渇望
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もうさすがに戻っていいだろう…狐はそう思った。
そう思ったのだが。
彼女の次の一言でそんな思考はどこかへ行ってしまった。
「お風呂、入らなくちゃね。」
床を雑巾で拭き終えると、狐を抱き上げる。
醤油臭い自分達。
確かに彼女の選択は間違ってはいない。
普段は天然の彼女だが、こういった準備や行動は早い。
いつの間にかお風呂に湯を張っていたようだ。
狐の姿のままため息を吐く秀一。
しかし、そのため息は少し期待も含んだそれだった。
シャワーの湯を狐にかけシャンプーでわしわしと毛を洗う。
流し終えるとぷるぷると首を振り水分を飛ばす。
対して彼女も頭にお湯をかけシャンプーをしていく。
その体にはしっかりとタオルを巻いて。
淡い期待は外れたものの、じっとその姿を見やる狐。
「……。」
うなじがあらわになり水を弾く。
鎖骨には水がたまり掻き揚げる髪は艶やかだ。
白い肌は血行が良くなり桜色に色づいていく…。
「……。」
「あれ、どこいくの?」
出て行こうとする狐を呼び止める彼女。
それでも止まらず出て行こうと扉をかりかりとするものだから…
「だめだよ、せっかくお湯はったんだから一緒に入らないと、ね。」
と、狐を優しく抱き上げる。
それに一瞬びくりと反応し、珍しく硬直する。
「??…どうしたの?寒い??」
狐の顔を覗き込むが、ぷいっとそっぽ向くそれに彼女は首を傾げる。
そして一緒に湯船につかる二人。
彼女は狐をこちらに向かせると再び頬ずりをする。
「本当にかわいいんだもんなぁ…」
濡れて毛が水分を含んでいるものの、このさらさらの毛質感は変わらない。
「……。」
「ん??どうしたの?狐ちゃん?」
じっと自分を見つめ何も鳴かない狐に栄子は、んー??と顔を覗き込む。
「……。」
「どうしたのかなぁ…」
すると、唇に狐の唇がそっと触れる。
「あら、ちゅうしたかったの??」
嬉しそうに笑いちゅっと音を立てて狐に返す栄子。
しかし、自分からしたにも関わらず狐はなぜか少し怪訝そうに瞳を細める。
そして、ぷいっとそっぽを向くと再び湯から上がろうと前足を浴槽に掛け出て行こうとする。
「なんで怒っちゃうの、狐ちゃんからしてきたんだよ?」
慌てて再び湯船に浸からせる。
なぜか不機嫌そうな狐。
「…私がしたら怒るんだね、じゃぁ狐ちゃんからどうぞ。」
ふふふと笑う彼女。
狐はさらに不機嫌そうに目を細めた。
瞳をつむった栄子に触れる狐の唇。
湯嵩が増え、お湯が溢れる。
「ほら、やっぱり自分からなら-…」
瞳を開けようとした彼女の顔に落ちる影。
「えっ…」
肩を掴まれる感触、それと共に知っているそれが自分の唇に覆いかぶさる。
「んっ…」
濡れた唇が彼女の唇を強引に開かせ、そこに欲をねじ込む。
「や…ちょっ…」
押し返す胸板への腕の力など彼の前では無に等しい。
角度を変え何度も深く口付けるその熱い甘さと求められる激しさに体が痺れ出す。
「秀ちゃ…」
なんとか呼んだ名前に彼の荒々しい唇は離れ、まだ近いその距離で止まる。
「狐ちゃんだろ、栄子。」
怒りを含んだその声。
目の前にある瞳を見ると熱っぽく妖しく光る彼らしくない瞳。
以前一度だけ自分に向けられたそれとよく似ている。
「秀ちゃん…」
怖い…
「狐が俺だってわかってるくせに、よく煽る。」
耳朶をツーと舐められ体がゾクゾクと痺れる。
「や…」
「俺が君を好きなのを知っているくせに、残酷な人だ。」
自分を見つめる熱を持つ翡翠の瞳。自分を求めているのだとそれが熱く語る。
濡れた赤い髪。唇…。
いつもなら薔薇の香りがする彼も、いまは自分と同じシャンプーの香りがする。
「ご、ごめん-…」
その翡翠の瞳を直視できなく逸らそうとするが、彼は顎に手をかけ自身の方へ向かせる。
「ちゃんと俺を見ろよ。」
再び振る彼の口付け。
息が出来ないくらい熱く求められるそれに自分の気持ちすら錯覚してしまいそうになる。
「やめ…」
先ほどよりも攻められさらに奥へ奥へと追いつめられる感覚。
追われる草食動物の気持ちが分かる。
これは逃がしてもらえない。
足に触れる彼の手。
太ももを撫でながらタオルの下から入る彼の手。
「!!…ちょっ、秀ちゃ…」
「このまま俺のものになって…」
熱っぽいが、先ほどとは少し違う切なげな声で耳元で囁かれ、体の奥が熱くなる。
くらくらする。
再び塞がれる甘い唇。拒む手は掴まれ、逃げる舌は捕らえられ追い詰められ、息苦しい。
秀一はどうやら止める気がないようだ。
頭がぼうっとする。もうだめだかもしれない。
シャンプーとかすかに香る薔薇の香りに包まれる。
もう…死んでしまいそうだ…。