第15話 黒真珠と血の香り
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
久々だった。
早番の仕事帰りにたまたま寄った本屋。
まさかこんな所で彼と会うなんて思っても見なかった。
あるコーナーで彼は本と睨めっこをしていた。
後ろからそっと近づく。
気配にすら気づかないようで真剣な眼差しで本を選んでいる様子。
「竜崎君?」
さすがに黙って覗き見は申し訳ない気がし声をかける。
彼はびくりと肩を揺らし慌てて振り返った。
「栄子ちゃん!?」
久々に見る彼の顔はただただ真っ赤で口がぱくぱくしている。
その様子に一体何を見ていたのだ?と興味が沸くものの「見たらだめ!!」と、彼の腕に遮られる。
「…ふうん。エッチな本なの?」
自分はデリカシーがないのかもしれない。
でも男の子だ。
それくらい普通だと思う。
まぁ、幼なじみの部屋では見たことはなかったが…。
「ちっちがうよ…そうじゃないけど…」
「ならいいじゃない。」
ぴょんっと横に出て彼の肩越しに覗き込む。
そこには…
『好きな子を振り向かせる方法』
『男の魅力』
『男と女の恋愛論』
といった本達が並んであった。
「あぁ、見られた…」
がっくりと肩を落とし俯く彼に、自分もこういった物を買ったことがあった為、何か悩み事でもあるのかと当時の自分を思い出し心配になる。
「なにか、悩みあるの?よかったら聞こうか?」
「へ??」
思っても見ない言葉が出たことに一瞬あっけに取られるものの、我に返り首を振る竜崎。
「悩み…だけど、相談できることじゃないんだ。」
はははっと恥ずかしそうに笑う彼にそう?と首を傾げる栄子。
「というか、久々だね。栄子ちゃん…元気してた??」
その言葉に一瞬幼なじみの顔がよぎるもののにっこりと笑う。
「…うん。元気だよ。」
「そっか…よかった。全然会えなかったから。最近忙しいの??」
「うーん…まぁまぁかな。竜崎君は?」
色々あったのは確かだ。
そして、竜崎からのお誘いもあったが最近は断っていた。
嫌だからとかではなく、ただなんとなくだ。
前と少し様子が違うような気がしてしまい…ただそれだけの理由だが。
だけどこうやって会ってみると、あの時感じた違和感などは一切なくいつもの彼だ。
やはり思い過ごしだったのだろうか。
「俺の店は相変わらず忙しくて困る。最近変な客も多くてさ…参るよ。」
「変な客??」
「そうそう。やけにボディタッチが多い奴とか、あっ…男ね。俺の店、男が好きな男が最近多い気がするんだ…。」
話すうちにどんどんと青くなっていく彼に栄子は思わず吹き出す。
「もてるんだね、竜崎君は。男にも女にも。」
「……もててたら、こんな苦労しないよ。」
俯きながらぼそりと呟く。
「え…何か言った?」
「いや、なにも。でも好きな子にもてなきゃ意味がないよ。」
「……。」
懐かしい言葉。
以前幼なじみも同じような事を言っていた。
「それがモテ男の台詞なんだよ。」
笑顔で返すが、心が痛い。
あの時私はなんて言ったのか。
きっと同じ台詞を言っている…
打ったメールの返事は結局返って来なかった。
会って話がしたい。
返事がほしい。
気持ちをうまく伝えるような文章力を持っていない私は、簡潔に用件を伝えることしか出来ず、やはり会って話をするしかないと思ったのだ。
案の定返事のない彼に…
正直、だんだんと腹が立ってきていた。
よく考えたら彼が怒っていたとしても、実際怖い思いをしたのは自分だ。
こうなったらもういい!!と思うものの、ふとした時に思い出すのは優しい彼の顔。
嫌いになれるわけがない。
だけど、腹が立つ。
この際、出張先までいってやろうかとも思う。
文句の一言でも言わなければ気が済まない。
「栄子ちゃん?どうしたの?」
ふつふつと湧き上がる怒りと思考を、彼の声が現実に引き戻す。
「あっ…ううん、ごめんなさい。…今から仕事??」
「いや、休み…なんだけど。…栄子ちゃん、夕飯まだ、だよね??よかったら、どうかな?」
少し歯切れの悪そうに照れながら言う。
久々だし…と俯きながら言う彼を相変わらずかわいいと思ってしまう。
ずっと断って悪かったかもしれない。
「いいよ、行こうか。どっかいい所あるの?」
その言葉に、見て分かるほどぱぁっと明るくなっていく彼の顔。
満面の笑みで力強く頷く。
かわいいと思う。
とても癒される…
車を取ってくるから待っててと、嬉しそうに走っていく竜崎は、気が競っているのか、入り口で人にぶつかり謝りながらも走っていく。
そんな彼を栄子は微笑ましく見送った。
竜崎は店を出た後、見送る栄子の姿が見えなくなると走る足を止める。
体中が燃えるように熱い。
体が震えだし彼は自身の体を抱きしめた。
最近よくあるこの現象に慣れたものの、よりにもよってなぜ今なのか。
周りの声や雑音がだんだんと小さくなっていく…
彼はその場に膝をついた。