薔薇とお狐様2
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
窓から入る月明かりが高く上げられたナイフの刃に反射する
金の瞳はそれを真っ直ぐに見上げ見据える
しかし、振り下ろされるその途中でピタリとそれは止まる
ナイフを持つ手をブルブルと震えながらも掴むもう一方の華奢な手。
「くっ…」
漏れる彼女の声。
狐の頬に落ちる涙の石
狐の息が止まる
瞳孔が開く
毛が逆立つ
月夜に反射する『本当の彼女』の顔
キラキラ光る涙
苦しげに眉を寄せ自分の手首を抑える彼女
金の瞳は細くなり揺れる
苦しげに切実に涙を流すその彼女の表情。
痛々しく苦渋に満ちたそれ。
何かと戦うその様は本人はよほど苦しいに違いないものの、狐からすれば自分を刺すまいと己を制するその表情に恍惚と魅せられる。
己の事でコレは表情を変え、涙を流す。
それだけでこんなにも胸の内が熱くなるのだ。
だが、次の彼女が苦しげに呟く言葉に狐は我に返り、己の愚かさを呪った。
「私を、殺して…」
唇を噛み締め、未だ振り下ろしそうな右手を掴み涙を流す彼女。
それに目を見開く狐。
金の瞳がしっかりと彼女の瞳と合えば、
一瞬ふわりと酷く哀しげに微笑んだ。
…なぜ?
笑う?
呼吸を忘れる。
「ごめん、ね。」
月明かりがさらに彼女の体を照らしたー…
気付けばすでにおかしかった
自分の意思とは関係なしに自由に動く身体に口
これは私ではない
だけど、そんな事伝える術など何もないのだ
だから、蔵馬が『私』を見つけてくれた時は本当に嬉しかったの
だけど、同時に感じるのは
激しい憎悪だった
愛するがゆえの憎しみ
行き場のない愛情
愛されない悲しみ
愛情と憎しみは混ざる事はなくとも、裏と表の一対の感情
憎しみは憎しみを生む。
螺旋の様に終わりなく続く厄介なもの。
自分のものではないドロドロとした感情。
吐き気がする
気持ちが悪い
支配されるー…
もうだめだと思った
真っ黒な闇に飲み込まれて
染まっていく
だけど、さらにぞっと背筋が凍るように寒くなった
感じたそれは
ひどい喪失感と優越感
矛盾している二つの感情
痛いほどあの時感じた私の感情と
彼女の歪んだこれから感じるであろう優越感
何に悦を感じるのか
目の前にいる蔵馬
掲げたナイフ
私は何に喪失感を味わうのだろうか
二度と味わいたくない感情
決してなくしたくない命
光るナイフが月光を浴びる
わかっている
蔵馬なら簡単に避ける事も
防御する事も出来るのだと
余裕の彼の瞳がそう語っている
だけどー…
そう思っていても死ぬことだってある
あの時みたいにー…
そして
また彼を危険に晒している
自分の浅はかさと愚かさに
私は自分が許せなかったー…
・