第12話 美しい薔薇には棘がある
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幼なじみが帰ってきたとき、彼女の姿を見て少しは驚くかと想像していたものの、動揺することもなく普通過ぎる彼に拍子抜けした。
だからこそ、彼女の方がさらに緊張してしまっていたようで、自分がいたほうがいいのだろうか…と彼女に囁き聞くと彼女の返事を聞く前に幼なじみの呆れた溜息が聞こえた。
「どっちでもいいよ。でも席外してくれた方が助かる。」
あなたに聞いていない!と反論したくなるものの、彼女も静かにコクリと頷くものだから席を外すことにした。
しかし、あの言い方はないのでは。
外を一人で散歩する栄子は一人イラつきだしていた。
久々に会いにきた彼女を見て、動揺もしなければ、二人の大事な話合いに自分がいるかいないかが、どっちでもいいとは。
まるでどうでもいいみたいに聞こえたのはきっと自分だけではなく彼女もそうだろう。
彼は優しくて誠実だ。
なのにあの言い方。
怒っていたのだろうか。
いや、怒っている様子はこれっぽっちもなかった。
ならなぜ…。
出て行くときに、五分くらいでいいよ。と自分に言った彼の態度も信じられない。
大事な話合いを五分。
だれが五分で戻るものか。
栄子が知っている彼とは確かに少し違う気がするものの、信じたかった。
女の子に酷い言い方をする彼などしらないし、誰にでも優しかった。
逆に考えると、本当に好きな子には冷たくもなる?とか…。好きな子ほど苛めたくなる系かもしれない。
色々なパターンを考える栄子だが、やはり
甘く優しい彼が一番ぴったりと自分にはまってしまう。
結局、一時間程の時間を潰し彼の部屋へ戻ってみる事に。
玄関にはまだ彼女の靴。
しかし、静かだ。
話合いは終わったのだろうか。
そろりそろりとリビングへ行くが見当たらない。
一体どこに…
その時だった。
寝室の方から聞こえる息づかいと何か話す言葉。
そして…
パーンッと、響く肌を叩く音。
しばらくして乱暴に開かれる寝室のドア。
息を荒くして出て来たのは彼女だった。
鬼のような形相で寝室に向かって「最低!!」と言葉を投げかけ、ソファーにおいている鞄を持ち
出て行こうとする。
「えっ…ちょ、なにがあったの!?」
玄関で乱暴にヒールを履く彼女の駆け寄る。
「最低だわ…あんな人。」
裏切られたと呟く彼女。
シュチュエーション的に想像はつくものの、まさか彼が無理やりを強要するだろうか。
「あなたも騙されているのよ!あんな人だったなんて!!」
そうして玄関のドアを荒く開けそのまま出て行ってしまった。
今日泣いていた彼女。
やはり好きだからと、ヨリを戻したいと勇気を振り絞りやってきた一途な彼女。
なぜ??
なんでなの??
彼女の出て行った開け放されたドアをしばらく見つめる。
心が痛い。
ぐっと胸元の服を握り締める。
寝室では秀一が何事もなかったのかの様にベットに座り髪をかき上げる。
「彼女に、何したの?」
入り口から彼に声をかける。
自分で分かる少し震えた声。
「遅かったんだね、栄子。」
そして、いつものように優しく微笑む彼。
「……今日泣いてたんだよ、彼女。ヨリ戻したくて来たんだよ?」
「知ってるよ。ちゃんと話したから。」
「…断ったの?」
「あぁ。」
「断った後、何してたの?」
「……栄子、そんな所にたってないではいったら…」
「いやだ。」
行けない。
前もそうだった。
彼を幼なじみでも男性なんだと分かったあの時。
なぜかすごく嫌で、しばらく会えなかった。
今はそれと同じ。
ここで彼女となにをしようとしていたのかが想像がつく。
「……断ったけど、誘われたんだ。そんな気になれなかったけどね。」
「ならなんで、あんなに怒ってたの?」
沈黙。
秀一は、はぁっと深く溜息をついた。
「体でヨリを戻そうとおもったんだろうね。だから、もう一度ちゃんといったんだ。それで怒ったんだよ、きっと。」
本当なのだろうか。
ならばあの怒り方は尋常ではない。
納得のいかなさそうな栄子。
「なんて…いったの?」
探るような視線に狐は目を細める。
聞いていいのだろうか。
何かが壊れる気がする。
彼は一息つくと立ち上がり、部屋から出て行こうとする。
何も言わない彼の腕を掴み、自分の方へ向かせる。
「なんていったの?」
しつこいのは分かっている。
だけどここまで聞いたら引けない。
彼は窓越しに視線を反らし口を開けた。
『俺のしたい時だけ呼ぶよ。』と…
背筋が凍る。
気付けば手が勝手に動き彼の頬を殴っていた。
しかし、痛いはずの手の感覚などない。
涙を伝う頬の感覚もない。
体中が麻痺したかのように痺れ、彼の言葉を理解できないと頭が拒否している。
「最低…」
やっとでた裏切られたと言わんばかりの言葉。
今自分はどんな顔でどんな瞳で彼をみているのだろうか。
出て行こうとする自分の腕を掴む彼の手。
今更何をいっても遅いのに。
聞いたのは自分だけど。
だけど信じていた、そんな最低な言葉は決して言う人ではないと。
腕を振り払おうとするが、掴まれた腕はそのまま彼に方へ引かれる。
抗議の声を上げようと顔を上げるとそこには翡翠の瞳が自分を見下ろしている。
それは、いつものように温かみを感じるものではなく、少し寒気すら感じる冷たく綺麗な瞳。
解放された手で彼の胸を押し返そうとするが、それに彼は自分の手を絡める。
らしくない行動に栄子は驚き思わず手を戻そうとするが、彼の力と翡翠の瞳が栄子を捕らえて離さない。
熱を帯びた翡翠の瞳。
絡まる指。
そして近づく綺麗な顔。
栄子は、はっと我に返り寸前の所で彼の口元に手を当て止める。
怪訝そうに顔をゆがませる秀一に、状況についていけず、意味がわからない栄子。
彼女の止めた手にもう片方の手を絡め、その手に秀一は唇を這わし、熱の冷めない妖しい瞳を向ける。
「なっ…」
栄子は両手を振り払おうと力を入れるが、その反動で逆に秀一に引かれ、顎を手で固定される。
「いやっ!」
顔を逸らす彼女の頭を後ろから手で抑え上を向かすと、彼らしくない乱暴な口づけが降りてきた。
「んっ…」
優しいキスなどではなくまるで貪るような激しい口付け。
薔薇の香りと口内の熱さに、体から熱がこみ上げる。
息苦しく何度も酸素を取り入れ様とするが、それをも許さない。
「やめっ…」
顔を逸らそうとも彼の手と腕に捉えられ、彼の胸を押すがびくともせず、ただ強引にそれは続く。
秀一は止まらない。
何かが外れてしまったかのように彼女を欲する。
体が痺れて言うことを聞かない、栄子がそう感じた時、背中にベットに倒される衝撃を感じる。
彼はなにをしようとしているのか…
栄子は青ざめ、震えて力の出ない手で精一杯押し上げる。
(怖い…)
こんな彼は知らない。
これは誰?
栄子の瞳から涙が込み上げる。
「…そんなに…いや、か。」
その言葉に、はっとして栄子は彼を見上げた。
まだ熱を帯びた瞳が自分を見ている。
だがその表情は苦痛に歪んでいた。
なんでそんなに苦しそうな顔をするの?
「…送るよ」
翡翠の瞳が閉じる。