第15話 黒真珠と血の香り
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『ロミオとジュリエットはなんで死んじゃったの?』
絵本を両手で持ち、机で宿題をする秀一の側へ寄る栄子。
『…もう読んだの?』
小学校は夏休み。
二年生の栄子は作文の本を『ロミオとジュリエット』にした。
低学年で「ロミオとジュリエット」を読むなどと、内容も少しシビアで難しいはずだが低学年用にひらがなを多く使い書かれた読みやすい物だった。
絵が好きだと栄子はそんな理由で選んでいたようだが。
栄子はこっくりと頷くが、
『なんで?秀ちゃん!!』
と秀一の服を引っ張る。
『なんでっていわれても…その恋を周りは認めてくれなかったんだよ。…というか、栄子にはまだ難しいんじゃない、その本は。』
『難しくないもん!!栄子わかるもん!!』
わからないから聞いてるのではないのだろうか、秀一は苦笑する。
『でも…好きなのに死んじゃうのかわいそうだね。』
絵本の表紙を見て呟く栄子。
『そうだね、でも天国で一緒になれたから…そこで幸せになれたんだよ?』
物語の結末はそうだ。
《天国で二人は永遠に幸せにくらしました。》
幸せなわけがない。
悲しい結末を緩和するためにつけられた慰めとも取れるバッドエンド。
秀一は栄子の頭を優しく撫でながら「そうでしょ?」と笑う。
しかし撫でられているのにも関わらずきょとんとした瞳でじっと秀一の顔を見ている。
『…どうしたの?』
『それ、幸せなの?』
意外な言葉。
まっすぐな瞳を向けられ瞳を伏せる。
『…幸せ、だと思うよ。』
それでも物語では彼らの最後は永遠の幸せで止まっているのは確かなのだから。
死んでしまっては元も子もないが。
『ふうん、なら生まれてくる意味ってないね。死んだほうが幸せになれちゃうなら…』
小学生ながら驚く言葉を言う。
どう返せばいいか分からない秀一に栄子は言葉を続けた。
『あっ…でも栄子生まれなかったら秀ちゃんに会えなかったものね。…そっか、ロミオとジュリエットも生まれなかったら会えなかったんだ…そっか…。』
なにやらいきなり一人で納得をしだす。
『やっぱり、生まれた方がいいみたい。』
満面の笑みで言う栄子につられて秀一も微笑む。
『そうだね。』
優しく目を細め再び頭を撫でる。
気持ちの良いそれに栄子は目を瞑り笑った。