第13話 近くて遠い想い
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その頃…
「うーん…どうしたものか…困った、本当に困った…」
霊界の一室ではコエンマの唸り声が響いていた。
机に積まれた書類に見向きもせず、彼は腕を組み首を傾げ考え込んでいる。
そこに、激しく音を立てて扉を開く。
「コエンマ様!!これですか!?」
現れたのは埃と蜘蛛の巣にまみれたぼたん。
手には一冊の分厚い本。
「おぉっ!!よくやった!!こっちじゃ!!」
身を乗り出し、机の上の書類を全て下に落とし、散らばり落ちていくのにも気にも留めず受け取った本を急いで開ける。
黄ばんで所々敗れた本。
それは霊界で厳重保管されている禁書と呼ばれるものの一冊、相当古いものだ。
「どこじゃ…どこなんじゃ。うー分からん!!ないのではないか!?おいっぼたんおまえも一緒に探さんかい!!」
「えぇっ、無茶いわないでくださいよ。第一何を探してるのかもわたしゃ聞いてませんよ?」
とりあえず探してこいと命令を受けただけのぼたん。
落ちた書類を拾いながら答える。
コエンマは血眼になってページをめくっていく。
「あっ…そういえば、ジョルジュさんが泣いてましたよ?コエンマ様の事鬼だといってました。」
「あのばかジョルジュが…、あいつのせいでわしが今どれだけ焦っているともしらずに!一生うさぎの餌係にしといてやる!」
忌々しそうに舌打ちをしながら、しかし本から目を離さずに彼は眉を寄せる。
「赤鬼は同僚だから、庇ってしまったんですよ。地獄から魂を逃がしたなんて事、そう正直に言えないでしょうに。」
「ばかもんが!そういう問題ではない、ジョルジュの奴、言わなければバレないとでも思っておったのだろう。魂が霊界から逃げるなど前例がない!あやつは事の重大さを全くわかっておらん!」
「赤鬼は今年結婚が決まっていたから、ジョルジュさん庇ったんですよ、きっと。」
「ばかものが。」
「というか魂が逃げたのなら連れもどしに行けばいいんじゃないですか?わざわざそんな難しそうな本読んで…」
「ばかものはもうひとりいたか。魂が逃げたというが、実際肉体を持たぬ魂が逃げ出すなど不可能なんじゃ。なのに、いなくなった。」
「はい??」
意味が分からないと首を傾げるぼたん。
コエンマはそんな彼女の様子に大きなため息をつく。
「肉体を持たぬ魂が抜け出すには、限られた方法しかあるまい。肉体を何らかの方法で手に入れ霊界から逃げ出したか、あるいは…」
ページを次から次へとめくっていくものの、なかなか探しものが見つからない。
むむっと眉間にしわを寄せ本を睨む。
「ぼたん!!この本より古い禁書を持って来い!!」
「それならここにありますよ。」
「おぉ、すまんな蔵…」
目の前に差し出された本を受け取ろうとし、手が止まる。
ゆっくりと見上げればにっこりと微笑む秀一の顔。
「…お、おぉ!!蔵馬、おっ驚ろかすでない。いつからいたのだ?」
本当にいつからいたのだろうか。
ぼたんも秀一の後ろで驚いた顔をし、コエンマと目が合うと首を横に振る。
「さっきちょうど彼女が書庫にはいるのが見えまして…ね。」
書庫といえど厳重に警備され管理されている場所。
この狐は勝手に入り勝手に禁書を持ち出したらしい。
「と、まぁ良い。とりあえずその本を…」
わははっと笑い、出された本を取ろうとするが、狐はそれを上に上げる。
「俺も少し調べたい事がありまして。」
目を細め唇で孤を描く。
「む…そ、そうか、なら、あとで一緒に書庫に行こう。とりあえずそれを…」
「魂がいなくなるなんて霊界始まって以来前代未聞の責任問題。ばれたらかなりやっかいですね。」
「うっ…」
面白そうに話す狐に、嫌な予感がし青ざめていく。
「内密に事を納めるにはいささか問題が大きくなってきた。その問題がこれ…ですか。」
本をひらひらと目の前に泳がす。
「お…おまえ…」
「色々調べさせてもらいました。さっきの話を聞いて確信に変わりましたけど。」
後ろでは先程から頭に?マークの浮かぶぼたん。
「禁術…とはね。」
笑っているのに目が笑っていない。
背中に悪寒が走るのを、この部屋にいる残り二人は感じていた。