薔薇とお狐様3
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それから数日ー…
「はぁ~…」
大きなため息に寝床の上でうな垂れる栄子。
がたがたと揺れる窓。
そこから見えるのは真っ白な雪世界…否、大吹雪。
(…一体この雪はいつ止むの??)
あれから琥珀に場所を教えてもらったのは良いものの、未だ外はこんな感じだ。
これでは場所を知っている所で行く途中で遭難確定だ。
『本当に行くなら僕がついて行きます。あ、頭には内緒ですよ?』
あの後、そう言ってくれた琥珀だが、流石にこんな外に引っ張るのは気も引けるというもの。
再び、はぁ…と先ほどよりも大きく息をつけば再び布団の中に潜る。
(憂鬱だ…。ただでさえ、色々考える事が多いのに。)
あれから数日たった今でも彼女の心境は晴れることは無かった。
琥珀が全部話してくれた。
自分に憑いていたのはおそらく蛇族の怨霊だったと。
そして、その呪縛を自分自身で解いたのだと。
そして…その後、団員内にいる蛇族のスパイを蔵馬が一掃したのだ。
納得する部分もあるのだが、どうもすっきりしない。
怨霊と言えば実体がないものではないのだろうか。
怨霊に憑かれた事事態初めてだが、あの時心の中に流れるように感じたもうひとつの感情がただの怨念だったのだろうか。
分からない…
ただ、彼を…
蔵馬を愛しいのだと愛しているのだと、ドロドロした憎しみの感情の合間に感じたのはきっとまちがいではないだろう。
そしてー…
今でも脳裏に蘇る蔵馬の自分への行動。
あの時に真っ直ぐに伝わってきた彼の気持ち。
それでも行き過ぎた彼の行動はそうそう許せるものではない。
(いくらなんでも、壊すことはないよね。)
帰るなと言ってくれた事が嬉しくないわけではない。
だが、自分が過去に来た意味はそんな感情で消し去れるほどのものではないのだ。
未来の幼なじみを、今となっては愛しくてたまらない彼を生きかえす為ここに来たのだから。
決してここで過去の彼と生きて行くために来たわけではないのだ。
(うん、やっぱり犬にでも噛まれたと、そう思っておこう!!深入りしちゃだめよ栄子!!私にも蔵馬にとってもよくないわ!!)
数日前からそう思い込むように務めている栄子。
しかも運良くこの数日は蔵馬を見ていない。
だからこそ、冷静になれるのかもしれないが。
(そういば…あの時、怨霊は彼を殺す為に、彼の身近にいる私に憑いたのだろうか??)
独占欲と歪んだ愛。
確かに体が支配されていた中、途中で感じた殺気は間違いではない。
だけど-…
「…?あれ??」
思わず布団から顔を出し口元に指をあて頭を捻る。
(そういえば、私いつから体の自由が効かなかったっけ??)
雲海と外でキノコを探しに行って…
それから-…
それから-…
************
「頭、聞いてますか!!?」
酒瓶を背に隠し意気込んで言う琥珀。
「……。」
「黒鵺さんが許しても僕は許しませんよ?どんな理由にせよ女性に無理やりあんな事するなんて。」
暖炉の火がちかちかと赤く火花を放つ。
温かな蔵馬の部屋に響く琥珀の声。
寝床に座り、立てかけた膝の上に腕を気だるげに掛けた狐はもう片方の手で長い銀髪を掻き揚げればそこから覗く金の瞳が床に正座をし狐の酒を背に隠す少年を面倒臭そうに見据える。
「何を今更。」
返せ。と金の瞳を細め目の前の少年を睨む。
「駄目です。何こんな昼間から酒なんて飲んでるんですか、やけ酒ですか!!?やけになるまえに頭はすることがあるでしょう!!?ここ数日どこにいってたんですか!!?彼女に謝りもしないで!」
「…おまえは俺が初め栄子にしようとした仕打ちを知らないわけではあるまい。今更何を驚く。」
「あの時の頭は本気じゃなかったこと位分かります!!黒鵺さんも分かってます!!!嫌がる女性を頭は力でねじ伏せる事はしないって、皆分かってます!!」
「…ほう。賢い部下ばかりだな。」
関心だ、とくすりと笑う狐に「話し逸らさないでください!!」とくわっと顔を歪める少年。
「彼女に謝ってください、頭。このままじゃきっと良くないです。嫌われたいんですか?」
「言われなくともそのつもりだ。少し急いた。怪我人には違いないのにな。」
「違います!!そういう意味じゃなくて…ってそれも確かにそうですが、栄子さんもう自分の世界に帰れないかもしれないんですよ!?どれだけ彼女が凹んでいるか頭知らないんでしょ!!?」
「……。」
「彼女にとってここは魔界で-…」
言いかける琥珀の言葉がそのまま狐を見上げたまま止まる。次第に青ざめて行く少年の顔。
ひやりと背筋が凍り嫌な汗が流れる。
「それを俺に謝れと。琥珀よ、俺がなぜそこまでしたか分からないわけではないな。」
冷え冷えとした蔵馬の金の瞳が冷たく琥珀を見下ろす。
まるで馬鹿なことを聞くなと、そんな感じだ。
「あれをあちらに返す気がないから壊しただけだ。それを俺がどう謝る。」
「そ、それは…でも、栄子さんの気持ちも聞かずに、ひ、酷いです!!頭本当に嫌われちゃいますよ!!?」
「構わん。」
「えぇ~~…」
なんですかそれ…と項垂れる琥珀。
「ここに残るならそれだけでいい。」
そしてそんな琥珀に笑みを浮かべる狐。
どこか切なげなその笑みに少年は眉を寄せる。
「……頭。」
その時だった-…
「蔵馬さん!!」
扉が激しく開くのと同時に声を上げてずかずかと入ってくるのはたったいま琥珀と狐が話していたその人物だ。
「栄子…」
目を見開き呟く狐。
ぽかんと口を開けたまま彼女を見る琥珀。そして少年は「ありえない…」とがくりと肩を落とす。
そしてそんな様子にお構いもせず周りを見回す栄子はその視線が少年の姿に止まれば残念そうに眉を寄せ「あ、琥珀君だったんだ…なんだ、そっか。」と、息をついた。
「…一体どうした?」
「いいえ…ちょっと声が聞こえたものだから、いつもの……っ、あ、いいえ、ちょっと琥珀君を探してて…ははっ。蔵馬さんご機嫌いかがですか、なんて。」
それに怪訝そうに眉を寄せる狐。
そんな狐にわざとらしく頭を掻きながら空笑いを見せる栄子。
「……。女達か?」
「い、いえ…そういうわけじゃないんですが、で、でも…次はいつ来るのかは気になりますね…うん、また隣で騒がれても迷惑ですし。うんそう、次はいつくるんですか??蔵馬さん。」
明らかな動揺っぷり。
それでも下手をすれば避けられて当然のはずだが、彼女のこの様子。
あの震えていた女とは思えないほどの変化に蔵馬自身戸惑わないわけがない。
否、何かあるのだと思いながらもそれでも頭と心は裏腹だ。
(…この女は俺の言った言葉を理解していないのか。)
愛しいのだと言ったはずにも関わらず、なぜ別の女を呼ばなければいけないのか。
「…女達はもう来ない。」
胸の奥がずくずくと黒くなるこの感覚。
顔に出したくなくとも眉間にしわが寄るのが自分でも分かる、そして勝手に出る低い声色。
「え、なんで!!?」
それじゃぁ困ります!!と騒ぐ栄子。
「……。」
そして、そんな狐と栄子の側では真っ青になり両頬に手を当てる琥珀の姿。
「来てくれなきゃ困るんです、あ、いや…私邪魔しないんで、別にいいですよ??」
へらっと笑いそう言う彼女。
そして彼女は踵を返す。
「……。」
琥珀を探していたのではないのか…と思うものの本当の目的は別にある事等明確。
そして、この部屋の禍々しい空気に気が付いていないのはこの能天気な娘ただ一人だ。
部屋から出ようとしていた栄子は「あ!!」と声をあげ振り返る。
「…。なんだ。」
未だ不機嫌を隠し切れない狐…
そんな彼に、さらに追い討ちがかかる。
「この前の事は水に流します!私もかなり迷惑かけたんでおあいこという事で!!私はまだ帰る気満々です。だから、蔵馬さんの言葉は聞かなかったことにします。あ、謝らなくてもいいです、壊したことは許せないけど、壊さないいと約束はしてなかったし…。あ、でもちゃんと例のものは下さいね!!」
ばばばっと言いたいことだけを言えば、走り去って行く栄子。
そしてそんな彼女と入れ違いで入ってくる黒鵺だったが-…
呆然と青ざめた顔で座り込む琥珀に、寝床の上で大きく項垂れる狐の姿を見れば、なんだ?と瞳を瞬かせる。
「琥珀…」
「はい…何も言わなくていいです、頭。うん、きっと嫌われたほうがましでしたね、今のは。」
「……。」
「無かったことにしてください、は一番効きますね。」
恋愛に疎そうなのにすごいですね、栄子さんと呟く琥珀。
そして静かに額に青筋を立てる蔵馬の姿。
そして-…
なるほど、と苦笑する黒鵺。
「蔵馬…客だが、今は、やめておくか?」
女にこうも振り回される狐を見るのは面白い反面酷く不安になりながらも自分がここに来た役目を果たす黒鵺。
「客、だと?」
「あぁ、……しかし、魔女がなんで来るんだ?」
と怪訝そうに言う黒鵺。
それに眉を寄せる蔵馬。
ぎくりと肩が上がる隣の少年に視線を向けるも彼はふるふると首を振る。
「僕は提案しましたが呼んでません!!」と馬鹿正直に言う琥珀に蔵馬はやれやれと息を付いた。
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