第8話 苛立ち
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家の近くまで車で送ってもらった栄子はお礼を済ませて足早に家に向かう。
そして自身の家の一歩手前で足を止めると、隣の家を見上げた。
(部屋の電気消えてる。…なんだ、寝てるのか―…)
そう思い、ほっと胸を撫で下ろそうとした時だった。
鼻につんっとした匂い
花の香りと何か異質な物が混ざった香りが彼女の鼻を掠める。
「この香り…」
最近嗅いだ香りだった。
振り返った先…
街灯の下によく知った影が映る。
「秀…ちゃん―…」
「おかえり、栄子。」
彼は形の良い唇で孤を描いた。
優しい笑顔の先にあるその翡翠の目だけは笑ってはいなかった。
ゆっくりと歩幅を縮める秀一になぜか後ずさってしまう栄子。
「どうして逃げるの?」
「なんか…秀ちゃん、いつもと違う匂いがする。」
秀一が近づくにつれ濃くなる香り。
これは…
以前の目の前で人が爆発した時の記憶が蘇る。
「血の匂いでもする?」
「!?」
くすりと笑う彼に栄子は一瞬にして背筋が凍る。
その言葉もありえないものだが、彼の口調と瞳が凍るように冷たく彼女を見据えていた為だ。
笑っているにも関わらず。
「…誰?」
一番明確な答え。
彼女にとって直感でしかなった。
「…秀一だよ。…栄子、こんな遅くまで何してたの?」
普段の秀一。確かに彼だ。
でも何かが違う。
何が違う。
「…ご飯に行って、映画。」
いつの間にか、後ずさっていた足は壁際に当たり、背中にコンクリートの冷たさを感じていた
「約束だったよね?」
ゆっくりと近づく彼。
追い詰められていると錯覚を起こしてしまうのはいつもの彼と違うからだろうか。
濃くなる薔薇とむせかえるような血の香り。
彼の指が栄子の頬に触れる。
どくんっ
映像が流れる。
銀髪の長い髪。
切れ長の金色の瞳。
(これは…なに…?)
頭が割れるように痛くなり栄子はその場にしゃがみ込む。
痛みでぼんやりする頭で秀一を見上げる。
優しく自分を包み込み暖かい温度。
薔薇の香り。
錯覚だったかのように異質な香りはいつの間にか消えていた。
「…ごめん、栄子。」
苦しげに耳元に響く彼の声。
「…秀ちゃん?」
彼は見上げた栄子の額にキスを落とし、ぎゅっと抱きしめた。
頭の痛みが引いていく。
薔薇と彼の甘い香りに包まれる。
驚いている栄子をよそに彼はただ抱きしめる腕に力をこめた。
『もう、限界だ…』
狐は唇を噛み締めた。
ただ、彼女に見えないように…。