第71話 最終章
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ーーー…
ーーー……
ザザァン
ザザァン
微かな潮の香りを風が運んでくる
飛ばされそうな白の帽子を手で抑え女は海を見ていた。
「ママ~!!」
遠くから自分を呼ぶ声に振り返る。
幼い子供二人が笑いながら駆けてくるその姿に笑みが漏れる。
「こらこら、こけるよ?…ん?どうしたの??」
しゃがみ込み子供二人と目を合わせる。
赤い髪の男の子と
茶色の髪の女の子
二人は姉弟。
「おねぇちゃんが僕のとったぁ!」
「ちがうでしょ、これはママのでしょ?!」
「??」
二人は何を話しているのだろうか。
半泣きになりながら女の子に指を差す男の子。それに女の子はフンっとそっぽを向く。
幼い男の子は少し泣き虫の、だが心優しい子。
それに反して姉である少女はどこか大人びた負けん気の強い女の子。
対象的と言って良い彼らはそれでも本当に仲が良い。
首を傾げる自分に娘である彼女は、はい!と握りこぶしを出す。
貝でも拾ってきてくれたのだろうか。相変わらず可愛い子達だと、親バカになりつつも手をだす。
「お魚さんからもらったものなの、それ。」
「ちがうよ、ママとパパの事知ってたもん!」
「?…誰かにもらったの?」
小さな娘の手からそれは彼女の手の平に落ちる。
キラキラ光るそれはー…
小さな貝殻の、ネックレス。
「これは…」
「これってなんの貝?」
男の子が覗き込む。
「私、これ見た事あるよ。…魔界の貝だよね?魔界の海が酸じゃなかった時にあったやつだ。パパの持ってた図鑑に載ってたやつだもん。」
「おねぇちゃん、ムダにちしきもってるね。」
「なんでも気になる性分なの。あんたが何でも無頓着すぎるの。」
「またむずかしいことばつかうし。」
「……。」
「?ママ、どうしたの??」
口元を抑え俯く彼女に女の子は心配そうに顔を覗き込む。
「あ、パパだ!」
男の子は父親を見つけたのか、そちらに駆けて行く。
「ママ、泣いてるの?大丈夫?どっか痛い?薬草あるよ?…パパから内緒でくすねたやつだけどね。」
小さな人差し指が小さな口元の前にいけば、女の子はしぃ~と内緒のポーズを取る。
「違うよ、これ、どこでもらったの?」
そう言えば、一瞬きょとんとする女の子だったが、次第に口元が結ばれ難しい顔になる。
「………。ねぇ、ママ、人魚ってまだいるんだね。」
「!!」
「人魚がくれたんだよ。それ。あの子は魚とか言ってたけど。」
あれは絶対人魚だよ。
と、女の子は小さく呟く。
「ママの知り合いでしょ?どことなく雰囲気ママに似てたから、初めはママが人魚になったのかと思ったんだよ!?」
「似てないわよ。怒られちゃうわ。」
どこか切なく笑う母親に女の子は眉を顰める。
「似てたよ。…なんとなく雰囲気が。」
「…その人魚さんはもういないの?」
「うん、泡になって消えちゃった。」
「……。ふふ、あの人らしい。」
「なんで笑うの?消えちゃったのに。」
「消えてないわよ。隠れただけ。」
「人魚姫の話だと死んじゃう時に消えるんだよ?」
そう言えば童話を思い出してか、私本当に人魚姫のお話って嫌い。と女の子は息をつく。
「どうして?」
「だって、王子も馬鹿だけど、人魚姫もそんなに命懸けれる程好きなら嫌われてもいい位の奪い取る気持ちでいかなきゃ。」
「私は好きだけどなぁ、人魚姫。健気じゃない。」
「ママは甘いわ。パパも言ってたわよ?どんな手を使っても愛は勝ち取るものだって。」
「……。貴方って、パパに似てるのね。」
「え?私が腹黒いっていうの?パパ程黒くはないと思うんだけど。」
「…ふふっ。」
「あ、来たよ。パパ達。」
ぱぁっと表情が明るくなる女の子。
「ママもいこ!!」
「…うん。」
ゆっくりと海の方へ振り返る。
キラキラ光る飛沫
夕日がゆっくりと沈んで行けば海は赤く色づいていく。
「人魚姫に会いたかったの?…消えてないならまた来たらいいよ。私もまた会いたいし。」
「…そうだね。」
「いこう、ママ!」
小さな手が差し出されれば、それを取る。
温かくて小さくて愛しい手を。
目の前にはまた愛しい人に愛しい子の姿が鮮明に映る。
胸に言いようもない温かさが溢れればギュッと胸元を掴んだ。
「栄子。」
変わらない愛しくも甘い声が私を誘う。
出された暖かい手をまた取る。
振り返れば夕日が海に沈んで行くー……
ー…波が運んでくる、変わらない愛とこれから紡いで行く未来を。
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