第11話 炎と狐
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ふわふわ
ふわふわ
体が揺れる。
懐かしく安心する香り。
少し目を開けるとそこには自分を見下ろす幼なじみ。
すこし切なげに眉を寄せた秀一の顔。
どうしたの?と聞きたいのに頭がぼんやりとして声が出ない。
よくある光景だ。
彼の顔がそこにあると安心する。
秀一はゆっくりと栄子を布団の上に降ろす。
「おやすみ。」
優しく頭を撫でられる。
安心する。
栄子は再び目を瞑った。
「蔵馬…おめぇ、大丈夫か?」
寝室から出てきた秀一に幽助が恐る恐る声をかけた。
なにが大丈夫なのだろうか。
狐はにっこりと微笑む。
「えぇ、彼女は今ちゃんと寝ましたから。」
「そうか…いや、おめぇに近づいて大丈夫か?」
まだ収まりきらない狐の殺気に青ざめる幽助達。
ただ一人を除いて。
狐の視線が彼に向く。
「貴様…死ぬか?」
先ほど狐の殺気を当てられた彼は怒りを含んだ瞳で狐を睨む。
彼女との再開をかみしめていたら飛んできた殺気。
人間ならば気絶してしまう程の妖気だ。
案の定、気を失った彼女を奪い運んだ狐。
「大事な幼なじみなんだ。手を出すな。」
狐の周りの空気が渦巻く。
「抱きついてきたのはあいつだ。」
「抱き返す必要はない。」
蔵馬にはわかっていた。
彼らしくない先程の行動がそれを語る。
「幼なじみの秀ちゃんとやらはえらく過保護なんだな。だからあんなに泣き虫になったんじゃないのか?」
口角を上げ皮肉を込めて言う飛影。
翡翠の揺れる瞳に金色がかかる。
彼女の口から飛影の話は聞いた事がなかった。
あれほど側にいるのに。
軽はずみに話せない程の仲だったのか。
じゃれている二人をみて抱き合っている彼らを見て生まれた嫉妬。
先程の飛影の発言から、彼は秀一との事を本人から聞いているらしい。
だけど、自分は何も知らない。
「……ふんっ。」
蔵馬の様子を見てか、これ以上言い争っても無駄だと踏んだのか、彼は黒のマントを翻し、ベランダの手すりに足をかける。
「蔵馬、ちょっとは落ち着け。新居を壊されたくないだろう、次殺気をあてたら殺すぞ。」
振り返らず言葉だけ紡ぐ飛影にすでに戦意は見当たらない。
冷静なのは彼の方だ。
彼は変わった。無駄な殺生はまずしなくなった、昔以上に冷静に状況を把握するようになった。
今回は、隣の部屋にいる彼女の身を案じているのだろう。
だけど、俺は冷静になれない。
自分は一体どれだけ子供じみているのだろうか。
「…飛影…あなたは…」
「誤解するなよ。俺は女なんかいらん。」
彼はベランダの手すりに飛び乗り、狐に背中を向けたままそう言い放つとそのまま闇に溶けていった。
狐は去った彼の闇をじっと見つめ目を伏せた。