第11話 炎と狐
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「飛影?だよね…」
もう一度確かめるように名を紡ぐ彼女を見て、ベランダに立つ彼は目を見開いたまま固まる。
狐は困惑の色を宿した瞳で後ろに立つ彼を見た。
邪眼師・飛影を。
すぐ側に居る幽助達は栄子も知り合いだったのか。と笑うが、たいして疑問に感じる事もなく、そのまま煙草をふかす。
「…なぜ、おまえがここにいる?」
揺れる赤い瞳に低い声。
やっと出た言葉は、少しかすれ震えたものであった。
変わらない飛影。
懐かしいその姿に栄子は目頭が熱くなるのを感じていたが、ぐっと堪える。
「なぜってあなたが魔界から返してくれたんじゃない。」
その言葉にその場にいた全員の瞳が彼らに向けられた。
幽助は思わず咳き込む。
「…なるほどな、そういうことか。」
何を納得したのか、飛影は細めた瞳を狐に向ける。
「飛影が秀ちゃんの友達だったなんて…ひっく、びっくりしたよ。でも、嬉しいなぁ…またあえた…!!」
出会えた事が嬉しくて、栄子は秀一の前から立ち上がると飛影の前まで行き、彼の手を取ろうとするが、案の定払いのけられる。
彼女は一瞬驚いたものの、目を合わせようともせずそっぽを向く彼の頬が少し赤いのに気付くと顔を覗き込み、にっこり笑う。
「久々なんだから飲もうよ!嬉しいんだから!」
強引に背中を押し部屋の中にいれる。
「おまえ…なにしてる!」
抗議の声を上げる飛影だが、本気で嫌がられていないのだと栄子は分かっていた。
ただ久々で恥ずかしいだけだろうと。
あの時と何も変わらない。
「どうせ今帰ったって、後で悪い事したとか…ひっく、思うんでしょ?なら中に入る!」
ぐいぐいと中に押し込む栄子。
そんな二人のやりとりを見て、幽助、桑原、ぼたんは、ただぽかんと口を開いたままだった。
「飛影に対してすげぇじゃねぇか…栄子ちゃん。」
ぽつりと呟く桑原に、幽助、ぼたんはうんうんっと首を縦に振る。
「貴様っっ、相変わらずだな、俺はただ寄っただけだ。すぐに帰るぞ!」
「えっ…すこく久々なのにしゃべろうよ。」
「貴様と話すことなど…」
「あっ、妹は見つかったの?飛影?」
「「「!!??」」」
全員の視線が彼に突き刺さる。
「…あぁ。」
舌打ちを交え答える。
飛影は先ほどから周りの反応が気になっていた。
注目を浴びるのは好きではない。
だが、そんな事は酔っている彼女は気付かない。
素面でも気付かないかもしれないが。
飛影は一人溜息を吐いた。
「そっかぁ、よかったね。よかったぁ~!」
満面の笑みを浮かべ抱きつこうとする栄子にぎょっとし、思わず彼女の頭を押さえる。
ひっつくな!と言う彼に栄子は本当に照れ屋なんだから、とふふふと笑う。
「…魔界知ってるわ、飛影の事も知ってるわ、一体どういう事だよ、おい?」
信じられない、と口を開いた幽助に狐は苦笑する。
「栄子は特異体質で何度か魔界に行っているようです。それで彼に会った、みたいですね。そうでしょう?飛影?」
「…あぁ。」
隣では一度だけだもの!!と叫ぶ栄子の姿。
「じゃぁ、別に俺たちも何も隠さなくってもいいんじゃねぇか?」
人間の栄子がそんな風に妖怪を受け入れてくれるのなら、隠す必要もないのでは…。
幽助は嬉しくなり秀一にそんな事を投げかけてみるが、そこには戸惑いを含む表情で微笑む彼。
幽助はう~ん…と頭をかく。
(幼なじみだもんな、今さらばれたくねぇか)
栄子は飛影をソファーに座らせると、自分もちょこんと隣に腰を降ろす。
「ねぇ、元気してた?」
「あぁ。」
居心地が悪そうに目を合わせず答える飛影。
周りの視線もそうだが、何より痛いのはこのどす黒い狐の視線であった。
「ねぇ、飛影…」
「…なんだ?」
「前みたいに、ひっく…しゃべってくれないの?」
うるうると涙目になる栄子に彼は自分の頭を押さえ本日何度目かの溜息を吐いた。
状況が状況だ。
再開を楽しみたい気持ちはあるものの、こんなに注目を浴びていたら素直になれない。
「飛影~!!」
しかし、そんな思考などおかまいなしに、がばっと自分に抱き付く栄子。
「なっなっ…」
「私はすんご~く会いたかったんだよ!お礼だって出来なかったし、お別れだってちゃんと出来なかったから!」
自分の胸に顔をうずくめ、わんわんと泣く。
飛影は一瞬、引き剥がそうと栄子の肩に手を置くが、彼女の触れたところが熱くて、気付けば熱に浮かされる様にそのまま抱き締めていた。
「泣くな、ばか。」
顔を切なげに歪ませた飛影。
その時、狐の翡翠の瞳が大きく揺れた。