学園祭編
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「知ってる?南野先輩まだ相手決まってないんだって!!!」
「嘘でしょ?ありえないわよ、そんなの。どっからの情報よ!!?」
「それがね…」
わいわい、がやがや…
学祭間近の教室は昼休みはダンスコンペの話題で持ちきりだ。
なんといっても大イベント。
相手が決まっていない男女は相手探しに必死である。
そんな中、教室では机に突っ伏してただぼうっと窓から外を眺める栄子の姿がそこにあった。
(本当にもてもてだわ、秀ちゃん…。私はどうしよっかな…。)
お誘いが途絶える事が無い秀一は良いとして、自分はどうするべきか…
栄子自身、これといって良いなと思う男子生徒もいないため、自分から誘うのは億劫だった。
「また南野かよ…まじうぜぇな。」
(……。)
「あれだけの誘い全部断ってるらしいぜ?喧嘩売ってるようにしか思えねぇよな!!」
(…あらら。)
女子生徒には驚くほど人気な幼馴染だが、同性にはその分、よく思われてない節があった事を栄子は知っていた。
「あいつやっちまうか?」
「…やめたほうがいいぜ。あいつに喧嘩売った先輩しばらく学校休んでたし…。」
「…それ風邪だって聞いたぜ?」
「他にも、南野に関わるとロクな事起きないっていってたぜ?しかも、意外とあいつ強いって噂だ。」
(秀ちゃんは喧嘩なんかしないわよ、ばーか。)
すぐ側でクラスの男子たちが馬鹿な話をしているも栄子は無視だ。
なによりも幼馴染が誰かに虐げられる節が想像できない…喧嘩も丸く治めそうだ。
「おまえは南野に言い寄った女子生徒の中に学年一のアイドル、浅野さんがいたのが気に入らなかっただけだろ?それに、一時期は彼女、南野と付合ってたらしいしな。」
「あの美女を二度も振るなんて、ありえねぇ。」
「まぁ、南野に声をかけるあたりまだ未練たらたらなんだろうな。お前がいくら怒ったって意味ねぇよ。」
(………浅野さん…。)
自分も知っている彼の彼女だった人。
他にも居た時期があったのかもしれないが彼女が栄子が知っている唯一の幼なじみの元カノだ。
なんとなく、これ以上聞くのは気持ちよいものではない。
そう思いトイレに行こうと席を立つ栄子の耳にまだ入る男子生徒の言葉。
「あんな優男。善人面して女を騙してやがんだ!!!」
それには栄子の眉も思わず寄る。
「泣かされた女は数知れずってか?ネットでも流してやりゃいいさ、そうしたら誰が何言ったなんてあいつにはわかんな-…」
「私が聞いてるんだけど。」
言いかける男子生徒の声に被せるように栄子の声が被る。
それに顔を見合わせる彼等。
クラスメイトだからって許せる発言ではない。
「秀ちゃんは女の人騙したりなんかしないよ?それは私がよく分かってるし、ネットでそんな事したら私があんたらの悪口かくわよ!!?」
「…そういや、おまえ南野と幼馴染だったな。」
と、とても嫌そうに顔を歪める男子生徒。
「そうだよ、そんな事したら自分下げるって気付かないの!!?そんなんだから、パートナーできないのよ!!」
「な、お、おまえに言われたくねぇよ!!おまえだってパートナーまだだろ!!?」
「べーだ、私はいざとなったら作るもん!!あんたはその性悪治さない限り無理だよーだ!!」
あっかんべーと舌を出しそそくさとその場を去ろうと彼の前を横切るも-…
「こんの…」
頭に血が上った男子生徒が栄子の腕を強く掴んだ。
「い、いた…」
寄せよ…とその隣にいたもうひとりの男子生徒が諌めるものの言われた当の本人の耳には入ってないようだ。
と、その時だった-…
「俺がなんだって?」
甘い声が教室に響くのと同時に、きゃぁー!!という女子生徒の黄色い歓声が響けば振り返った先の扉越しで腕を組みこちらを見据える幼馴染の秀一が目に入る。
(…目立つから、やめてください。)
彼は苦笑しつつ教室の中に入れば窓際の栄子達の所まで行く。
「み、南野…!!!」
「何?その前に栄子の腕放して。」
凍るような冷たい声に、男子生徒の顔が青ざめると自然と栄子の腕は開放される。
それにほっと息を付く栄子に、それでも青ざめながらも秀一を睨む男子生徒。
「おまえ、いい加減にしろよ。もてるからって女とっかえひっかえしやがって。」
「とっかえひっかえ??そこまで酷くないと思うんだけど…。」
困ったな…と苦笑する秀一に、否定しろよ!!と隣で内心つっこむ栄子。
「浅野さんを振りやがって…あの人は本当におまえの事が…!!」
「……。」
「振られても勇気出してダンスコンペにお前を誘ったんだぞ?」
くそ…顔を歪め俯く男子生徒に、思わず栄子は身を乗り出しそうになるのを秀一に止められる。
(…あぁ、だからこんなに怒ってるんだ。)
彼はその女性に好意を持っているのだ。
それが分かれば逆になぜか申し訳なくなってくる栄子。
「…なら君も何回振られても彼女にチャレンジすればいい。」
「おまえが、それをいうのか!!?」
(うん、ごもっとも!!!)
男子生徒が怒るのもわかりました!!!
「俺が君なら簡単に諦めないけどね。…うらやましいよ。」
(…?…秀ちゃん?)
何か引っ掛かるその言い方に栄子は彼の顔を覗き込むものの、何も変わらないいつもの彼の表情に首を傾げる。
「おまえに言われても…」
「諦めるんなら頑張って。」
にっこりと笑みを浮かべる秀一に、口を紡ぐ男子生徒。
彼は少し悔しそうに顔を歪めるも、大人しく自分の席に戻って行けば、その後をもう一人の男子生徒が続く。
(……なんか、ちょっとかわいそう。)
幼なじみの悪口もあそこまで行くと聞き逃せないものの、どこか申し訳なくなってくる。
じっと隣にいる幼なじみの顔を見上げる。
(…罪な男なんだから。)
「…で、秀ちゃんなんでここにいるの?私に用事??」
そうだ、用事がなければまず自分の教室に来る事は無い。
「…これ、海藤から預かった。」
差し出される封筒。
少し厚目のその封筒は栄子の名前が書かれている。
「海藤君が?なんで??」
何か用事があるなら直接言えばいいのではないか。
一体何の用事なのだろうか…
そう思い、彼の友人である幼馴染を見上げれば目を逸らす。
それに首を傾げながらも受け取り、中を開けく。
「…え?海藤君が…私をダンスのパートナーに?」
「そう、みたいだね。」
視線を逸らしたままどこか低い声で幼馴染は答える。
「な、なんで私?」
「さぁ、俺が聞きたいんだけど。」
「……。」
見上げれば、先程は確実に逸らしていた翡翠がしっかりと自分を見下ろしている。
探るような眼差しに、そこか責められている様な感覚に陥るのはどうしてだろうか。
「…海藤に告白でもされた?」
「い、いやいや。」
(…どこでそうなるんですか?っていうか、あなたが彼の友人でしょうに!!!)
「栄子って頭の良い男、好きだよね?」
「まぁ、馬鹿よりは賢いほうが。私が馬鹿だからって…ち、違うよ!!な、何いってるの!!?」
「本当に付合って、ないの?」
探るような真剣な翡翠に、思わず唾を飲み込めばこくこくとしっかりと頷く。
「…第一、付合ってたら秀ちゃんに報告するよ?」
「……。」
そして、再び視線を手紙に移せば栄子は目を見開く。
そして…
「秀ちゃん、海藤君に是非よろしくって言っといて!!!」
瞬間彼の眉がぴくりと動くものの、それに栄子は気付かない。
「…わかったよ。」
どこか腑に落ちないような苛立った様子で彼はそう言うと踵を返す。
その間もきゃぁきゃぁと女性とに騒がれる秀一。
(…私に先にパートナー決まったから不機嫌になったのかしら?でも…)
「秀ちゃん、踊らないって言ってたじゃん…。」
再び窓から外に目を向ける。
薄っすらと月が見える。
晴れた青空に見える月…
夜に月を見上げることは多々あっても、昼に月を見つければいつしか探すようにもなっていた。
栄子の中でなぜか燻る感情…
それは月を見ればさらに加速するのだ。
それが何か知りたくて何度も見るものの、答えにはたどり着かない。
「…変な秀ちゃん。」
栄子はぽそりと呟いた。