学園祭編
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『愛している-…』
夢の中で何度も聞いた低くも安心するその声-…
銀色に光る髪が靡く
金色に輝く瞳に捕らわれる-…
それに駆け寄るのは少し小さな私-…
…誰?
誰か分からないはずなのに…
私はどうして彼を見つけたらこんなに嬉しいの?
どうしてこんなに胸が苦しいの?
誰か分からないのに、私は彼を知っている。
私は知っている-…
優しく頭を撫でる白い手に-…
向けられる温かな笑みに心が押しつぶされそうになる。
彼はそんな私に、切なげに瞳を細め、何か囁く…
聞こえない…
聞こえないよ…
泣かないで…
そんなに寂しそうに笑わないで…
「 」
がばっと起き上がれば勢い余って壁に額をぶつける。
「~~~~~~~!!!!!!」
なんでこんな所に壁が…
と薄っすら涙目になりながらも目を開ければ自分はベットに寝かされ勢い余って起き上がり足元の壁まで飛んでしまったという漫画の様な事が起こったのだと理解した。
そして、気付く。
ここは私の部屋ではない。
「……秀ちゃん、ごめん、また寝ちゃったんだね。」
額を擦りながら横を見れば幼馴染の顔が目に入る。
そうここは幼馴染の部屋。
学祭前の準備は何かしら忙しい為、彼に色々手伝って貰いそのまま疲れては彼のベットを占領するという…幼馴染の特権。
「今何時?…げ、九時!!?起こしてくれてよかったのに、秀ちゃ-…」
言いかければ目に入った彼の表情に思わず息を飲む。
大きく目を見開いた翡翠がこちらを見ながら大きく揺れている。
そして、ゆっくりと伸ばされる手が頬に一瞬触れるものの、ぐっと拳を作れば彼はゆっくりと俯く。
まるで何かに耐えているように…
「秀ちゃん?…どうかした?」
「……いや、何も無い。」
俯く赤い髪の合間から見える動揺の翡翠。
なにか寝言で言ってしまったのだろうか。
一体自分は何を口走ったのか…
「あの、秀ちゃん…私、なんか叫んだ?」
確かに何かを口走った気がする-…
「…なにも。栄子、酷い寝相だし勘弁してよ?」
顔を上げれば少し苦笑しつつ、いつもの翡翠がこちらを見る。
「…あ、ごめんね。もしかして蹴っちゃった?」
ぼんやりと頭の奥にもやが掛かる。
私は…何を知っているの?
「うん、蹴られそうになった。」
くすくすと笑いながらも、揺れる彼の翡翠がいつもと違うような気がするのは気のせいだろうか。
夢はすでに思い出せないのに、心にはただ切なさだけが残っている。
何かを、知らないけれど知っている。
そんな感覚も残っている。
そして、栄子の視線は自然と目の前の幼馴染の顔を覗き込む。
「…どうかした?」
(秀ちゃんが…知ってるんだろうか?)
なぜそう思うのかなんて分からなかった。
ただ、勝手にそう思っただけだったのだ…
だが、栄子自身曖昧で何を知っているのかさえ自身で分からない事を幼馴染に説明できるはずもないのだ。
「ねぇ、ロミオとジュリエットって死ぬ意外に一緒にいれる方法なかったのかな?」
だからだろうか、何かを伝えたいのに分からない栄子は思わずこんな質問をしてしまう。
それはどこかで明確な答えがほしかった…のかもしれないが。
「…どうしたの?いきなり。」
「相手が死んで自分が死ねば本当に一緒に天国にいけるのかな?そんな保障がどこにあるんだろう。」
そもそも本当に天国なんてあるのかな?と顔を顰める栄子はさらに言葉を続ける。
「天国とか地獄も誰かが勝手に作った空想の世界で、本当はそんなものなくて…人って死ねばもう「無」みたいな、そんな感覚じゃないのかな?」
「…栄子はないと思うんだ。」
「なら、秀ちゃんはあり派なんだ。」
真面目な栄子の返しに、なんだそれ、と笑う秀一。
「あると思ったほうが夢があっていいんじゃないか?」
「秀ちゃんってもっとリアリストだと思ってたわ。」
こんな会話をしようと思ってしたわけではない。
ただ何か話さなければと思ってしただけの会話、それでも真面目にしてしまう自分は一体何を求めているのだろうか。
真面目な顔の栄子。
そんな彼女を微笑みながら見る秀一の翡翠の瞳が不意に伏せれば彼の口元が薄く開く。
「…でもきっと相手に触れられないだろうね。」
「え?」
「肉体は滅びてるんだ、魂だけじゃきっと幻影だけで相手には触れられない。」
どこか真面目な彼の声に、切なげに揺れるのは細く開かれる翡翠の瞳。
それがゆっくりとこちらを見れば、その瞳が栄子を捕らえる。
「一緒にいても愛し合うことも、キスすらもできない。」
「な、何言って-…」
この男は一体何を恥ずかしめもなく言っているのか。
自分に言われているわけではないと分かっていても、徐々に顔に熱が上がって行く。
「そんな天国なら俺いらないなぁ。ま、でも俺がロミオだったら-…」
-…秀ちゃんがロミオだったら?
思わず身を乗り出す栄子。
「恋に落ちた時点で、連れてどっかに閉じ込めるかな。」
「……、なんで?」
なぜ閉じ込める?
「帰りたいって言われてもきっと帰してあげられないから。死ぬほど好きならなんでもするかも。」
にっこりと黒い笑みを浮かべさらりと言い切る秀一に、口元が引きつる栄子。
「秀ちゃんの彼女になる人って大変そう。」
そうぽそりと呟く栄子に秀一はただ笑みを深くするのだった。
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