第9話 指令
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そうして、コエンマの話も一段落ついた頃。
帰ろうと腰を上げた秀一を呼び止めたのは、この家の主、幻海であった。
「栄子は元気かい?」
ずずっとお茶を啜りながら秀一に問う。
「えぇ、元気ですよ。元気すぎて困る位です。」
「そうか…」
栄子は幻海と知り合いであった。
というよりも、不思議な力で何度か姿を消した彼女をひどく心配した母親が幻海にどうにかならないかと相談したのがきっかけである。
母親に消えるのを防ぐ術を教え、栄子とも何度か会ってはいる幻海だが、結局何が原因かわからないままであった。
ただ栄子はひどく幻海に懐いてしまい、たまに彼女に会いにくる。
最近では、これからの自分の振る舞いや一人暮らしなどの相談をしに、よく来るらしい。
秀一は栄子の母親から彼女の話は聞いていたし、実際何年か行方不明にもなっていた為、彼自身もひどく寂しい思いをしていた。
ただ、寂しいながらも不安ではなかった。
なぜなら秀一は全て知っていたからだ。
彼女はタイムスリップをして昔の自分と暮らしていたから。
そして、二回目の行方不明後、その記憶を失ったと聞いた時は、深く傷ついた自分がいた。
伝えるわけはない。
だけど忘れる事ができたのだと、報われないならそれが良いと思う反面、憎しみも湧いたのは事実だった。
もとより正体もこの気持ちも証す気もない狐。
幻海は知らない。
目の前にいる狐と彼女が過ごしていた事も。
狐の想いも。
なにも知らない。
幻海にとって栄子は孫の様なものらしい。
お互い他人だが今では家族同然の感覚のようだ。
「けったいな力を持ってしまうと、周りが心配してしまうねぇ。…ちゃんと見守ってやるんだよ?」
「わかってます。」
前回は彼女の母親がそれを止めていたのを秀一は知っていた。
数日前から胸騒ぎがしていた為、彼女の部屋に意識を飛ばしていたのだ。
「あんたが幼なじみだとちょっと安心するよ。あの子は結構抜けてるからねぇ…。」
「全くです。」
「霊気でもないし、妖気でもないあれはなんなんだろうねぇ。特異体質は専門外なんだよ、わたしゃ。」
そういうと幻海は湯のみを机に置き、おだやかな様子から一変。
じっと探る様に秀一に視線をやる。
「受けるんだろ、指令。」
秀一は少し口角を上げ、目を伏せた。
「だから、呼び止めたんですね。」
「…狙われるターゲットが栄子に似ているからね。もしかしたらと思ってね。」
「まだ、確実ではないですよ?」
「だけど可能性は高い。」
幻海は確実だとでも言いたげな力の籠もる鋭い瞳を向ける。
秀一は先程の飛影を思い出す。
「皆、なにかしら勘がいいんだなぁ…」
「なにかあったら来な。力になれるかはわからんが、囲ってやる事位はできるからね。」
ぶっきらぼうな彼女の言い方にはしっかりとした栄子への愛情を感じる。
「ありがとうございます。」
「好きでやる事にいちいち礼を言うんじゃないよ。」
幻海は少し笑うと、再び湯のみに口をつけお茶を啜った。