第7話 忍び寄る影
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「マスター同じのもう一杯ちょうだい!」
「はいはぁい。」
「あっ、俺シャンディガフ。」
「私はシャーリーテンプル!」
「はいよ。」
開店からしばらくたった今。
店内のテーブルとカウンターは全て埋まっていた。
まだ開店といっても早い時間帯である。
なのにこの混み様。
実は竜崎。
バーテンダーだけではなく調理師の免許も持つ、料理好きなマスターだったのだ。
しかもとてもおいしいと評判で、グルメ雑誌にも載る位だという。
彼の料理を食べたいと彼のファンが早い時間から来るという始末。
「あっ、マスター!私エビと茸の和風ラザニア!」
「はいはい。ちょっと時間かかるけどいい?」
「いいよー!!」
食事系は開店前にだいたいは準備出来ているため、後はレンジで温めたり軽く焼いたりする位だ。
だが、竜崎もできるだけ手を抜きたくないのが本音。
厨房に入ると、料理に追われるためなかなか外には出てこられない。
なので後の事は、バーテンダーやアルバイトの皆に任せられる。
「栄子ちゃん、これ一番のお客様ね。」
「はぁい!」
居酒屋ではないため、それなりに店自体の雰囲気には品がある。
薄暗く、四方熱帯魚に囲まれた異世界アクアバー。
カップルも友人同士も多く、客は皆笑顔で明るい。
そんな中、忙しくてもイキイキと動き回る栄子。
客に呼ばれ、笑顔で向かい丁寧に注文を受けたり、世間話をする。
接客の種類は違うものの彼女は改めて自分は接客が大好きだと感じていた。
それから、時間が過ぎピークの波も落ち着き、客足も減り出す頃。
栄子は厨房でまかないを食べながら休憩をしていた。
カランッ
扉の音が鳴る。
客が来たようだ。
「いらっしゃいませ。」
竜崎の声が聞こえる。
どうやら客は男でカウンターに座った様だ。
食べるのを中断して、出て行こうとする栄子を社員が自分が行くから、と止める。
ならお言葉に甘えます、と彼女は再びまかないに飛びつく。
が、次の瞬間。
悪寒―…
背筋から凍りつく様な感覚。
冷や汗が額から溢れる。
(なに…これ…)
思わず両腕で自身を抱きしめる。
震えが…止まらない。
刺すような視線。
ホールから。
掴んで離さない様なこの粘着質な視線は…覚えがあった。
(逃げたい…)
『逃がさない…』
「!?」
頭に響く低い声。
『おまえは俺のものだ』
(…誰?)
『俺の嫁になるんだ…』
『栄子…』
視界が霞む。
動悸がする、胸が苦しい。
「栄子ちゃん!」
「!!」
名前を呼ばれ、彼女は気が付く。
目の前には心配そうな竜崎の顔があった。
「大丈夫!?なんかすごく震えてたけど、顔も青いし。」
ハンカチを取り出し、額の汗を拭きながら、こんなに汗までかいて…と心配そうに栄子を見る。
「あ……」
(今のは…なに?)
「なかなかホールに戻らないから見にきたんだ。…バイトの時間ももう過ぎてるから帰ったのかとも思ってたんだけど。」
「えっ…時間…」
そう言うと、彼は苦笑しながら時計に視線を移した。
「うっ、嘘…」
時間はすでにバイト時間を過ぎている。
さっきまでは確かにあと二時間位はあったはずだ。
あの悪寒は彼女に時間の感覚を失わせていたのだろうか。
栄子は再び意味がわからないと青ざめる。
「…栄子ちゃん?」
「…さっきのお客さん。」
「??」
わかるわけがなかった。
客はたくさんいたのだ。
第一、彼女はその人を見てはいない。
だが、彼が店に来た事とさっきの事とが関係ないとは思えなかったのだ。