第13.5話(妖狐編Ⅱ)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
蔵馬はよく本を読む。
居なくなると大抵見つける場所は書庫だ。
いつものように書庫へ向かった栄子。
しかし、その日は書庫には誰もいなかった。
いつも蔵馬が座っているソファーに座り、もたれかかるとかすかに彼の匂いがした。
初めは嫌悪さえ抱いた男性に似つかわしくない薔薇の香り。
いつしかその匂いは彼女を安心させるものとなっていた。
ふと机を見ると一冊の分厚い本。
かなり古い物のようでこすれた跡や、見えるページの部分はかなり黄ばんでいる。
途中まで読んでいるのか、紙のようなものが挟まれていた。
(こんなに古いの何の本だろ…)
興味本位にページを開いてみる。
「うわっ、字もかすれてる…見にくいっっ!」
黄ばみ所か字すらこすれてか、消えかかっている。
「それは実筆だからな。」
後ろから聞こえてきた声と同時に体が薔薇の香りに包まれる。
よく知っている香り。
「蔵馬…」
「一人で何をしている。」
耳元で彼が囁く。
顔が近い。
栄子は思わず体が固まる。
いつからか蔵馬は前より栄子に対する扱い方が変わってきた。
そして栄子自身も抱きしめられても、どんなに近くて平気だったはずが、いつからか触れられると落ち着かなくなってきていた。
「ちっ近いよ…蔵馬…」
蔵馬から離れようと体を引いてみるものの、がっしりと回された腕は緩まない。
そんな彼女の様子に狐は目を細め少し笑う。
「なぜだ?こんなのスキンシップだろう?」
唇を彼女の耳にあて囁く。
「―…!!!」
びくっと反応する栄子は、ばっと耳を抑え真っ赤な顔で狐を見る。
「う~…蔵馬~!!!」
涙目になりながら自分を見上げる彼女。
「……栄子」
狐は彼女の唇に吸い寄せられる様に、自身を近づけた…だが、それは寸前で彼女の言葉によって止められた。
「…食べたいの?」
無垢な真っ直ぐな瞳。
冗談のつもりだろうか…
狐は一瞬言葉を返そうと考えたが、こっちの方が分かりやすいだろうと、再び唇を近づけた。
ぺしっ
狐は額を叩かれ数センチの所で止められる。
不機嫌な狐の額に置かれた手。
「なぜだ?」
その手を握り、自身の方へ引き寄せ、栄子の顔を近づける。
息のかかる距離にいる二人。
「だめだよ!だって…」
栄子は真っ赤な顔で俯く。
「だって?何か問題あるのか?」
栄子の耳に手をかけ、顎を上へ向かす。
「おまえが愛しい。」
その言葉に栄子の目が見開く。
潤んだ瞳。
少し開いた赤い唇。
それに煽られ返事を待つ事など出来ないといったように、ゆっくりと近づく狐の唇。
「だめ!!」
震える両手。
苦しげに自分を見つめる彼女の瞳。
胸を押す両手が狐への拒絶を表していた。
金色の瞳が栄子の目の前で揺れる。
「…なぜ?」
しかし栄子は瞳を潤ませたまま、何も言わない。
ただ瞳にはハッキリとした拒否の色が見えていた。
かすかに震えた唇に目がいく。
狐は自身を拒絶されたままにある片手を取り自分の頬に当てる。
ビクッと反応する栄子。
さらに逃げようと体を引くが、狐はその腕を自身の方へ引いた。
「何もいわないなら知らんぞ。」
彼女の後頭部に手を移動させ自分に向かせる。
欲望に任せたかった
拒絶されても関係なかった。
俺が求めているのだから。
彼女の息を奪う。
震える唇に荒々しくかぶさる狐の唇。
甘い甘い至高の甘さ。
狐は溺れる。
「蔵…いやだっ…んっ」
鈴のような震えた声にまたも煽られ、狐はさらに栄子を求めた。
が、次の瞬間、彼女が怯えた声で小さく呼んだ名に狐は夢から覚めた。
「…そやつは死んだ。」
冷たく言い離す狐。
凍るような冷たい瞳で栄子を見つめる。
「あなたが殺した。」
栄子の瞳から涙の石がぽろぽろとこぼれる。
「そうだ。」
「私のせいで彼は死んでしまった。」
そして続けて言葉を紡ぐ。
だからあなたを受け入れられない
栄子は俯きながらか細い声でそう言った。
この時ほど狐は自身の行動を後悔した事などなかった。
「いいよ、好きにして。」
狐の瞳が見開く。
「でも…最後はちゃんと殺してほしい。」
頭を何かで殴られた様な衝撃。
「あなたと一緒にいるのが辛いの…」
見上げた彼女の瞳にはもう拒絶めいた色はなかった。
栄子の頭に秀忠の声が響く。
愛しかったその声は
いつからか自分を縛る
逃げることなど許されない。