第16話 禁じられた術
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やっと帰ってきたんだと思った。
しばらくなかった彼の香りが心地良い。
すごく…安心する…
顔に日差しがかかる…
雀の鳴き声がする。
栄子はゆっくりと瞳を開けた。
(ここは…)
まだはっきりしない頭で起き上がると周りを見回す。
最近来ていなかった幼なじみの部屋。
なんでここにいるのか…。
一瞬湧いた淡い期待はどうも違うらしい。
今居る寝室の開け放された扉から見えるリビングのソファで眠る飛影を見て、彼が気絶した自分をここへ運んでくれたのだと分かる。
しかも、不法進入で。
ベランダの窓ガラスは綺麗に真中に穴が空いていた。
(…溶かしたんだ。)
容姿がどうであれ、やはり妖怪なのだ。
人間なら出来かねない。
妖怪…。
昨夜の記憶が蘇る。
あの男も妖怪だと言っていた。
先日の事件も彼が男達を操ったのだと、竜崎を見て栄子は分かった。
そういえば…
栄子は再び周りを見回す。
「あの男なら公園に捨ててきたぞ。」
さっきまで寝ていたのにいつの間に起きたのだろうか。
ドア越しにもたれ欠伸をしながら言う彼。
一瞬ビクリと肩を揺らし驚いた栄子だったが、それ以上に出た言葉に耳を疑い思わず声を上げた。
「おはよう…って、えぇっ!!公園!?」
「うるさい、安心しろ。さっき邪眼で見たらちゃんと帰ってたぞ。」
寝起きの悪い彼。
面倒くさそうに目を細める。
「あ…そうなんだ。よかった。」
胸を撫で下ろし、ほっと一息つく栄子。
ちゃんと元気なのだと安心する。
しかしそれもつかの間。
彼女は何か思い出したかのように勢いよく顔を上げ、次はなんだ?と、うっとうしそうに見る飛影の視線とぶつかる。
「…おい。」
彼女の視線に居心地の悪さを感じ、怪訝そうに眉を顰める飛影。
「やっぱり飛影だ。ひさびさだね。」
「こないだ会ったぞ?」
なにを言ってるんだ、こいつは。
飛影は呆れたように息をつく。
「いや、…こないだは私酔ってたから、その…大丈夫だったのかなって…。」
罰が悪そうに言う栄子に飛影はほぅ…と目を細める。
「覚えていないのか、おまえ。」
「会ったのは覚えてるんだけど、うる覚えというか…はっきりとは覚えてなくて。」
へへへと笑い、ごめんね。と手を合わせる。
酔うとあのような感じなのは元々知っているためさほど気にはならなかった飛影だったが、あの後狐に一瞬でも殺されそうになった事を思い出す。
目を細め盛大にため息をひとつ。
「…おまえのせいで大変だった。」
「…えぇっ!!…やっぱり…私なんかしちゃったの?」
あの次の日、幼なじみの機嫌が悪かったことと関係しているのだろうか…。栄子は覚えていない自身の行動が幼なじみひとりではなく飛影にまで迷惑を掛けたのかと、いやそれ以上かもしれないと、途端に青くなっていく。
「……。」
「…飛影??」
早く言ってよ、とばかりに心配そうにそわそわする栄子。
「気に、なるのか?」
目を細め口角が上がる。
一瞬だった。
風が吹いたと思ったら、久々に香る飛影の香り。
気づけば目の前にある彼の顔。
さっきまでドア越しに気だるそうにもたれかかっていたのに、相変わらず素早い動作に栄子は驚く。
「…教えてやろうか?再現して。」
さらに耳元で甘く囁き、自身を見つめる妖しく光る赤い双方。
しかし、そんな彼の遊び心を知ってか知らずか、彼の顔をきょとんとした表情で見る彼女。
「…そんなに近づかなくても聞こえるよ、飛影。」
それとも聞こえない??と首を傾げ目をぱちくりとする。
「……。」
「ねぇ?」
信用しきった瞳を向けられ飛影は再び大きなため息。
(天然もここまでくると本当に参るな…)
以前自分とした接吻を憶えていないのだろうか。
怪訝そうに眉を寄せる。
信用されすぎても困るのだが。
あいかわらず先が思いやられる女。
飛影は狐に心底同情した。
あれ位強引にしたくなる気持ちもわからなくはないか。
飛影はわしわしと乱暴に栄子の頭を撫でる。
「わゎ…い、痛いってば、飛影…」
「ふんっ、おまえは本当に面倒くさい。それが答えだ。」
「えぇ!な、何それ!!ひどいよ、それ!!」
さらに激しく髪の毛をぐちゃぐちゃに撫で回され栄子はただただ悲鳴を上げる。
「燃えるって!!」
「燃えん。」
きゃーっと騒ぎ涙目になり嫌がる彼女の様子を見て笑う飛影。
懐かしいその感情は、彼の中で小さな炎となって燻る。
自分では気づかないように蓋を閉めて。