薔薇とお狐様2
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後悔した
うん、心底後悔した-…
「もっとこっちに寄れ。」
肘掛にて頬杖を付き、気だるげにおいでをする狐。
妖艶な艶やかな細まるその瞳と雰囲気からは目には見えない危険なものが溢れ出ている。
その狐の前、数メートルの距離をあけ正座をする栄子。
しかし、すでに彼女から生気は感じない。
魂の抜けたただの抜け殻状態の彼女の瞳は酷く虚ろだ。
(関わっていいけない…決して関わってはいけない。こんなラスボス、私は相手に出来ない!!)
先程から狐の最大級の色香にやられ正気を保てなくなった栄子は自分を殺す事でなんとかその場にいれたのだ。
「おい、聞いているのか?」
「……勘弁してください。蔵馬様。」
直視できず視線を逸らす。
普段ならあまり目にしない着物を身に纏う彼。
それはただ腰紐を巻くだけの簡素な作りだ。
それでも鮮やかな刺繍に色。
青い月と花があしらわれたそれは決してそこらに売ってはいない代物だ。
そして着慣れないのか、胸元が緩く開いている為普段よりも色香が滲み出ているような気がするのは気のせいだろうか。
そして、それを感じるのは決して栄子だけではない。
「頭ってやっぱ色っぺぇな。」
「女だったら…女だったら!!」
「女でも俺ら返り討ちだろ。」
男の目からしてもかなり色気漂う罪深き狐。
部下たちは頬を染め吐息をつく始末だ。
「く、蔵馬さん!!着るならもっとしっかり着てください。め、目のやり場に困ります!!前開きすぎです!」
きゃぁ!!と両手で目を覆う栄子だったが、「いいからこい。」と低く呟かれる。
それに内心泣きながらおずおずと近づく。
「もっとよれ。」
(ひぃぃっ!!)
すぐ側まで呼ばれれば真正面に彼を見る。
伸びてくる白い手に思わず瞳を閉じる彼女。
耳に触れる冷たい感触にびくりと反応するも、動けば怒られそうなので我慢してじっと終わりがくるのを待つ。
そしてその十数秒、数十秒ではあるものの、目の前にその整った狐の顔があるのだと意識させられればそれこそ地獄だ。
息をするのさえままならない。
そして、どれ位たったのか耳から指が離れる感触に「褒美だ」と言われ解放される。
(ご褒美??)
恐る恐る目を見開けば耳朶に感じるそれに触れる。
手にあたる冷たいそれ。
「イヤリング…?」
「おまえの所ではそう言うのか。」
準備の良い狐から鏡を渡されそれを手に取り自身の耳を見る。
それに目を見開く。
そして、そのまま蔵馬を見る。
「何を驚いている。最近の仕事への褒美だ。」
「で、でもこれって…」
水色の小さな雫形の石が耳朶に存在を強調しキラキラ輝いている。
「…今回の戦利品の一つだ。何、強奪ではない、それは蔵に眠っていたもの、使わねば価値もない。」
そう言い、狐は彼女の髪を耳に掛け顔を見つめれば満足気に瞳を細め笑みを浮かべた。
「でも、こ、これって…」
魔界の書物で何度か見たことのある魔界の宝石。
かなり希少価値が高い代物だ。
それが蔵で眠っていた、などと本当なのだろうか。
「蔵馬さん、私、こんな高価なもの…」
言いかけるも、しつこいと一括され黙る彼女。
「いらんのなら捨てる。」
「い、いります!!」
なら騒ぐな、と呆れる蔵馬。
彼はわかっているのだろうか。
この宝石の意味をー…
植物に詳しくても女性向けの宝石には疎いのだろうか。
「蔵馬さん…あ、ありがとうございます!!」
それでも嬉しい。
すごく嬉しいのだ。
意気込んでそう言えば一瞬蔵馬が目を見開くも、すぐに笑みを浮かべ鼻で笑う。
「これからも期待している。」
そう言って、初めて-…
彼は私の頭を優しく撫でたのだった。
その瞬間、側にいた黒鵺が酒を噴き出したとは言うまでも無い。
「ばっちいです、黒鵺さん。」
「あっちにいけ、黒鵺。」
「お、おまえらなぁ…。(蔵馬が女を可愛がる姿初めて見たぜ…。ペットか?それは本当にペットなのか??蔵馬…。)」
焦る黒鵺を他所に、栄子と蔵馬は視線があえば互いに笑みを浮かべるのだった。
そう、彼は-…
誰よりも先を見据え誰よりも賢い
だからこそ見えるものが違う
誰よりも悲しみを知り
誰よりも強くなった
彼の非道だと言われる冷酷さの裏には
誰よりも温かい優しさがある
それが時に残酷で理解できないものだとしても-…
彼は誰よりも臆病で、優しい妖怪だったのだ。
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