学園祭編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「む、むむむ…」
ある部屋の一室から漏れる声。
その部屋には様々な色のティッシュが散乱しており、床に座り込む栄子は難しそうに眉を寄せその色ティッシュで必死に花を作っていた。
「む、むむ?」
さらに眉が寄れば途中まで作った花を下から覗き込む。
「緩いんじゃない?」
そして、そんな彼女に声をかけるのはこの部屋の主である幼馴染の秀一。
彼は椅子に腰掛け机に肘をつけながら一生懸命花を作成する栄子を見て微笑む。
「…やっぱそう思う?」
「うん。それだとすぐ解けちゃうよ?」
そう綺麗に笑みを浮かべる秀一の机の上には大量の色ティッシュの花達。
「…秀ちゃん、作るの早いし綺麗。」
なんで私は…
そう思いながらもそばに落ちている花を拾い上げる。
花と言うには世辞でも言えない、不恰好なそれ…ただ色ティッシュを丸めたように見えるのはなぜだろうか。
「神様って、意地悪だ。どうしてこんなにも器用さに差があるのかしら…。それに、一人100個とか無理無理!!!」
もういやだぁ!!と万歳をする様に両手を挙げればそのまま後ろのクッションに仰向けに倒れる栄子。
「うぅ…あの"劇"にどうしてこんなに花使うの?ありえない…。」
そしてクッションを抱えれば顔をうずくめる。
「…最後に天国で再開なんてするからだよ。」
そんな幼馴染の様子にやれやれと息をつく秀一。
「…クライマックスが重要でしょ?何でも。本物買うお金ないから、仕方ないもの。」
ロマンがないわね、と頬を膨らます栄子。
それに否定したいのか肯定したいのかどっちなんだ?と苦笑する秀一。
「劇と出し物なんて、今年の一年は元気なんだね。俺の所なんか出店だけだけど?」
「秀ちゃんとこは皆勉強しか興味ないじゃん。」
「……ふうん、そういう事いうんだ。俺、これ50個も作ったのに。」
「…あ、」
「全く関係ないのに、わざわざ作ったのに、残念だね。栄子。」
にっこりと黒い笑みを浮かべれば彼は自分が作った花達に手を伸ばす。
「ま、待って、ごめん。謝ります!!がり勉は海藤君だけでした!!!!秀ちゃんは違います!!」
「…そう?」
海藤がかわいそうだな…と薄く笑い呟くものの、延ばした手が戻る。
それにほっと胸を撫で下ろせば、栄子は自身の周りに散らばる色ティッシュが再び視界に入れば、心底嫌そうに顔を歪める。
「…秀ちゃん…」
そう言えば彼を見上げる。
「……なんですか?」
あきらかな棒読みが返ってくる。
「……手伝って、くれませんか?」
しばしの沈黙の後、秀一がやっぱりね…とやれやれと大きく息をつく。
それに満面の笑みを向ける栄子に、今回だけだからね?と幼馴染は苦笑するのだった。
盟王高校の学園祭
それは毎年大掛かりなものだった。
三日に渡る学園祭は学年別、クラス別に様々な出し物があれば、学校主体でコンクールも開催される。
最終日にはダンスコンペもある為、学祭が近づくこの時期はどうしてもカップルが増える時期でもあった。
もちろん、恋人がいなくても相手がいれば問題もない。友人でもいいわけなのだが…
「そういえば、栄子はダンスの相手決まったの?」
二人で色ティッシュで花を作る途中に、秀一が聞いてくる。
「ううん、いないよ。適当に誰かと踊る。誰にも誘われてもないし…。」
答えるものの、視線はしっかりと目の前の花に釘付けだ。
「へぇ。誘われないんだ…。」
珍しそうに目を丸くして言う彼に、内心苛立つのは仕方が無い。
「…一杯お誘いのある秀ちゃんは選ぶの大変だね。」
別に気にはしないものの、嫌味で返すくらいはいいだろう。
「選ぶ前に踊る気ないから俺。」
「え?…そうなの?」
「うん。」
ならなぜわざわざ聞いたのか。
冷やかしだろうか、いや彼にとってそんな事は、ないと思う。
栄子は軽くふーん…と返せば、幼馴染の顔が上がるのを視界の片隅で見た。
「…ねぇ、演技の練習はしなくていいの?」
「…私、木なんだけど。なに?立つ練習??」
嫌味返しだろうか?
絶対分かってて言っている。
「ジュリエットは?したいってゆわなかったの?」
そう今年の栄子のクラスの出し物は『ロミオとジュリエット』だ。
「……。」
「好きなくせに。」
くすりと笑う彼に、思わず顔を上げる栄子。
「ロミオとジュリエット、好きだったよね?」
そして、もう一度彼の声色が振る。
(よく、覚えてるんだなぁ。)
小さい頃に読んだ悲恋の物語。
周りに反対され、死して尚、天国で幸せになったという恋人の話。
「だめだよ、台詞難しいし。覚えられないよ、あんなの。」
「……。」
「…私には無理だよ。」
へへへと切なげに微笑む栄子に、そっか…と秀一も薄く微笑んだ。