第8話 苛立ち
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「…デート?」
「うんっ!そう!」
せっせと化粧ポーチや鏡を鞄に放り込む栄子。
つい10分ほど前に来た彼女は嬉しそうに頬を緩ませている。
そんな彼女に呆れた翡翠の瞳を向ける秀一。
たった今かかってきたショットバーの店長からの電話。
それはデートの誘いであった。
先日口を酸っぱくして言った事を彼女はもう忘れているのだろうか。
どうしたものか。
秀一は深くため息をついた。
「大丈夫だよ、映画行くだけだし!デートって行ってもただ遊ぶだけで…見たい映画なの。」
彼の呆れた様子に気付いてか、心配しないで、ね?と彼の顔を覗き込む栄子。
「……。」
「…だめ?」
しゅんとなる表情に、秀一は栄子の額に指を当て、
「だーめ。」
と弾く。
「いだっっ!」
座ったまま後ろに倒れそうになるが、なんとか踏ん張る。
「……そんなに行きたいの?」
その言葉に額を抑え涙目になりながら頷く。
かすかだが翡翠の瞳が揺れる。
「?…どうしたの?」
「…好きなの?」
じっと探る様な彼のまっすぐな瞳が栄子の瞳を捕らえる。
「ちっ違うよ、そんなんじゃないけど…」
耐えきれず思わずそれを逸らしてしまう。
「……。」
「好きは好きだけど、男性としてではないよ?」
あたふたと話す彼女に秀一はふぅんと目を細める。
「いいよ。行って。」
「えっ?」
「行ってらっしゃい。色気レッスンは次回だね。」
ソファーに気怠そうにもたれる秀一。
「あっ…」
(そうだった…)
元々彼の家に来た理由を思い出した栄子。
頻繁に秀一の家にお邪魔する彼女にとって今日彼の家にいる事すら自然になってしまい、本来の目的を忘れていたのだ。
最近恒例の色気レッスンは秀一の仕事後、栄子の早番終わりに彼の家で行われていた。
とは言っても最初に行われたようなものではなく、ただ言葉や表情だけのものだ。
「行っていいならなんでデコピンするのよ…」
「そんなの、嫌がらせだよ。」
形の良い唇でくすくすと笑う。
ぷぅっと頬を膨らます栄子。
「でもね、栄子…一つだけ…」
「?」
「前のような思いしたくなかったら、あんまり入りこんじゃだめだよ?」
恋愛は自由だけど、と心配気に微笑む。
(…そっか。本当に心配してくれてるんだ。)
そんな秀一の優しさに思わず涙腺が弱くなる。