学園祭編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『ジュリエット、隠れてないで出てきてくれ。君の姿を見つけないとこの心は不安で潰されてしまう。』
ステージでは照らされるジュリエットを必死に探すロミオの姿。
木になる栄子はただただそのステージの端にただ佇む。
両親に身分違いの恋だと反対され、隠れて何度も会っている恋人の二人。
逢引はいつしか大胆なものとなり、いつしか明るい時間帯でさえ二人はデートするようになる。
ある日、ジュリエットの両親は見るに耐えかね、ジュリエットは許婚のパリスと結婚を強いられる。
それに焦った彼女は神父の元へ相談をしに行けば、死んだように見える「眠り薬」を渡されるのだ。
その結果婚礼が始まると同時にジュリエットは薬のおかげで倒れ、地下の墓地に運ばれるのだが…
目覚めた先には苦しむロミオの姿。
ジュリエットの死に哀しみ毒薬を飲みんだ彼…
『どうして…ロミオ…どうしてなの…』
ロミオの亡骸を抱え泣き崩れるジュリエット。
『私はあなたと行きたかったのに…共に暮らして共に老いて…温かな家庭を気付きたかった…ただそれだけだったのに…』
毒薬はすでに空だった。
悲しみにくれたジュリエットはロミオの腰に掛かる短剣を取ればそれを自身の胸に深く突き刺す。
『共に行きましょう…天国で…幸せに…』
ロミオの上に崩れ落ちるジュリエット…
それをステージの裾からもう必要のない木の衣装を纏ったまま見る栄子の姿。
場面が一気に暗くなれば自分達が作った花を撒く。
そしてクライマックスでは彼女たちが天国で幸せに暮らす様子が映される。
(…終わっちゃったな…。)
頬に流れるのは一筋の涙。
何度も見ているのに、やはり本番はよかった。
どんな結末でもそれでもやはり好きな物語。
自分は木の役でも間近でこの劇を見る事が出来ればそれで満足だった。
まるで自分がジュリエットの様な感覚に捕らわていたからだ。
(今日は…最終日、かぁ。)
日も暮れ、空が暗くなってくる頃-…
教室の窓からグランドを見下ろせば改装された広いステージが目に入る。
流れる音楽に、ドレスを着る女子生徒達に正装する男子生徒。
煌びやかにライトアップされまるでそこだけ世界が違うようだ。
「海藤君、ごめんね…」
劇の後、どうしてもダンスコンペに行く気にはれず、ずっと誰も居ない教室で一人でいる栄子。
他の皆はダンスコンペに行っている。
恋人と楽しく踊る場でもあれば、出会いの場でもあるダンスコンペ…。
一応彼に渡されていたダレスを着てみたものの、どうも足が動かない。
「ジュリエット…よかったなぁ…」
本当はしてみたかったのだ。
台詞は多くて確実に自分には無理だと分かってはても、憧れていた。
「ロミオ…あなたはどうしてロミオなの?」
誰もいない教室で、外のライトアップされる光が微かに教室に入れば、そこは幻想的な風景を持つ。
普段見ない夜の教室は怖いものではなく、綺麗なものだった。
そっと手を伸ばす。
「私はあなたが恋しくて仕方ないのです、私はあなたしか見えておりません…あぁ、この恋はどうしてこんなにも辛いのでしょうか。」
覚えようとしたわけではなかった。
だけど、自然と耳に残っている台詞…
「これは…罪なのでしょうか…」
床を照らす微かな光がライトアップだけのものではなく、月の明かりも混ざったものだと気付く。
ふいに見る夜空-…
美しく神々しくもどこか悲しげに輝く月明かり。
銀色に輝く髪が…
金色に光る瞳が…
脳裏をよぎる…
そして…
"それ"に重なるように脳裏に映るのは-…
「ここにいたの、ジュリエット…」
甘く透き通る声がドアの方から聞こえれば、自然と顔が向く。
「秀ちゃん…」
脳裏に映るのは…翡翠の瞳の彼だ。
「ロミオでしょ?ジュリエット。」
くすりと微笑み、教室にはいってくる秀一。
いきなりの登場の秀一に驚くものの、驚いたのはそれだけではない。
「秀ちゃん、その格好…」
側に来ればはっきりと分かる、白いタキシード姿に赤いネクタイ。
これでもかと似合っているその姿に栄子は思わず見惚れる。
「かっこいい…」
「そう?…ありがとう。君も似合ってるよ、そのドレス。」
そう言えば、あたかも自然に自分の前でしゃがみ込み片膝を付く幼なじみ。
「しゅ、秀ちゃん…?え、えぇ!!?」
そして手を取られれば甲に口付けを落とされ、意味が分からずさらに赤くなっていく。
「ジュリエット、今宵は私と踊ってください。」
上目遣いで言われ、さらに手の甲には彼の息が微かに掛かる。
(……あ、お芝居なんだ。それにしても…)
「わ、わかりましたわ。ロミオ、エスコートしてくださるかしら?」
(色気ムンムンだわ。)
心の中で、高校生のくせにどこでこんな色気を身に着けたのだ-…と悪態をつくも、元より学生らしくない彼。
どこか、周りに合わせている節は多々見受けるも、周りは気づいてはいないのだろうと思う。
子供の頃から共にいた自分だからこそ、分かる事。
ゆっくりと立ち上がれば、秀一に手を引かれ外から流れる微かな音楽と共に緩やかに踊る。
「あなたは美しい、ジュリエット。このままどこかへ攫っていけたらいいのに…。」
(あ、台詞のまんまだ、いつ覚えたんだろ、秀ちゃん。)
「そっ…そうね。このまま何も考えることなくあなたの事だけ考えられたらどんなに素敵でしょう。でも、私にはそんな贅沢な事、これ以上望んだらきっと罰を受けるでしょう。」
「罰ならば二人で受けましょう。」
少し手を引かれれば彼と密着する。
それに一瞬焦るも、これも演技だと思えばどうってことはない。何よりも近くで感じるこの香りに安心すらしてしまうのだ。
「ジュリエット…愛してます。」
甘い囁き…
翡翠の瞳を細め愛しそうにこちらを見下ろす秀一。
(…私が、ジュリエットしたかったの、やっぱり分かってたんだなぁ…。)
「ロミオ、私もです。私の望みはあなたと生き、あなたと老い…共に温かな家族を作ること。平凡でもそれが何より私の望むこと。」
見上げれば微笑む栄子。
だが、その言葉に切なげに瞳を揺らす秀一に至近距離ゆえ気付く。
「どうしたの?秀ちゃ-…」
思わず素に戻りそうになる栄子だったが、顔に当たる彼の温もりに、瞬間抱きしめられた事に気付く。
「君が受け入れてくれるなら、私は何もいらない。」
(…あ、このシーンって…)
そう思ったのも束の間だ…。
落ちてくる額への口付け。
驚き目を見開いたまま秀一を見上げるものの、我に返れば除々に顔に熱が集まる。
「な…」
かぁ…と真っ赤になる栄子に、「どうしたの?」と悪戯に微笑む幼なじみ。
どうしたの…じゃないだろ!!とつっこみたい栄子だが驚き過ぎたのか、口がそれ以上の言葉を発することが出来なく、ただ開閉する。
それにくすりと笑みを浮かべる幼なじみだが-…
「愛しい人よ、あなたの全てを私のものに…。」
するりと頬を撫でる感触と甘い台詞に栄子は眩暈を覚えればそれこそ思考が止まる。
そのまま親指は唇の上を微かに掠めれば…それにゆっくりと落ちてくる影に彼女はただただ身を固くし近づく翡翠を凝視した。
「………。」
「………。」
「…ぷっ…」
息のかかりそうな距離で止まる秀一の口から漏れる声。
それに、はっとし彼女の瞳に色が戻り、「きゃぁ!!!」と目の前の幼なじみの胸を押し返すが、その瞬間噴出し笑い出す彼に、真っ赤になりながら意味の分からない栄子。
「な、なに笑ってるのよ!!馬鹿秀一!!!」
「いや、だって…くくく、久々にみたよ…君のあんな顔。」
目に涙を溜めてお腹が痛い…と珍しく大いに笑いこける秀一。
「だって…だって、き、キスされるかと思って-…」
真っ赤になりながら言うも段々と恥ずかしくなり後半はぼそぼそと呟く。
「キスして欲しかった?」
未だくすくすと笑いながら言う幼なじみに、本当に遊ばれていたのだと栄子はただ恥ずかしくなってくる。
「もう…驚かさないでよ。そんな事してると誤解されちゃうわよ?」
好きな子に…と、ふてくされながら言えば、少し間があき、そうだね…と翡翠の瞳を細くして切なげに微笑む彼の表情が目に入る。
屋上で盗み聞きをしていた事はすでにばれていたから今更隠そうとは思わなかったが…
こうも彼の表情に出ると心なしか胸が痛む。
「……ダンスコンペ誘わなかったの?」
きっと彼ならいちころだろうに。
聞いても彼は何も言わずただ微笑む。
「…学校の子じゃないの?私の知らない人?」
それでも聞いてしまうのはどうしてか。
自分に秘密にしていたことがひっかかるのはもちろんだ、だけど…
「気になる?」
揺れる翡翠に捕らわれる。
それにこくりと頷けば彼は瞳を細め苦笑する。
「聞いてどうするの?」
吸い込まれそうな綺麗な翡翠。
「秀ちゃん…いつも大事な事は何ひとつ話してくれないから。」
そういつも話してはくれない。
自分が力不足だからと分かっている、それでも…
ずっと一緒にいたい人だから-…
切なげに笑みを浮かべる彼。
形の良い唇が微かに開くー…
どーん-…
「ーー…だよ。」
空が明るくなる-…
彼の背景に輝く、夜空に打ち上げられた花火。
ぱらぱらと火花が落ちていけば、また一つ花火が上がる。
「優勝者決まったみたいだね。」
「え、うん…そう、だね。」
-…これは、きっと気のせいだ。
「花火、屋上で見ようか。栄子。」
そっと綺麗な手が差し出される。
「…うん。」
花火が上がればまた彼の表情を鮮やかに見せる。
切なげに微笑む彼の表情に思わず眉が寄る。
どこか翡翠の瞳が熱を帯びている様な気がするも、きっと…これも気のせい。
「お、幼なじみを優先するなんてさすが秀ちゃんだね。」
思わず声が上擦れば、微かだが彼が悲しげに微笑んだ気がした。
花火でかき消された声-…
動いた口元が描く「名前」
それはいつも彼が自分を見て呼ぶもの
彼の背後で上がる儚くも美しい花火の欠片が何かを魅せてくる-…
脳裏に蘇る夢という名の記憶-…
銀色の髪が流れる
混ざる金色と翡翠
「くら、ま…。」
勝手に出た何かの言葉…
瞬間感じる目の前の男性への違和感。
見上げれば翡翠の瞳が大きく見開き驚愕の色を乗せていた。
・