものでありこの世のものではない、そこらの襖を開けば又違う部屋に繋がっている。」
「ってことはここは移動する屋敷ってことですか?」
「屋敷ほど広くはないが、生活するには問題ない場所だ。すでに幹部何人かはそれぞれの部屋に入っている。現地に着くのは半日後だ。それまで好きに生活すればいい。」
「す、すご…はっ!!!」
そして気付く。
「もしかして、これって蔵馬さんの所有物ですか?貸して欲しいときは言えば貸してくれますか?」
これがあれば魔女にいつでも会いにいけるではないか。
「ほう。何に使う?…俺も一緒に乗らなければこれは動かないが?それでもいいなら構わない。」
「う…。」
ふんっと見透かしたように笑う狐に、赤くなり俯く栄子。
取り合えず自分も部屋に行かなければ。
そう思い降ろして欲しいと頼み、周りを見回す。
が-…
「部屋の数は限られている。」
耳元で囁く低くも艶やかな狐の声。
そして今だ降ろす気のなさそうな狐の腕。
(はい?)
「おまえは俺と同じ部屋だ。」
(はい~~~~!!!!?)
驚愕に見開く栄子の目と口。
「え、いや、なら私琥珀君と同じ部屋がいいです!!!ね、琥珀君って、あれ?どこ行った?琥珀く~ん!!!」
「琥珀ならとっくに部屋に入ったぞ。」
「へ?」
(い、いつの間に!!う、裏切りもの!!)
実際は蔵馬の無言の視線により(早く部屋にはいれ、という強制的な殺気を含んだ視線)に退却した琥珀だった。
「おまえの怪我はもう治ったのだろう?」
「へ、あ、はい、お、おかげさまで…。」
(な、なんだなんだ?)
いきなり切り替わる話の内容に一瞬意味が分からない栄子。
そして、どこかこちらを見る狐の金の瞳が熱っぽいのは気のせいだろうか。
「ならいい。」
そして頬にちゅっと口付けられれば、さらに目を見開く彼女。
そのまますたすたと狐の部屋であろう場所に向かえば、彼女の脳は一気にフル回転した。
「あ、あの…私、ここで、ここで生活します!!この居間っていうんですか??この広間で。」
(だめ、だめだめだめだ。この狐さんは完璧私の言葉忘れてます!!!)
「この広間に寝床はない。」
「わ、わかってます!!」
(だから言ってるんです!!)
「……。」
「私お布団無くても寝れるし、正直どこでも寝れるっていうか、ここで寝たいっていうか…」
「俺はおまえの言葉を承諾した覚えは無い。」
「だから…って、え??」
思わず見上げれば、そっと唇に触れる長い指。
間近で見つめてくる金の瞳。
それに栄子はごくりと唾を飲み込む。
「俺があんな言葉で納得すると本気で思ったのか?」
「あ、あの…な、なら怪我人に手を出そうとした蔵馬さんを許しませんよ?」
「構わない。」
いつの間にか、部屋の前に着けば彼は襖を開け中に入る。
「何も良いことありませんよ。私人間だし、帰るし!!しかも、私…」
(私…!!)
「貴方の事好きじゃないんです!!」
「……。」
ぴたりと止まる狐の足。
「だ、だから…やめてください。こういうのは、困るんです。」
(言ってしまった…だけど好きだから困るのだ。大好きなあなただから…過去でもあなたに違いないから。)
だから、嘘はつかなければいけない…
だって…そうしなければ-…
「…構わない。」
しかし、低い狐の声と共に狐の背後にあった襖はぴしゃりと閉められる。
(…え?)
胸が痛みながらも言った言葉に関わらず、返ってきた狐の言葉に栄子が顔を上げれば細まる金の瞳がじっとこちらを見下ろしていた。
「それでも構わない。」
そして言葉と共に落ちてくる唇にはっとすれば慌てて俯く。
「……。」
「よ、よくないです!!私は秀ちゃんが好きなんです!!!蔵馬さんのその気持ちは一時的なものです!!今だけです、しっかりしてください。」
ばくばくなる心臓の音。
薄暗い室内。
微かな橙のランプの明かり。
-…過去の蔵馬とこれ以上は無理だ。
「……俺を見て言え。」
「!!?」
(…なに?)
「顔を上げろ栄子。」
ぐいっと顎を掴まれ顔を上げられる。
揺れる金の瞳が栄子の目に映る。
熱を孕む濡れた瞳。
「目を見て言え。俺など嫌いだと、自分は他の男が好きなのだと。」
「…あ…」
なんで…?
「ほら、言えるだろう?」
唇を狐の親指が沿う
見つめる金の瞳は彼女の言葉を待つ。
それでも獰猛さを孕んだ獣の瞳に見えるのは気のせいだろうか…
「わ、私は…」
私は…
秀ちゃん…
蔵馬…
「私は貴方のことなんて…」
好きだよ、蔵馬。
好きだよ、でも…
脳裏に蘇る未来の貴方-…
私は…捨てれない
譲れない…
例え同じでも。
「…こんな事する蔵馬さんは本当に嫌いです。…それに私は秀ちゃんが好き、です。だから…あなたと先日の様な事はできません。」
意を決して見るのは、切なげに揺れる狐の金の瞳。
そして、歪む視界に自分の瞳が少なからず潤んでいるのだと理解する。
「だから…ごめんなさ-…っんっ」
しかし次の瞬間塞がれる唇の熱。
噛み付くような口付けに意味が分からず彼女はどんどんと彼の胸元を叩く。
「んっ…っや、話が…違っ…」
逃げようとすれば後頭部を抑えられ深い口付けがさらに襲う。
そしてそのまま寝床に倒され、さらに狐の口付けは勢いを増す。
がりっ
「っ…」
「はぁ…蔵馬さん、何…するんですか…」
離れる蔵馬の唇。その下では息を荒くし狐を見上げ睨みつける栄子の姿。
狐の下唇の端に出来た生々しい噛み傷と、彼女の唇についた赤い血。
狐はくすりと妖艶な笑みを浮かべれば「なるほど」とぺろりと自身の唇を赤い舌で舐め取る。
「体力が戻ればこうも反抗的になるとはな。」
くくくっと笑う蔵馬に、どこか背筋が凍る。
「…俺が欲しいものを諦める性格だとでも?」
妖しく微笑む形の良い唇。
さらりと頬の横に流れる銀の絹の様な髪。
熱に浮かされた金の瞳。
その奥で見え隠れするのは獣の様な欲を乗せた色だ。
「か、体を好きにしても心は好きに出来ませんよ!!?」
それでも歯向かわなければ何も変わらない。
「ほう。なら試してみるか?」
耳元に落ちる狐の唇に栄子の身が竦むが…
「私は絶対好きにならない!!!」
「……。」
「私は秀ちゃん一筋です!!!!」
「……。」
これでもかとあれやこれやと叫ぶ栄子に、耳元ではぁ…と息をつく狐。
「色気の欠片もない女だな。」
そしてむくりと起き上がれば、銀の髪を掻き揚げ栄子をじっと見下ろす。
「…蔵馬さん。」
「俺は本気だ、栄子。」
「っ…」
そしてそのまま彼女の横に寝そべれば、ぐいっと彼女の腰を引き寄せる。
「っ!!!!」
「今日はもう何もしない。寝ろ。」
後ろから彼女の首元に顔をうずくめる狐に一瞬硬直する栄子だったが…
彼の様子が先程と違うのだと分かれば一気に力が抜けて行く。
生まれた時からある見知った安心する香り。
それは蔵馬であり秀一である愛しい香り。
急速な安堵感が身を包む。
それこそ彼らが彼女に与えてきたものだ。
そして…
「…なぜだ?」
すぐさま隣で爆睡しだす彼女を見下ろしながら狐は面白くなさそうに呟くのだった。
.