第13.5話(妖狐編Ⅱ)
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その日栄子は、蔵馬と一緒に久々に人間界に降りていた。
以前住んでいた京だ。
秀忠との思い出の地。
蔵馬とも初めて出会った場所。
「蔵馬、こっちこっち!」
懐かしい土地に栄子のテンションは上がる。
「そんなに走るな、転ぶぞ。」
店が並ぶ中、栄子は嬉しそうに見回る。
その後ろから蔵馬は苦笑しながらも、やれやれとついていく。
ことの発端はささいな事であった。
『誕生日のお祝い?』
そうだ、と狐は頷く。
『でも私もう誕生日とっくに過ぎたし、今までだってなかったから別に…』
『俺がいいと行っているんだ。好きな物を言え。』
狐のいきなりの気紛れ。栄子は少し考える。
『じゃぁ…その耳と尻尾隠せる?』
『?…できない事はない、薬を飲んだら一時的には消えるが…』
『ならなら、蔵馬、男物の着物持ってる?今の服じゃなくて…もっと普通の。』
これが普通なんだが…
と思う狐だったが、栄子の期待するような瞳に思わず頷く。
次の瞬間、パァッと笑顔になる栄子。
そして…
「蔵馬、人間みたい。」
団子屋で隣に座る蔵馬の頭を撫でる栄子。
「人間のふりをするのなんざ何百年ぶりだろうな。」
団子を口に頬張り、うまいな、と言葉を漏らす。
栄子はでしょ~?と笑う。
久々に来たかった人間界。
もちろん来たかったのにはちゃんとした理由がある。
多分、蔵馬はそれを良しとはしないだろうが。
いつ話そうかと考える最中…
なにやら周りの雰囲気が気になる栄子。
皆が蔵馬をみている。
女性陣は頬を赤らめ、ほぅ…とため息をついている者もいれば、黄色い声を上げている者。
彼は気付いていない様子だが。
中には男性までいる始末。
彼女は思った。
目立つ狐さんだ。
だが、なぜかあまり良い気がしない栄子。
なぜ苛つくのだろうか、
そんな事を思っていると狐が、栄子の顎に手をかけ上に向かせた。
そして綺麗な瞳が近づいてくると思った時には…
ペロッ
唇のすぐ横を舐められ、狐は離れる。
しばらく何が起こったのかわからなかった栄子だったが、周りにいた女性陣達のショックを受けた悲鳴によって気付き、狐を見上げた。
「たれがついていたぞ、落ち着いて食べろ。」
と、甘い笑みを浮かべながら舌で唇を舐める。
徐々に自身の頬に熱を感じる栄子。
狐はそんな栄子の真っ赤になった表情が予想外だったのか思わず目を見開いた。
「た…」
ごもごもと何か言いたそうな彼女。
照れているのか?
一瞬甘い期待をするが…
「食べられるのかと思った…」
狐を見上げ涙ぐみながら小さな声を上げる。
狐の期待はまんまと外れた。
しかし、何故か笑いがこみ上げる。
「食べる時はちゃんと食べさせろというから安心しろ、いきなり食べたりしない。」
くくくっと笑いながら話す狐に栄子はさらに赤くなる。
「私おいしくないと思うんだけど…」
「いや、味見は十分甘かったぞ。」
それは…!
団子のたれ…と言いかけて再び思い出して恥ずかしくなったのか、唇を尖らせて俯く。
少なからず不意打ちのキス?は栄子を動揺させる位の力はあったらしい。
狐は少しは進歩したのかもしれない、と顔が緩む。
そんな二人の会話を聞いていた周りは…
真っ赤になりながら蔵馬との事を想像してか倒れる者、鼻血を噴く者。
ばからしい、と去る者。
破廉恥だと騒ぐ者。
様々な反応を見せてくれていたとは言うまでもない。