薔薇とお狐様1
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「私は異世界から着ました。」
「私はあなたの敵ではありません、ある人から死人を生き返られる水をあなたが持っていると聞いたんです。」
「私に生奇水をください。」
「…どうして俺の妖気の通ったものがあるのか聞いている。」
「いえません!!!」
かれこれ一時間。
目の前にはさも不機嫌そうに顔を歪めるお狐様が一人。
そして、彼の目の前では畳の上で正座をする栄子の姿。
-…すでに周りに人はいない。
蔵馬が自分の妖気を通ったものを栄子が身に着けていると気づけばすぐに人払いをした。
どこからこんなものが入手されたのか…
もちろん他にも気になる事は多々ある。
娘は答えられる事にはすんなり口を開くものの質問によってはここぞとばかりに口を紡ぐ。
「どうして俺が黒鵺を右腕にしようとしていたのを知っている?」
「いやぁ…予知夢?」
これも答える気はないようだ。
目が笑ってる…
ふざけた女だ。
肘掛けに頬杖を付きながら女をじっと見据えれば、女の視線は自分の頬に向けられている。
「…女に殴られたのははじめてだが、なんだ?」
「よ…よく、殺しませんでしたね。」
ははっと苦笑する女を冷ややかに睨めば、うっと詰まり目を泳がせる。
「……。」
少し睨めば、こんなに怯える女がどうしてああも強く出ることができたのか。
殺されないと思ったか?
否、この女のあの行動は違う。
考えてなどいない。
「人間とは馬鹿なのか?」
「……。」
「それとも無謀か。」
くくっと妖艶に笑う蔵馬に、思わず頬が赤くなる栄子。
どんな蔵馬だろうと、彼は彼には違いなくその妖しい笑みを直で向けられればやはり頬が熱を持つ。
(…色香は健在。)
例えそれに温かみがなくとも、どんなに冷たい瞳でも彼が持って生まれたであろう色香は隠し切れない。
狐は思考を巡らす。
女の言うように異世界から来たとしても全てが不可解。
狐自身、早急な性格ではない。
本質を見極める為にも必要とあれば時間を費やす事もある、しかしこれに関しては下手をすれば団員を危険に晒す可能性もあるのだ。
宝庫の場所も開け方も知っていれば黒鵺を右腕にしようとしてること、そして自分の妖気が含まれた物を所持している。
何も情報を聞き出さず殺すことはないにしても、多少の拷問は必要だと思っていた。
自分達の情報がどこかで漏洩している事がそもそも問題だ。
しかし、女を痛ぶる趣味などない。
そして、人間の女などさらにひ弱で軟弱、下手をしたら殺してしまう可能性もある。
どう口を割らせてやろうか…
そんな事を考えていれば目の前の女は何か言いたげにこちらを見ていた。
「……蔵馬さん…さっきからずっと思ってる事があるんですけど…」
それに「あぁ…」と瞳を細め、お前の処置か?と聞き返す。
「あ、それもそうなんですけど…黒鵺さんの事です。」
「……。」
「彼はあなたを裏切ってないから、それは信じてください。私の発言で妙な疑いをかけてしまったようで…。」
って私がこんな事言うのもなんなんですけど…ってか睨まないでください!!と両手をふるふる振る女に眉を寄せる狐。
-…命乞いをしないのか、一番に。
「黒鵺の事は俺が一番分かっている、あれは試しただけだ。」
「…試す?何でですか?」
眉を寄せ首を傾げる栄子に狐は答える気がないのか、やれやれと瞳を伏せる。
「…黒鵺さんを信じてないんですか?」
じっと狐を見据え呟く彼女に、金の瞳が薄く開く。
「…信じる信じないかではない。裏切るか裏切らないかだ…。」
「……?」
「俺がどうこうではない。」
「要はあなたの想いとは関係なく、相手の出方って事、ですか?」
「そうだ。」
「……試す時点で違う気がするんですが。」
ぽそりと呟けば、金色の瞳がぎろりと彼女の瞳を射抜く。
「先程から人間がよく言ってくれる。」
-…やはり俺が直々に口を割らせるか。
金の瞳に剣呑な色が混ざり、ゆらりと身を起こす彼に思わず両手で制する栄子。
「だ、だって…試すって事は信じたいのに信じきれない不安から来るものだと思います。目に見える証拠を見ないと不安だから…。」
「……。」
「それに、相手が裏切る裏切らないかは蔵馬さんが試して決めることではないと思います。」
栄子の脳裏に過ぎる彼。
彼はきっとそうだった。
理解できない所ももちろんあったけれど、それでも、彼は自分の弱さを受け入れられるほど強い人だっただろうと。
「…って、生意気な事いってすみません。あ、あの…とりあえず私は例の水が欲しくって…」
へらっと笑いながら蔵馬の顔色を伺えば、彼はとても妖艶に瞳を光らせ口元に手を当てる。
「やらんこともない。」
「ほ、本当!?」
「あぁ…。だが、俺の質問に全てはけ。それが出来なければ無理やり吐かせる。」
まぁその場合水をやるかやらんかはおまえ次第だが…と妖しく呟き、ぐいっと片手で顔を掴まれる栄子。
そのまま狐の顔が至近距離まで近づけば妖艶な艶やかな金の瞳が細くなり見据える。
「吐かなければ少々手荒になるかもしれんぞ?」
ぺろりと赤い舌が唇を舐める。
それに一瞬呆ける栄子だったが、次の瞬間ぼっと真っ赤になる。
「な、な…ど、どういう-…」
「俺が男でお前が女ならば方法などいくらでもあると言っている。…試してみるか?」
顔を掴まれたまま色香を含んだ金の瞳が近づく。
「言う気になったらやめてやる。」
甘く囁く低い声とは対象的に顔を挟む手は乱暴だ。力を緩める気はなく、それこそ本気なのだと分かる。
「わ、わかりました!!!!」
(もう、やけくそだ!!)
狐の力が緩めば一気に後ろへ下がり距離を取る。
「さぁ話せ。」と肘掛に頬杖を付き勝ち誇った様に笑みを浮かべる狐。
それに、普段使わない頭をフル回転した栄子は-…
「わかりました!!!でも、やっぱり言えない事は言えないんです。だから、一つだけ…これだけ言わせて貰います。」
やはり辿り着く所は出発点。
何も変わることは無い。
だけど-…
「これから何年何十年先になるか分かりませんが、霊界のハンターに気をつけてください。」
うぅ…これ位大丈夫だよね。と俯き呟く女に目を細める狐。
「……予知、ではないな。」
ゆるりと自身の妖気を纏う腕輪に視線を落とす。
そして、一旦瞳を閉じ再び開けば金の瞳がまっすぐに彼女を見据える。
「……なるほど。全部言えないのはその為か。」
「はい…。私の持ち物も、知っている事も…不可解ですよね?でも、そういうことなんです。あなたがそれを知ったら…やっぱり色々問題なんです。」
「未来が変わると、そういう事だな。」
「…はい。」
ここまで言ったら言ってしまったも同然かもしれない。
でもこれ以上聞かれたら答えられない。
狐は息を付く。
感じる妖気は今の自分のものよりはかなり洗練されたものだ。
周到に隠され研ぎ澄まされた鋭い牙。
下手に殺意を見せれば妖気の刃が容赦無く襲いかかるに違いない。
それが何よりこの娘の言葉に真実味を持たせる。
だがー…
「未来から来たと言うそれは、嘘は言っていないようだ。」
「はい。」
「だが、おまえの事を信用する理由にはならない。」
「…わ、分かってます。だから、どうすればー…いいんでしょうか?」
「……。」
「どうしても生奇水が必要なんです。」
「…おまえの処置は少し考える。」
なぜそんな物を小娘が持っているのか。
なぜ宝の隠し場所を知っているのか。
娘の話が真実なら未来の自分とこの女は少なからず顔見知りになるということだ。
いや、違うー…
もっと何かが違う。
何が違う、何かが違いすぎる。
すっきりしない思考と感情が狐の中で燻る。
ばくぜんとした違和感がどうしてもぬぐいきれないのだ。
「……、わかりました。」
女はしゅんとするも、仕方ないですね…と呟く。
そして、しばらくすれば伺う様に顔を上げた。
「と、ところで、まだ気になることがあるんですがー…」
「…なんだ?」
きっと、この違和感の正体は時間と共に明確になるだろう。
「雲海さんという人は私が何かしてしまったのでしょうか?」
「……。」
それに狐の眉間に深く皺が刻まれる。
先ほどから人の心配とは、本当に馬鹿だ。
「今夜の屋敷の見張りが雲海だった。おまえが侵入した事であれには罰を与えている。」
「ば、ばつ!?」
「何、死にはしない。髑髏谷に紫茸を取りに行かせた。」
「ど、髑髏谷!?」
髑髏谷は聞いたことがある。
場所は知らないが、ここからそう遠くない谷だったはずた。
確か、妖怪でもその強い瘴気に耐えれるものは少ないと、下手すれば死んでもおかしくない場所。
「なんて…こと。」
徐々に血の気が引いていくのが分かる。
「茸を見つけさえすれば問題ない。」
「……。」
(私のせいだ…。だから黒鵺はあんなに怒っていたんだ。)
「蔵馬さん」
「なんだ?」
目の前の栄子の顔面蒼白の様子にくつくつ笑う狐。
「髑髏谷の場所ってどこですか?」
その瞬間、狐の笑いはピタリととまったのだった。
-…私のせいで誰かが傷つくのは嫌なんです。
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