薔薇とお狐様2
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時は同時刻-…
「蔵馬さん!!!」
いきなり蔵馬の自室に飛び込んできた人間の娘・栄子に暖炉の前で椅子に腰掛け本を読んでいた狐は何事かと顔を上げた。
はぁはぁと荒く息をする娘。
頭や肩に薄っすらと雪が乗っている事から外に出ていたのだと見て取れる。
「…どうした?」
それに怪訝そうに眉を寄せる。
こんな夜中に雪の中、外で一体何をしていたのか…
「あ、い、いえ…あ、あの……、ほ、本を、本を貸してもらいたくて!!!」
「雪の中を駆け回ってきた理由はなんだ?薬草でも摘んできたのか?こんな日に。」
「え、はっ!!」
自分の身に掛かる雪に気づき、廊下で振り落とす彼女に狐はやれやれと息を付く。
本をテーブルに置けば頬杖えを付きながらも、「寒いだろう、こっちへこい」と手招きをする狐。
それに「すみません。」と呟きながら側に寄る栄子。
向き合うように彼の前にいき、床に正座をすればじっと彼を見上げる。
揺れる栄子の瞳。
それをきょとんとしながら見る狐。
「……なんだ?」
しばらく経てば狐も呆れた様に金の瞳を細めそう呟く。
「はっ…、と、すみません。」
あちゃぁ…と頭を抱えその場で蹲る彼女に、何か変なものでも食べたのかと心配になる狐。
明らかに様子がおかしい。
そしてなぜ外に出ていたのか…
そして窓から外を見て気づく…
「黒鵺のところに行ったのか?」
そう言えば明らかにびくりと肩を震わす彼女。
それに眉を顰める。
「なにか言われたのか?」
「ち、違います。行こうとしたんですけど、琥珀君と話し込んでたのでやっぱり帰ってきたんです。」
へらっと笑う彼女に首を傾げる狐。
まぁいい…
狐は息を付けば「好きな本を読めばいい。」と顎で本棚を差す。
「…は、はい。ありがとうございます。」
慌てて立つ彼女は本棚の所へ行く。
そして、再びテーブルに置いた本を読む狐。
「……。」
ちらり-…
「……。」
ちらちら…
ちらり-…
「なんだ?」
栄子のこれでもかというちらみ視線に瞳を細め栄子を睨む狐。
それに彼女ははっとし「なんでもないです!!」と顔を本棚に戻す。
「………。」
「……。」
危ない、危ない…
栄子は内心息をつく。
先程、黒鵺の所へ遊びに行こうと小屋に行った栄子だったが、入ろうとしたした瞬間聞こえてきた黒鵺と琥珀の会話にその場から動けなかったのだ。
おそらく気配を消す白華石の指輪の影響か、黒鵺と琥珀が気づくはずもなかった。
当初、黒鵺を疑っていたと思っていた蔵馬の言動は彼の蛇族のスパイへの警告だった事
あの時、誤解して思いっきり頬を叩いた事を今になり悔やむ
(疑って、ごめんね…蔵馬。)
そして、まだいるであろう蛇族との決着がまだ付いていない事
あの襲撃もそうだ
きっと蔵馬の事だ-…
自分を責めているに違いない。
警告したにも関わらず屋敷襲撃という事態に見舞われ、部下を数名亡くしたのだ
凹む様子を微塵も見せない彼
否、見せれないのだろう…
黒鵺と琥珀の話の内容は栄子に多大な衝撃を与えた。
気づけば彼女は再び屋敷に戻り蔵馬の部屋へ直行していたのだ。
何をするでもなく。
(私、一体…何しに来たんだろう…うぅ。)
居ても立っても居られなかった。
ただそれだけだ。
「栄子…決まったのなら、ここで読んで帰れ。」
ふいに呼ばれびくりと肩があがる。
振り返れば椅子の肘掛に頬杖を付いた気だる気な蔵馬が座れと顎で合図する。
それに平常心平常心と内心呟きながらべっとに腰掛け本を開ける。
そもそも本を借りにきたわけではないわけだが…と思うもののだからと言ってあんな話を聞いた後で彼と何を話して良いのか分からない。
「…逆さだぞ。」
「……。っは!!」
何を?と一瞬思うものの、視界に入る逆さの文字に慌てて本を戻せば、狐は瞳を細め髪を掻き上げながら楽しげに笑う。
それに動揺を悟られまいと栄子はとっさに頭をフル回転し話題を探すもー…
「そ、そういえば最近彼女さん来てませんね!?け、喧嘩とかしたんですか??」
咄嗟に口から出てきた言葉をただただ呪う。
聞きたいか?
蔵馬の彼女の事を??
あんな夜中にアンアンしている彼女の事を!!
「彼女?…あぁ、女達か?最近は来ていないが…。」
喧嘩などなぜする?と首を傾げる狐に、栄子は、あれれ?と反対に首を傾げる。
「…蔵馬さん、彼女何人もいるんですか?」
笑みを浮かべたままぽつり。
「…言っている意味が分からんがここを出入りする女は何人かいる。」
「………。」
「……。」
(女の敵だ!!!!!!)
くわっと心の中で突っ込みながらも、記憶にある昔の蔵馬思い出す。
確かに女癖は良くなかったような気もする。
それでも幼かった自分が知っているのは彼の欠片ほどの女関係だろう。
「…まぁ、皆好きなんですね。そういう関係もあるんですね、私にはわかりませんけど。」
棒読みになれば遠くを見る栄子。
「別に好きではない。嫌いではないが。」
「す、好きじゃないのに、あ、あんな…」
(あんなアンアン言わせてるんですか!!蔵馬さん!!!)
まぁ体は好きだな…と妖艶に笑みを浮かべる狐に、口を開けば真っ赤になる栄子。
先程の気まずさはもう微塵もない。
彼女の頭の中はもう大人の世界で一杯だった。
「女の敵!!蔵馬さん、本気で女の敵!!!遊び人!!!」
「酷い言いようだ。」
それに全然答えてないのかくつくつ笑う彼。
「蔵馬さん、話にならない!!」
「なぜそんなに怒る。お前にも試してやろうか?」
未だに楽しそうに笑う彼は瞳を妖しく光らせこちらを見据える。
「い、いりません!!私愛のない行為は嫌です!!」
(秀ちゃぁんん!!)
「………。」
ふいに笑うことをやめる彼。
それに、あれ?と様子を伺う栄子。
「…おまえとシュウという奴は恋人か?」
「!!?」
いきなりの思いがけない質問に目を見開く彼女。
「シュウちゃんとやらは男だろう?違うか?」
「は、はい。そうですけど…恋人、ではないです。」
俯く彼女の顔は赤い。
だがどこか悲しげに揺れる双方の瞳。
「………。」
「いきなりなんでそんな事聞くんですか?」
顔を上げへらっと笑う彼女の表情に、微かに狐の瞳が細くなる。
「単純に恋人だと思っただけだ。……栄子-…」
蔵馬の声が微かに低くなる。
「おまえが奇生水を使いたいのはそいつか。」
「……。」
揺れる栄子の視線が狐の金と交わる。
「過去に来て危険を冒してまで生き返したい男なのだろう、そいつが。」
「………。」
-…蔵馬と…未来のあなた達の事は話したくない。
パタンと本を閉じる蔵馬。
ゆっくり立ち上がる彼が視界に入る。
前まで来れば立ち止まる彼。
それを恐る恐る見上げる。
「生あるものはいつか死を迎えるものだ。」
金色の瞳が真っ直ぐに彼女を見下ろす。
-…言わないで…
白く長い指が彼女の頬を撫でる。
「そやつの死を受け入れ乗り越えろ、栄子。」
見開く栄子の瞳。
沢山の仲間の死を見てきた盗賊団の頭の蔵馬。
どんなに悔やんだ事があったのだろうか…
どれだけ自責の念に押しつぶされそうになったのだろうか-…
全ての責任を負い、全てを受け入れなければならない彼。
だけどー…
ー…あなたがそれを言うの?
見開く瞳からすぅっと涙が流れる。
受け入れるなんて
そんな事…
「…おまえもわかっているはずだ。…それは己が可哀想なだけだと。」
聞きたく無い…
「それの為だと思うなら強くなれ。」
聞きたく無いよ、蔵馬。
あなたが言わないで…
あなたがそれを言えば私はわからなくなる…
「己のエゴだ。そいつの為では無い。」
ー…俺なら一人で立てぬ女など願い下げだ。
緩やかに意思の籠る金がまっすぐに向けられ、彼の低くも冷たい声が心臓を抉る。
栄子の瞳は驚愕に見開き激しく揺れる。
何も言わず、ゆっくりとそのまま視線を落とす彼女だか見開いたまままの瞳は閉じることはない。
「泣くな…。」
ゆっくりと落ちてくる薔薇の香りに錯覚を起こす。
涙を伝う跡を追う。
湿ったそれは瞼に落ちれば頬に流れるそれを吸う。
指で頬を撫でられれば彼の親指が濡れた唇を掠める。
「泣くな…栄子。」
唇の端に流れる涙を舐められる。
(…なに?)
「悪かった、言い過ぎたから、泣くな。」
切なげに揺れる金が真っ直ぐに瞳に映る。
涙を形のよい彼の唇が吸って行く…
それにただ呆然とする栄子だったが-…
「な、なにするんですか!!!?」
我に返りばっと狐から離れる栄子。
今起きた出来事に赤い顔がさらに熱を持つ。
(い、いまいまいま…!!!!)
「おまえが泣くから…」
「あ、あんな慰め方!!!く、蔵馬さん、蔵馬さんの…スケコマシ!!!!!!!!!!」
もう嫌だぁ!!!とそのまま部屋から走って出て行く栄子。
それに蔵馬は一瞬呆気に取られるも、くすりと笑みを零しそのままベットに仰向けに倒れる。
額に腕をあて、自嘲気味に微かに笑う蔵馬。
(泣くから…なんだというんだ。俺は-…)
彼女の瞳の奥に映る相反する色…
たまに見せる自分を見る瞳に錯覚を起こす
まるで愛しいものを見る様に
まるで慈しむ様に
だが酷く哀しい瞳。
狐はそれに顔を歪ませる。
決して自分を映してなどいない
それでも自分を通してみるその男
『秀ちゃん…』
あの時、愛しいのだとアレの瞳が叫んでいた
取り戻したいのだと…
その頃ー…
「黒鵺さん!琥珀くん!!蔵馬さんの蔵馬さんの女の慰め方は犯罪です!!!あれは今すぐやめさせるべきです!!」
見張り小屋にいきなり入ってきた彼女に、黒鵺はまたもや酒を吐く。
そして、琥珀ははぁ~とため息をつく。
「蔵馬が女を慰めるなんて…」
ありえねぇと青ざめ口元を拭う黒鵺に
「僕も女性に優しいお頭が信じられません。」
と苦笑する琥珀だった。
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