学園祭編
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そして学園祭二日目-…
「あ、桑原君!!」
「おう!!来たやったぜ!!」
門の前で散らし配りをしている栄子は顔見知りの幼なじみの友人を見つければ一気に顔に花が咲く。
「来てくれたんだぁ!!ありがとう!!」
「おうよ、栄子ちゃん相変わらず元気そうだなぁ。その格好は…ねずみ男、か?」
「すごい!!よく分かったね!!私のクラスお化け屋敷なの、よかったら見てって。ちなみに下ではたこ焼きもやってるのよ?もうすぐ私、たこ焼き焼きかかりだし、来てくれたらサービスするよ?」
「まじか?それはいかねーとなぁ…なら、あとで蔵馬といくからよ。」
それにぴたりと表情が固まる栄子に、どうかしたか?と覗き込む桑原。
「クラマって秀ちゃんの事だよね…だめ、今は会えない。」
ふるふると青ざめ首を振る彼女に、首を傾げる桑原。
「今会ったら何されるか…」
昨日、あの後身の危険を感じごまかしながら別れたものの、綺麗に微笑みながら言った彼の一言が頭を離れない。
『栄子、覚悟しといて。』
何を!!?
とはもう言えなかった。
彼があまりにも黒く笑みを浮かべるものだから、久々に地雷を踏んでしまったのだと瞬時に理解し後悔したのだ。
「なんかしたんか?」
「はい、酷く怒らせたようで…ふふふ。」
「…ふーん、なら誤りに行くか?」
「え??」
「様子からみると栄子ちゃんが何かしたんだろ?俺、今からあいつんクラス行くから栄子ちゃんも来いよ。」
そう言ってうんうんと勝手に頷く桑原は栄子の手を引く。
「ちょっ…ちょっと桑原君…」
前かがみになりながらも桑原に手を引かれ連れて行かれる栄子。
「仲直りっては早いほうがいいんだぜ?何でもシンプルにいきやがれってんだ。」
わははと笑う人の話を聞こうとしない彼に、何度も抗議の声を上げるものの、彼の馬鹿力にずるずると引かれて行く栄子だった。
そして…
彼のクラスにたどり着くものの彼の姿はなくほっと安心する栄子にも束の間、親切なクラスメイトが桑原の問いかけに彼の居場所を怯えながら教える。
「……桑原君、もっと普通に聞けないの?」
そこへ向かいながらも栄子は呆れた視線を彼に向ける。
「あん?俺は普通に聞いたぜ?ヤローがなかなか答えねぇから少し強くいっちまっただけだ。」
「……。」
桑原の姿を見た途端、一気に怯えてしまった男子生徒。
…それはそうかも。
と彼と初対面だった時の記憶を遡れば栄子も始めは確実にびびっていた。
だが桑原に「よろしくな。」と頭を優しく撫でられればそれも一気に吹き飛んだのだ。
大きな温かな手だと思った…
この人は顔は怖いけれどきっととても優しい人なのだと思ったのだ。
(なんたって秀ちゃんの友達だしね。)
もちろんそれが一番大きかったことだが…。
「しかし、あいつもなかなかどうしてやるねぇ。呼び出されるっていやぁ、血がうずくぜ!!!」
「…うーん。」
怯えた男子生徒は確かに言った「南野君なら一年の子に呼び出されて屋上に…」と…
「あぁ、俺も久々に参加してぇ!!!」
「……それ、違うと思う。」
なぜ彼はすぐに「喧嘩」だと結びつけるのか。
桑原にとってそうでも秀一は大抵そうではない。
きっと幼なじみの彼には日常茶飯事の事。
断るくせに律儀に付合う彼にも驚くが、それはただ彼が優しいからに他ならない。
屋上の扉を開ければ気持ちの良い風が肌を掠める。
そして、きっと女の子と二人でいるはず-…
そう思っていた栄子だったのだが-…
「浅野さんと付合え!!!」
目に入るのは、栄子のクラスメイトの男子生徒一人と幼なじみの秀一。
男子生徒はこの前秀一の悪口を言っていた、彼だ。
ちょうど扉ごしで彼らからしたら死角になっている為気付かれないが、こちらからしたら彼らのやり取りは丸見えだった。
「タイマンかぁ、あいつ弱そうだな。」
ぼそりと呟く桑原に、黙ってて…としっと指を口元に当てる栄子、それに息をつき大人しくする桑原。
そして二人はその事態をじっと見据える。
「何度も言うけど…それは出来ない。」
「でも!!彼女はおまえとこの前まで付合ってたって…それってお前が少しでも彼女の事好きだったからだろ?なら…」
「俺は好きじゃない。」
「なら、なんで気を持たす様な事したんだよ!!」
「……。」
今でも覚えている。
彼が自分と距離を置こうとしていた時期があったことは。
彼女だ大事だからと、自分を切り離そうとした彼-…
結局秀一が振られたのだと栄子は聞いたのだが、いまいち真相が分からない。
「彼女には悪いと思ってるよ。でも、いいわけみたいだけど、はじめに俺は言っている。」
「…な、なにをだよ!!!」
怒りで真っ赤になる男子生徒。
「俺は-…」
彼の視線がゆるりとを動いた気がしたー…
交わる視線に…
息が止まる…
「俺には好きな人がいるって。」
切なげな彼の表情に目が見開く。
絡まる視線…
これは…
栄子は自身の胸元をぎゅっと握り締める。
気の……せい?
「おーい…栄子ちゃん、おーい…」
ひらひらと栄子の視界に桑原の手が左右に揺れれば、はっと気付く栄子。
「これ以上聞くのは野暮だぜ、栄子ちゃん戻ろう。」
「そ、そうだね…。」
「てか、蔵馬の好きな女って誰なんだろうな。栄子ちゃん幼なじみだろ?知ってるんじゃねぇの?」
階段を折りながら両手を頭の後ろに置きながら桑原は呟く。
「…ううん、わかんない。」
ありえない…
ありえるわけがないもの…
「遠距離恋愛とかかな、あいつ。」
それに俺気持ち分かるぜ…と笑う。
栄子の脳裏に彼の優しい笑顔がよぎる…
兄妹の様に育って来た私達。
悲しいときも嬉しいときもいつでも側に居てくれた。
だからこそ、色んな事も分かる…
「もしかして、栄子ちゃんとか!!!?」
「それはないよ。」
それはない。
少しでも横切った思考を振り切ればだんだんと冷静になっていく。
「秀ちゃんに限ってそれはない。」
そうあってはいけない。
絶対に…
「どうしてそう思うの?」
「幼なじみだし。生まれた時から知ってるし、ありえない。」
「…そういうもんかね?」
「そうよ、秀ちゃんは私にとってずっと秀ちゃんだもん。それは…」
変わってはいけない。
この胸の痛さもきっと特別なものではない。
そう栄子は自分に言い聞かせるのだった。
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