第8話 苛立ち
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ちゃんとメールするからねっ!秀ちゃん!!」
玄関先の道路まで送ってくれた秀一に手を振る栄子。
「はいはい。」
「秀ちゃん!」
「ん?」
「映画見たらちゃんとすぐ帰るからね!遅くても12時までには絶対絶対帰るからね!」
「はいはい。」
単純だなぁ…としみじみ思う秀一。
栄子は歩きながらも何度も振り返り手を振る。
「転ぶから前見て、栄子。」
「はぁい!」
秀一はやれやれと苦笑する。
しかし栄子が見えなくなると秀一は一変して表情を変えた。
翡翠の瞳に影を落とし、孤を描いていた唇は固いものとなる。
彼は彼女が向かった逆の道に歩き出した。
「飛影…いるんでしょう?」
歩く足を止める。
黒い影が頭上を横切る。
そして、すぐ前に飛影が現れた。
「…薬草をくれ。」
ずいっと右手を出すぶっきらぼうな仕草に要件だけを伝える飛影。
「…怪我は、してないみたいですね。今すぐいるんですか?手持ちの分でいいならあげますけど…今からちょっと行く所があるので…。」
「……。躯の奴が怪我したんだ。」
いつもより冷たい声色の秀一に飛影は眉を寄せる。
「それは…珍しいですね。わかりました、これでいいですか?」
胸元から小さな袋を出し彼に渡す。
「俺は急ぐんで。」
再び歩き出し飛影を横切る。
「…どこにいく?」
「……慈善活動です。」
背中に飛影の舌打ちが聞こえる。
「蔵馬…憂さ晴らしもほどほどにしとけ。霊界に見つかったらやっかいだぜ?」
「……。」
「妖狐蔵馬とあろうおまえが自制がきかんのか?」
「……自制、か。」
歩く足を止め、空を見げる。
日は沈みかけ、足元の夕日の赤が自身の影を色濃く映し出す。
狐の血が騒ぐ。
彼女がまた近くにいるせいで。
日に日に自制がなくなっていく自分自身。
「狐は独占欲が強いらしい…」
秀一は自嘲気味に笑う。
「…悪霊共に同情するぜ。」
ただのストレス発散の為に殺されるなんてな…
飛影は呆れた様子で彼を見る。
「飛影、俺の事心配してくれているんですか?」
嬉しいなぁ、と秀一の形の良い唇の口角が上がる。
「どこを聞いたらそうなるんだ。」
馬鹿か、と吐き捨てる彼に秀一は苦笑する。
そんな秀一の様子に彼はふんっと鼻で笑い踵を返す。
「蔵馬、前はああいったが、幽助はおまえと同じだ。壊れる前に奴に言え。」
飛影はそう言うと、秀一の前から消えた。
辺りは静寂に包まれる。
「同じ…か。」
同じなわけがない。
似ていても決定的な違いがある。
秀一の翡翠の瞳が揺れる。
(さて…いこうか。)
切なげに揺れていた翡翠の瞳は、徐々に金に色を変え始めた。