第71話 最終章
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赤い髪が揺れる
真っ白のスーツに身を包んだ愛しい人の姿が目に入る
微笑み手を差し伸べられれば、さらに頬に赤みが差す
周りの歓声の中、彼の手を取れば
「今日は一段と綺麗だね。他の奴に見せるのが惜しいよ。」
と耳に顔を寄せ柔らかい声で囁かれた。
弾ける様に彼を見上げれば
今までに見たこともない様な甘い甘い笑みを浮かべていた。
ここまで来た、私達。
生まれた時から側にいて兄妹の様に育って当たり前の様に側にいた。
小さな頃は戯言の様に言っていた彼との結婚
『わたしはしゅーちゃんとけっこんするのー!!』
その度にどこか悲しげに笑みを浮かべ頭を撫でてくれた彼。
結ばれないと思っての彼の心理が幼く何も知らない私に分かるはずもなかった。
神父の言葉を互いに復唱し
神の目の前で愛を誓い合う
見つめる翡翠の眼差しに金色が帯びる。
(…蔵馬。)
銀髪の妖狐が目の前の秀一と重なる。
ひとりなのに見目が全く違う彼ら。
それでも同じ人なのだがら、理屈で考えるのはとても難しい。
ベールが上げられれば
見つめるその眼差しと目が合う
「神に君との愛を誓うときが来るなんて、滑稽だよ。」
からかう様に小さく呟くもどこかその言葉は優しく、彼は形の良い唇で弧を描き「でも…」と唇を近づけ触れそうな距離で囁く。
「君のこの姿が見られるなら建前だけでも意味がある。」
酷い言葉だと思う。
誓いの言葉が建前だと、目の前の男は自分に平気で言っているのだ。
気分も何もあったもんじゃない、そう思うのに…
-…あいにく誓いで括れる程の想いじゃないんだよ。
と低く艶めいた声が耳に入れば唇に触れる優しいそれ。
本当にキザだがそれでも身に染みてわかっている、その思い。
(…秀ちゃん…)
その時だった
どっっがぁーん!!
耳を塞ぎたくなるほどの激しい音と爆風に大きな揺れ。そしてがらがらと落ちてくる天井。
とっさに秀一に抱き上げられ落ちてきた天井を回避した栄子。
あたりに舞う砂煙
友人や親族の悲鳴が立ち込め
何人かは外に脱出しているようだ
青ざめる。
意味の分からないアクシデントに放心する。
「大丈夫、怪我人はいないよ。ちょうど俺たちの真上だったしね。」
天井を見上げる秀一に栄子も意味が分からずただ見上げた。
ぱらぱらと上から落ちてくる破片ー…
天井の大きな穴から入る日差しが顔に掛かれば、そこににょきっと出て来た黒い影に目を細める。
それは、ひゅうっと軽い口笛を吹き、ちょっと派手にやりすぎたな…と苦笑すればひらりと二人の前の積まれた瓦礫の上に飛び降りた。
さらにガラガラと崩れる天井
舞い上がる粉塵
「彼女」は周りを見回し怪我人がない事を確認すればに視線を二人に映す。
それに目をまん丸に見開く栄子。
「む、躯…さん」
「久々だな、栄子ちゃん。会いたかったぜ。」
口をぽかんと開け驚く栄子。
そんな彼女を躯の視線が下から上までじっと見据えれば、顎に手をあて「なるほど。」と口角を上げた。
「俺に連絡をよこさなかった理由が分かったぜ、この腹黒狐。」
そして不機嫌な声と共にその視線は隣の秀一に向けられた。
「……躯。」
ありえないとばかりに秀一の瞳が据わっていく。
しかし、そんな二人の雰囲気に気付かない約一名は久々の魔界の友人の登場に先程の恐怖も忘れ、秀一の腕から降りれば、躯に抱きつく。
再び口笛を吹く躯に、眉を寄せる秀一。
「躯さん!!会いたかったです!!会ってくれたの初めだけだったし、それからはいつもいつも忙しいって会ってくれないし…!!私、もう魔界に行っちゃだめなのかと思って…うぅ…」
涙腺の緩む彼女の頭をよしよしと撫で、「それは初耳だな。」と笑みを浮かべる。
「…栄子、早く離れて。」
「躯さぁ~ん!!!」
「……。(イラッ)」
わぁ~ん!!と躯に泣きつく栄子をこれ見よがしに抱きしめる躯。
そして…
「腹いせなんかじゃないぜ、ちょっと手元が狂ったんだ。なんだ、蔵馬…ん?ぶち壊す?まさか、俺がそんな非常識な女だと思っているのか?それはそうと栄子ちゃん、この式場はもうだめだ、他を用意したんだがそっちに移らないか??なに、皆連れて行けばいい。」
たんたんと意味不明な発言をする躯に額に青筋の浮かぶ狐。
式場を用意している時点で意味が分からない。
この式をぶち壊すつもりだったのが見えみえだと目の前の女に殺意すら浮かぶ。
だが、どんな不本意な事でも今この状況で式を続けることは無理だ。
「そんな勝手が許されるわけないでしょう。それにここには何も知らない親戚や友人も-…」
「奇琳に誘導させている。今頃何組かは魔界行きの飛竜の腹に乗ってるぜ?快適な空の旅だ。特別なアトラクションだと全員思ってる。…睨むな、帰るときに記憶を消せば問題ないだろう?」
確かにそういえば、耳の良い狐の耳に入る協会の外の皆の楽しげな笑声。
「……。」
「すごーい、さすが躯さん。」
と再び躯に抱きつこうとする彼女を(両腕を広げてる躯から)引き離す秀一。
「俺を呼ばないからだ。馬鹿狐。」
ふんっと鼻で笑い呟く躯に、狐は眉を寄せる。
式に呼ばれなかった事を根に持っている躯。栄子が躯に送った結婚式の送り状は狐の手に寄って届け主の元へ付くことはなかったのだ。
なぜならー…
「しかし本当に綺麗だぜ、栄子ちゃん。連れ去りたい位だ。」
冗談半分、本気半分の躯のセリフ。
人間界に帰って半年程すれば躯に会いたいと言い出した彼女。
そして図ったかの様な奇琳からの呼び出し。
あれほど奇琳には釘を打っていたというのに、散々泣きつかれ、挙句に魔界を滅ぼす性悪狐だ、などと言われ渋々魔界へいったとは言うまでもない。(プラス彼女に散々ご機嫌取りをされ嬉しくなった狐)
しかし、魔界の躯の元へ連れて行けば…
数ヶ月滞在させられた。
仕事やプライベートな付き合いに関しては魔界から人間界に通うという形。
狐に関してはすぐさま帰れ、滞在を許可した覚えはないと言い切る躯だったが、彼女に関しては、何を言われたのか「私、まだ帰れないの。躯さんと色々約束してて。」と帰るのを拒否する彼女に躯の執着の面倒臭さを改めて知る。無理やり連れて帰ろうとするも帰る気のない彼女はなかなか強情で、まんまと数ヶ月待たされた。
飛影曰く
躯は男は無理だが女はいける、やら
黄泉曰く
あれはなかなかやっかいだ、気をつけろ
など聞くうちに彼女に無理強いはしないと信用しているものの、どこか不安になった。
そしてたまたま廊下で話す彼女達二人の会話
「この賭けにお前が負けたら約束とおり栄子ちゃんは俺の嫁だ。俺が負けたら三年分の菓子をたらふくやろう。乗るだろう?」
……。
なんだ、この賭けは。
「お、お菓子、三年分!!?」
目を輝かせる恋人は脳内が危険だ。
一生と三年分を測れない彼女。
ー…これ以上、ここに居ては危険だ。
躯は賭け事には容赦がない。
咄嗟にその場に出て不機嫌を露わにする躯を払えば、その後半なかば強引に連れ帰ったとは言うまでもなかった。
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